『イグアナの嫁』を読みまして。
『ツレがうつになりまして。』の作者・細川貂々さんのイメージが変わりました。
私の中の貂々さんは、明るく前向きに夫を支える献身的な妻。マンガ家というクリエイティブな仕事をする才能にあふれた人で、ユーモア・優しさ・ゆるさのバランスが絶妙で、ツレの良き理解者で、藤原紀香で宮﨑あおいで……といった具合に、スーパーキラキラウーマン像を勝手に作り上げていました。
いや、もちろんその通りなんですけど、それだけじゃなかった。
冴えない無職時代があったり、2週間でバイトを辞めてしまったり、ひたすらゴロゴロ寝て、ダラダラ無為な時間を過ごして、負のオーラをまとって不幸をまき散らす女。
そんな姿がこの本には描かれています。
貂々さんも、ご自身のことを「マイナス思考クイーン」なんて言っていて、ツレさんには「なままけ姫」と命名されてしまうほど。
彼女にもそんな時期があったんだと、ちょっと安心。誰にだって不遇のときがあるのだと励まされる思いでした。
うつとイグアナとなままけ姫
『イグアナの嫁』は二人と一匹の物語。
イグアナのイグとの出会いから、その成長の過程が描かれています。
イグとの暮らしの中で、貂々さんとツレさんがどんなふうに過ごしてきたか、うつ病になるまでにどんな経緯を辿ったか、ユーモアを交えながら語られます。
貂々さんのターニングポイントとも言えるのが、うつになったツレ、発情期のイグと共に過ごした日々。
「最もテンションの低い夫」「最もテンションの高い息子」を前に奮闘しながら、マイナス思考クイーンはプラス思考を手に入れます。
貂々さんの本を読んでいて思うのは、彼女のクールな態度と鋭い観察眼。しんどくて大変なはずなのに、それを感じさせないゆるっとした作風、苦境をも面白がる視点が魅力です。
『ツレがうつになりまして。』と同様、重すぎず、でも大事なポイントは外さず。そんなふうにバランスが取れているからこそ、描かれたシーンがそのままストンと入ってくるのかなと感じました。
苦しみを消化するコツ
私が『ツレがうつになりまして。』を読んだのは、うつ病と診断されてウンウンうなっていた直後、ピークを越えた頃でした。
まさに、ツレと同じように布団を頭からかぶった「カメフトン」状態。
それを面白がる貂々さんを見たとき、絶望の中にいながらも、心がちょっとだけゆるむ感じがしました。
悲観し過ぎず、ありのままを受け入れてくれる人がいることに安心したんだと思います。当時の記憶は曖昧なので、都合よく解釈しているだけかもしれませんが。
貂々さんのスタンスは『イグアナの嫁』でも同じ。イグが14階のベランダから落下する危機を迎えたときも、欲情を抑えきれなくなったイグに噛み付かれて大ケガを負ったときも、それをネタとして昇華し、ドロドロしたものをホワホワっと包んでしまいます。
どんな状況でも受け入れてしまう貂々さん。
そういう捉え方や人生を面白がる能力は、生きていく上で欠かせないものなのかもしれません。
最後に
ツレさんはイグのことを「無為の達人」と言っています。
これは『老子』の一節にある「無作為を信条とし、何事も積極的にせず、淡白な味を楽しむ気持ちで生活しよう」ということだそうです。
そんなイグに見守られながら、苦しみを乗り越えた二人。
私も励まされました。勇気と言ったら大げさですが、ちょっと前向きになれました。
そして今、すごくイグアナを飼いたい気分です。
『イグアナの嫁』、心が軽くなるマンガに勝手に認定します。
ちょっとほっこりしたい人、イグアナに興味がある人、うつ病がよくなると思えなくてモヤモヤしている人、そんな方におすすめです。
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