「全部自分が悪い」と叫ぶ君に捧ぐ、ある文豪の弁明『闇中問答』より

ランタンを見つめる文学美女

「私が全部悪いんです」

そんなふうに自分を責めていませんか?

もしあなたが自分に刃を向けて、全身をグサグサ突き刺しているのなら、ちょっとここらでお話しましょう。

というのも、私も自分を責めまくっていたんです、「私が悪いんです何もかも」と言って。

今はどうなのかと聞かれると、どうなんですかね、ナイフを指し棒に持ち替えたって感じですかね、「お前、ここダメダメだぞ!」ピシピシって。あるいは、まち針でプスプスって。そうです、つまり、ナイフを突き刺して皮膚を破ったり肉をえぐったりすることはなくなったってことです。

でも、「私が悪い」と思ってるときは、自分を責めるという意識とはちょっと違っていた気がするんですよね。「責めるも何も事実でしょ? 私が悪いんです!」って。

だから、「そんなことないよ」という言葉はあまり響かないというか……、その言葉よりも他に欲していたものがあったように思います。例えば、無条件に受け入れてもらうこととか。もっと具体的な行動で言うなら、抱きしめてもらうとか? これは人によると思うんですけど。

全て自分が悪いと考えてしまうようになったのはなぜか?

私がそうなった理由を考えてみても、特にこれといったエピソードが思い出されるわけでもなく、何となく「私が悪い」的思考をジワジワ蓄積してきた感はありますが、よくわかりません。

でも、誰かが「全部私が悪いんです」と言っているのを聞くと、見えてくるものがあるわけです。あぁ、この子はいろんなことを一人で背負いこんで我慢してきたんだなとか、親や周りの人たちに批判的な言葉を浴びせられてきたんだなとか。その言葉からは今にも「苦しい、助けて……!」という呻き声が聞こえてきそうで、そういう人の存在を知ると、「うん、わかったよ、よしよし」って抱きしめてあげたくなりますよね。

まぁそういうわけで、事情はどうであれ「私が全部悪い」と叫んでいるとき、その人は苦しみの中にいるんだなぁと思います。

ならば、苦しみから抜け出すための道を探しましょう! と話を進めていきたいのですが、そう簡単にはいかないんですね。というのも、「私のような悪い人間は苦しみ続けなければならない」などという思考を持っていることもあるからです。

こりゃこりゃこりゃ、困りました。でも、その感じめっちゃわかる。「なんで私ばかりこんなつらい目に遭わなくちゃいけないんだ」と誰かに怒りを向けたくなるのだけれど、誰かのせいにしようとする自分に気づくと「こんな罰当たりな人間は苦しんで当然」と結局自分の首を絞めてしまうとか。ヤバいですね。ヤバいくらい苦しいにもかかわらず、こういう考えがなかなか簡単に手放せない。なんでですかね?

まぁ何にせよ、苦しみたい人はいないと思うので 、自分を全否定する思考をほぐす考えを取り入れていきませんか? という提案を今からします。

「私が1/4悪いんです」

『闇中問答』という芥川龍之介の遺稿があります。目に見えない謎の声と「僕」の対話で構成された話です。

問答の中で、お前がこれまでしてきたことの責任はどうする? と問われた「僕」はこう答えます。

四分の一は僕の遺伝、四分の一は僕の境遇、四分の一は僕の偶然、――僕の責任は四分の一だけだ。

へ、屁理屈!

でも、確かにそうなんですよね。自分の力でコントロールできないことはたくさんあるし、100%誰か一人の責任だと断言するのは難しいことです。もちろん、言い逃れできない過ちや形式的に全責任を取らなければいけないことはあります。

ただ、「私が全部悪いんです」と叫んでいる貴方は多分そうじゃないと思います。別に決定的な過ちを犯したわけではないでしょう? 「私がちゃんとしないからいけない」? 「私の存在そのものが罪」? いや、それ罪じゃないから。

正確な割合を出すことはできませんが、自分の責任が100%ということはないので、「私が全部悪いんです」と思ったときは、「私が1/4悪いんです」に変換しましょう。75%割り引くのが忍びなければ「私が半分悪いんです」でもいいかもしれないですね。

もし「責任が四分の一だとしても他の要因が自分にあることには変わりない。つまり僕が全部悪い」とか思っちゃった人は、「1/3の純情な感情」を一緒に歌いましょう。特に意味はありません。

「そんなに自分を責めないで」と言われたって何の救いにもならないんだよと思ったときは

ここまでの話を聞いて、「あぁ、やっぱり私は悪いんだ」と思った人もいるかもしれません。割合がどうであれ、私が悪いことに変わりはないって。

私がそうだったんですけど、グレーゾーンがない考え方だと、「悪い」に苦しめられやすくなります。自分の中に「良い」「悪い」しか答えがないので、「良い」じゃなければ「悪い」だし、ちょっとでも「悪い」なら「悪い」になってしまうんです。「どちらでもない」が存在しない白黒思考です。

【関連】何でも白黒つけてしまう人が知るべき真実 ~どっちつかずの生き方~

先ほど「別に決定的な過ちを犯したわけではないでしょう?」と言いましたが、もし何か決定的な過ちを犯したのだとしても、「私が全部悪い」という主張はちょいと違います。この話は長くなりそうなので割愛しますけど、「死刑でいいです」で万事解決にはなりません。

で、私がここで言いたいのは、「そんなに自分を責めなくていいんだよ」ってことなんですけど、そう言われてやめられるなら苦しんでないわけで、じゃあどうしたらいいのかな? と考えてみて思いつくのは、具体的なエピソードを書き出してみることです。

「具体的に何が悪かったの?」

この問いに適切に答えられるようになると、痛みは変わってきます。

でも、現実と向き合うのはしんどいので、これは時間をかけてやっていけばいいと思います。そんでもって、「私が悪いんです」と自分を責めている人の中には、「あなたは何にも悪くないよ!?」って人もいると思うんですよね。なので、何でもかんでも白黒つけるのをやめるところから始めて、少しずつ否定をゆるめていけたらいいのかなーと思います。

『闇中問答』で、自分の責任は四分の一だけだと言った「僕」は、謎の声に「お前は何と云ふ下等な奴だ!」と言われています。それと同じような声が自分の中から聞こえたら、そのボリュームも1/4に絞っておきましょう。いや、「全部自分が悪い」という思いが拭えないうちは、ミュートにしちゃった方がいいですね。手のひらで両耳を塞いで連打しながら「ああー聞こえない聞こえない」と言うとごまかせます。

自分責めモードに入りそうになったときは、楽しいことをしましょう。楽しいことが何もないときは、寝ちまいましょう。眠れないときは、うーん、どうしましょうね……手前味噌で恐縮ですが、このブログを読むっていうのはどうですか?  

ちょっとでも苦しい時間をやり過ごすお手伝いができれば幸いです。

 

<本日の一冊>
芥川龍之介 「闇中問答」

↑Amazonの商品説明ページ、「闇中問笑」になってますけど。「或阿呆の一生」や「河童」も収録された一冊です。これを読めば、芥川龍之介が抱いた「将来に対する唯ぼんやりとした不安」がいかなるものかわかるかもしれません。

青空文庫でも読めます。
芥川龍之介 闇中問答

3 COMMENTS

ぱっくん

毎回参考にさせていただいています。最近薬のせいか気分も落ち着いて寝たきり脱出。パート先も新しい所をみつけ週2ですが頑張れていました。

それで昨日までテンション高めで楽しかったのに、夫に相談せずある契約をしてしまい帰宅した夫に注意され号泣してしまいました。
冷静に考えて夫の意見は間違ってないし、今だと多分クーリングオフできるのでそんなに落ち込むことないのに気分は急降下で「なぜ契約する前夫に相談しなかったんだろう➡私ダメ」「クーリングオフしたら担当の人や紹介してくれた友達に迷惑かけてしまう。➡私ダメ」思考で苦しいです。

Mっけがあるのか自分を責めますね。他人のミスには優しいのに。
自分に優しく。過去と未来じゃなく今を生きる。わかっているつもりなんですけどね。中々難しいです。鈍感力をつけなければ。

返信する
香菜子

香菜子と言います。私は自分大好き人間で、自信家で強気な性格だと感じています。これまでは自分大好き人間なのは決して悪いことではないはずと思っていましたが、人間関係トラブルなども多くて、最近は私香菜子が自信過剰・自己中心的で傲慢高飛車な性格なのが嫌われる原因ではないかと被害妄想になっていて、自分大好き人間から自己嫌悪人間になってしまっています。自分大好き人間と自己嫌悪人間の中間が一番だとは思うのですが、うまくバランスが取れません。香菜子

返信する

今自分は地獄にいます。
あることが原因で精神的に追い詰められてまだその状況はかわらず、不安や強迫観念も異常にでてきて、身体にも異変がでてきて、死にたい願望がとまりません。ただ子どもや旦那、両親などのことが心配で死ねない…。
この辛さは言葉に出来ないし、わかる人はいないと思ってて…でも何かに、どこかに助けを求めてる自分もいて…。フッと『助けて』と検索してみたらなみさんのたくさんのブログが目に入りました。読んでて涙が溢れました。
毎日、無意識になみさんのブログを読んでます。
今の状況がまだまだ続くことがわかっているので、気持ちを切り替える余裕が心にないのですが、少しでもわかってくれる人が世の中にいるんだ。と考えることができました。
半年後、一年後、私は頑張って生きているのか、耐えられずこの世にいないのかわかりませんが、なにかの時になみさんの言葉を思い出しながら日々をやり過ごしていきたいです。
長文失礼しました。

返信する

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です