思い通りにならない体。
とらえどころのない心。
うまく付き合っていくにはどうすればいいのか。
その助けになるのはメタファーであるという話を以前書きました。
メタファー(隠喩)を使えば、困った自分を俯瞰して見られるようになります。
冷静に観察できれば、困り事に振り回されて不安になることも少なくなることでしょう。
でも、たとえるのは難しい。
なかなか手応えを得られない。
そんなとき手にした本。
タイトルはズバリ『たとえる技術』です。
著者は、作家・コラムニストのせきしろさん。個人的には、おもしろい自由律俳句を作っている人、というイメージが強いです。
物事をたとえるのに役立ついくつかの視点が紹介されています。具体例もたくさん並んでいます。素晴らしい。
せきしろさんの想像力はほんとにすごいなと感心します。元の対象から比喩への飛躍がすごい。そこに跳ぶ!?という嬉しい驚きが毎度あります。
それにしても具体例をたくさん載せるって勇気のいる行為だよなぁとしみじみ思いながら読み進めました。
だって、スベるかもしれないわけじゃないですか。「下手くそな比喩!」と切り捨てられることもあるかもしれないし。
その恐れをどうやって乗り越えているのでしょう。
「どう感じるかは人それぞれ、俺にはこう見えたんだ」という気持ちの問題なのでしょうか。
さらに、スベる以上に怖いこともあります。
それは、自分のイケてない価値観が露呈してしまうこと。
何気ない言葉選びに、偏見や差別につながりかねないものが滲んでしまう可能性がある。
時に、自身の理解の浅さにより、ストレートで差別丸出しになってしまうこともあるかもしれない。
日頃、人々が発する何気ない言葉を見聞きしていても、主語デカになるほど「大丈夫かな……」とドキドキします。私自身も困った発言をしているんじゃないかと不安です。
自分の考えを伝えるということは、勇気がいる行為なんだなと原点にかえったような思いでした。
さて、せきしろさんの言う通り、比喩を使って表現された対象イメージは、よりクリアにリアリティを伴うようになります。
その違いをはっきりと体感できるのも本書の面白いところ。
せきしろさんが繰り出す言葉の数々は、つぶやきシローさんのつぶやきと通じるところがあるよなと思いました。「あー、あるある」となってクスっと笑える。
何気ない日常の一コマだけど、確実に何か(色、匂い、音、懐かしさ、場の空気など)を思い出させる言葉たち。
ちょっとした言葉で、こんなにバラエティ豊かな感情変化を味わえる。とっても素敵なことですよね。
たとえを使う際には、注意すべきところもあります。
メタファーは、具体的であれば具体的であるほど面白い。
けれど、相手が元ネタを知らない可能性もある。その点は十分に気をつけないといけません。
エンタメ作品や芸能ネタはピンポイントな感じがより強い。ハマればめちゃくちゃ面白いけど、外したら相手ポカンで終わり。
物理法則を表す具体例なら大丈夫っぽいですね。理科の実験を思い出せばいいのかな。
- たとえなくても良いものもある
- たとえるべきタイミングも存在する
そんな学びを得るに至ったせきしろさんのエピソードもありました。
最初から最後まで、面白いなぁ、なるほどなぁの連続です。
せきしろさん個人のエピソードも面白いから、エッセイとしても楽しめます。
メタファーを探す第一歩として挙げられるのは、
- 観察すること
- 体験すること
- 分類すること
まずは、自分の中であれこれ具体例を挙げながら、その言葉によって立ち上がるイメージを味わってみたいと思います。
「何のとりえもないけど、昔から体だけは丈夫で~」って、へりくだって言う人いるけど、それって最強だよね。
— つぶやきシロー (@shiro_tsubuyaki) June 21, 2021