心を軽くするヒントが満載『いやな気分よ さようなら』感想

『いやな気分よ さようなら』は、自分で学べる認知療法のガイド本。

うつ病のバイブルとも言われ、英語版では300万部以上売れているのだとか(2013年の案内パンフレットより)。

日本でもロングセラー本として書店で紹介されています。Amazon楽天などのレビューもおおむね高評価。

実際に読んでみると、それらの評価に納得です。

認知療法の解説本でありながら、親しみやすい語り口で、初心者でも入りやすい。プラス、実践しやすいテクニックとアイデアがたくさんつまった充実の内容です。

お値段がちょっとお高めですが、4,000円弱出して読む価値はあったなと満足しています。合う合わないはあるにせよ、人におすすめを聞かれたら、この本は確実にリストに入れますね。

一度通して読むだけでも学ぶことは多くありますが、私の場合は、気になる部分をくり返し練習することで、心をラクにするコツを習得できました。

このページでは、『いやな気分よ さようなら』のさらに詳しい感想と、どんな人におすすめの本か詳しく紹介していきます。

『いやな気分よ さようなら』のおすすめポイント

まず、本書のよかったところを挙げてみます。

気持ちをラクに過ごせる時間が増える

悲観的な考え方が染みついていると、その不合理さになかなか気づけません。

しかし、本書を読んでいると、ネガティブ沼にずっぽりハマっている自分を見つけられます。その見事さに思わず笑ってしまうこともあるほど。

「心をつらくする考え方」と「心をラクにする考え方」の違いをわかりやすく説明しつつ、それなりに共感も示してくれるので、間違いも受け入れやすい。

読み進めるにつれて、気持ちを切り替えるコツもつかめます。その結果、穏やかに過ごせる時間が増えるというわけです。

話しかけるような文体が心地よい

気軽に会話しているような文体なので、読みやすいです。

ユーモアたっぷりのたとえも親しみやすく、わかりやすい。アメリカ人っぽいノリも楽しいと言えば楽しい(うつのときは楽しくないけれど)。

己のダメっぷりに打ち負かされたとき役立つユニークな例え話」で紹介したような、フフッとなる小ネタも散りばめられています。

「頑張って勉強するぞ!」と気張らなくても学べる本書。軽い「うつ」であれば、気になったページをパラパラ読むだけでも、暗い気分から抜け出すきっかけを見つけられます。

共感できる実例、納得感のある回答でスッキリ!

実際にワークに取り組んでみると、「何を書いたらいいかわからないよ~」と手が止まってしまうことがあります。そんなとき、本文で挙げられている具体例が参考になります。

○○さんが何に悩んでいて、どんな生活を送っていて、その中でどうやって気持ちをプラスに変えていくのか。イメージを映像で思い浮かべられるくらい詳しく書かれています。

それらのエピソード(むちゃ食いしたり、「ダメだダメだ」「私は母親失格だ」と自分を責め続けたりする人の言葉など)に「わかる~」と共感し、「自分だけじゃない」と安心感を覚えるなど。

例として挙げられている彼らのワークと解決策を読んでみるだけでも「なるほど!」とスッキリすることがあります。

自分のペースで、ムリなく学べる

認知行動療法は専門家と取り組むのが良いと言われますが、人との付き合いが負担に感じるときには、それだけで気を遣って疲れてしまいます。

そんなとき、自分一人で学べるワークはありがたい。余計なプレッシャーがないので、のびのびできます(自分でプレッシャーをかけてしまう人もいますが、そういうときの対処法も本書に書いてある!)。

自分で納得してからじゃないと次に進めないタイプの人は、本を読んでじっくり学ぶ形式がぴったりだと思います。

問題解決能力が身につく

「考え方を変えましょう」みたいなふわっとしたアドバイスに、「は?だからそのやり方を教えろよ」と言いたくなることありませんか?

本書では、その要望に応える具体的なアイデアが紹介されています。

どれも精神論ではありません。やり方も丁寧に説明されているので、あとはそれを実践するだけです。

中には少々面倒なワークもありますが、簡単なアクションで気分が変わる、そんなハウツーも紹介されています(例えば「ネガティブな考えをマイルドにするダブルカラム法」や「「すべき思考」を取り除く7つの技術」など)。

これらの気持ちを立て直す術をくり返し練習すれば、冷静かつ客観的に物事を見通す力が磨かれます。

習得したテクニックは、さまざまなシーンで応用できるので、選択肢のバリエーションが増え、視野が広がります。

広い視野で物事を見通せるようになると、自分にとってベストな解決策を導き出せるようになります。

それこそが「問題解決能力」!

この一冊でそれをガッツリ学べるのは、けっこうすごいことだと思います。

「う~ん」なところ

本書は読む価値があるし、「おすすめですか?」と聞かれたら、「おすすめです」と断言できます。

でも、だからといって100点満点というわけではありません。

「う~ん」と思うところをいくつか挙げてみます。

ボリュームたっぷりで読むのが大変

文章の分量が多く、字もぎっしりなので、気軽にパーッと読破できる本ではありません。全824ページです。

デカい、重い

物理的にも威圧感がすごいです。

デカいし(厚み3.8cm)、重い(手元の国語辞典より重い)。

そのため、ひどく憂鬱なとき手軽にパラパラめくる気分にはなれません。場所も取ります。

翻訳の文章がちょっと読みにくいカモ?

「なんか回りくどい言い方だな」と感じるところがあります。

ただ、個人的には、いかにも「翻訳しましたー」という文章はキライじゃないです。なぜなら、外国の人が話す姿をイメージできるから。「日本の空気とはちょっと違うかもだよ」という前提で読み進められるので、便利と言えば便利(?)。

値段が高い

お値段は3,680円+税。コンパクト版でも2,500円+税。

気軽にひょいと買える本ではありません(ただし、内容の充実度を考えるとコスパ抜群なので、中途半端な本を2,3冊買うよりはこちらを買うのがおすすめです)。

コンパクト版については後述します。

情報が古い

初版は1990年、改訂版は2004年です。

臨床研究や薬に関しては、新しい情報をあわせて参照した方がいいと思います。

認知療法の基本的な考え方については、今でも十分役に立ちます。

認知療法だけでうつ病が治るかのような印象を与えている

「読書療法スゴイぞ!」「認知療法は薬物療法と同じくらいの効果があったよ」など絶賛の言葉が並んでいるので、それだけでうつ病に対処できるような印象を受けてしまいますが、必ずしもそうではありません。

場合によっては、薬物療法を優先すべきケースもあります。

このことは第一部と第七部にしっかり書かれているのですが、ノリ的に誤解されやすい雰囲気がある気がします。

とはいえ、再発予防に認知療法が効果的であることは間違いないでしょう。

あくまでも考え方・行動にアプローチするもの

本書に関して何となくモヤモヤするのは、「これだけで問題が解決するなら苦労しないよね」あたりの思い。

著者のバーンズ先生曰く、認知療法は現実的な問題を抱えている人にこそ有効とのこと。その意見に同意しつつも、やっぱり現実的に困難な問題はあるわけで。特に環境に問題がある場合には、他のアプローチが必要です。

とはいえ、何をするにしても、行動を起こすには前向きな態度が必要。モチベーションをよい方に向ける方法として、本書で示されている考え方は役に立つと思います。

うつ症状が重いときに読むのはキツい

この本に限らないことですが、うつ症状が重いときボリュームのある本を読むのはかなり大変です。というか無理。

さらに、悲観的な考え方に支配されていると「は?」「んなことわかってんだよ」「偉そうに」「うるせーな」など、ささいな言葉にイラついてしまうこともあります。あるいは「やっぱり私はダメなんだ」「こんな私はもう死ぬしかない」と落ち込んでしまったり。(参考:「認知の歪み?どうせ私は歪んでますよ」認知療法への抵抗感

そういうこともあって、ワタクシ『いやな気分よ さようなら』は二度挫折しています。確か10ページも読めなかったような……。前置きが長いですしね。三度目のチャレンジは、かなり症状が回復した頃に読みました。カメのペースでゆっくり少しずつ。

一人で取り組むには粘り強さが必要ということでしょうか。読むタイミングを選ぶ本かもしれません。

こんなとき読むと心が軽くなります

  • ネガティブ思考をやめたいのにやめられないとき
  • やる気が出なくて、行動するのがおっくうなとき
  • 何だか元気が出ないとき
  • 自分の考えを整理するガイドがほしいとき
  • イヤなことがあったとき
<本書で扱われているテーマ>
・落ち込み
・かなしみ
・憂うつ
・虚無感
・完璧主義
・自己評価の低さ
・罪悪感
・怒り
・絶望感
・自殺  などなど

これらの克服法やコントロール法を学べます。

こんな人におすすめ

  • うつ治療中の人(回復期、予防のために使うと効果が高そう)
  • ネガティブ思考で落ち込みやすい人
  • 感情のコントロール法を知りたい人
  • 人生がつらいと感じている人
  • 認知療法を自分のペースで学びたい人
  • 本を読むのがキライではない人(活字が苦手な人はちょっと大変かも)

本書の上手な使い方

とにかく紙に書いてみる。

これだけで効果がグッと上がります。

その際、本書の実例はとても参考になります。

手元に置いて、辞書を引くように使うのが便利です。ただ、目次があまり親切ではないので、オリジナルの目次を作っておくと使い勝手がよくなります。

もちろん、すべて通して読むだけでもOK。「なるほど」と思える部分がたくさんあります。

コンパクト版との違い

『いやな気分よ さようなら』には、2種類の版があります。

増補改訂第2版(通常版)とコンパクト版です。

通常版は824ページ。コンパクト版は488ページで、「第7部 感情の化学」を省略したバージョンです。

それぞれの違いは「『いやな気分よ さようなら』通常版とコンパクト版の違い」で詳しく紹介しています。どちらを買えばいいか迷ったら参考にしてみてください。

英語版『Feeling Good』はKindle版があります

いずれも現時点(2018年3月時点)で、日本語版の電子書籍、Kindle版は出ていません。

が、英語版は、Kindle版、ペーパーバック、マスマーケット、CDがあります。

Kindle版は760円、マスマーケット版(週刊誌のようなざらざらした紙の本)は1,031円。日本語版に比べるとかなりお手頃ですね。

最後に、『いやな気分よ さようなら』の目次と、本書を参考にしたエントリをまとめておきます。

『いやな気分よ さようなら』目次

序章

第一部 理論と研究
第1章 うつ病治療の画期的進歩
第2章 どうやって気分を診断するか:治療の第一歩
第3章 自分の感情を理解する:考え方で気分は変わる

第二部 応用
第4章 自己評価を確立することから始めよう
第5部 虚無主義:いかにして克服するか
第6部 言葉の柔道:批判を言い返すことを学ぶ
第7部 あなたの怒り指数はいくつか:怒りのコントロール法
第8部 罪悪感の克服法

第三部 現実的なうつ病
第9章 哀しみはうつ病ではない

第四部 予防と人間的成長
第10章 憂うつの根本的な原因(暗黙の仮定を見出す)
第11章 いつも認められたい(承認中毒)
第12章 愛情への依存
第13章 仕事だけがあなたの価値を決めるのではない
第14章 中ぐらいであれ!:完全主義の克服法

第五部 絶望感と自殺に打ち勝つ
第15章 最終的な勝利:生への選択

第六部 日々のストレスに打ち勝つには
第16章 自分の理論を私自身にいかに当てはめているか

第七部 感情の化学
第17章 「黒胆汁」を探して
第18章 心と身体の問題
第19章 一般的に処方されている抗うつ薬について、心得ておくべきこと
第20章 抗うつ薬療法のための完全な消費者ガイド

『いやな気分よ さようなら』を参考にしたエントリ

読み物系

テクニック集

これらの内容を読んで「いいな」と思った方は、『いやな気分よ さようなら』おすすめです。

認知療法+薬物療法について知りたい方は、通常版を。それ以外の方は、コンパクト版をどうぞ。

詳しくは「『いやな気分よ さようなら』通常版とコンパクト版の違い」をご覧ください。

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