依存しながら答えのない人生を生きる/『サムサッカー』感想

子供の頃、大人はちゃんとしているものだと思っていました。正解を知っているのだろうとも思っていました。なぜならば、大人だから。いろんなことを知っているし、経験もあって考える力もある。偉そうにいろいろ言ってくるからには当然そうなんだろうと。時に「この人はダメだ」と思うこともあったけれど、それでも「大人はちゃんとしている(子供である自分に比べれば)」という思いが強かった。

でも、実際は全然違いました。

みんな悩んで迷っている。大人も実は全然わかっていない。正解はどこにもなくて途方に暮れちゃうよね……

映画『サムサッカー』を観てから、そんなことをずっと考えています。

『サムサッカー』内容紹介

あらすじ

親指しゃぶりがやめられない17歳男子が悩んで迷って頑張る話。
サムサッカーとは、サム(thumb; 親指)+サッカー(sucker; 吸う人)のことです。

全体の感想

ストーリーも全体の雰囲気も好きな感じだなとは思いつつも、観終わった直後は何か物足りない気がしました。ドラマチックな展開もないので、地味な作品に分類されるかもしれません。

でも、あとからジワジワ効いてくるタイプの作品で、お気に入りの一つになりました。音楽も素敵です。

以下、詳しい感想を書いていきます。ネタバレはない(つもり)ですが、余計な情報を入れたくない方は、作品をご覧になってからどうぞ。

 

 

みんな不完全な迷い子

『サムサッカー』を観終わって思うのは、主人公の迷走っぷりや周りの大人たちの戸惑いが良いなということ。不器用な人を見ると、いとおしさが溢れてきます。

ありのままの自分を見せられない、支えとなる人がいない、頼れるものがない。どうすればいいんだ、不安だ、わからない、このままじゃ嫌だ、ああ幸せになりたい……!

人間とは弱いもので、何かしらのものに依存しなければ生きていけないんだなとは最近よく思うことなのですが、この映画もまさにそういう「依存」をわかりやすく見せてくれます。

主人公ジャスティンの親指吸いは、とってもわかりやすい依存の形と言えますし、ジャスティンに限らず、誰もが何かしらのものに頼って生きているんじゃないかと思います。

お酒、タバコ、恋人や親子などの人間関係、買い物、薬、ギャンブル、ゲーム、インターネット、宗教、過去の栄光、自傷、エトセトラ。

ダメなものからダメじゃないものまで。程度の差はあれ、何かにすがろうとしている。挫折や不安を抱えて生きるのは大変。自分自身と向き合うこと、今の自分を受け入れることは簡単じゃないんだよなと改めて思います。

みんな不完全で、正解なんてない。悩んでいるのは自分だけじゃないんだ。

そう思うと、ちょっと心強いような。問題は山積みだし、全然うまく立ち回れないけれど、それでいいんだ、大丈夫だと少しだけ楽観的になれる気がします。

キャストが良い

主人公ジャスティン役のルー・プッチがよかったです。ティーンエイジャーの瑞々しさというんですかね、すごく美しいなぁと思って。

繊細で壊れやすそうだけど、どこか暴れだしそうな危うさも感じるし、迷いや抑えられた衝動、例えば目が泳ぐ感じなんかは、心が波立つ感覚が思い出されてザワザワしてしまいました。

さらに、そんなジャスティンに、エリオット・スミスの歌声がマッチしていて、ちょっと泣きそうになりました。

そして、男性陣の配役。これもまたよくて、主人公のお父さん(ヴィンセント・ドノフリオ)の不器用な感じが「あー気持ちはわかるよー、あーばかー」みたいなね、悪い人じゃないんだけど、ジャスティンとは相性が悪いという、そのもどかしさやりきれなさも「あー」と。

ジャスティンが所属する討論部の顧問、ギアリー先生(ヴィンス・ヴォーン)も、いい人そうで特にいい人ってほどでもない、別に普通の無難な人ってところがよかったです。中川家の礼二さん(弟)に見えて「礼二!礼二!」と心の中で呼んでおりました。その存在から面白さが滲んでいる。一切ふざけていないのに。

母親役のティルダ・スウィントン、歯科医役のキアヌ・リーブスは、美しくカッコ良すぎではないか?! と思ったのですが、じゃあ他に誰がいいだろうと考えたら、全然思いつかない。やっぱりこの配役がぴったりだったのかなと思い至ります。役者さんってすごい。

ADHDと薬の服用について

主人公ジャスティンは、ADHDと診断され薬を飲むようになるのですが、そのあたりのシーンは取り扱い注意だなとは思いました。

薬を急にやめようとするジャスティンに対して、看護師である母親が「薬を急にやめちゃうのはよくないよ」とたしなめているし、障害や薬に関して大きく間違ったメッセージはないように思いました。けれど、強いメッセージがない分、精神論で何とかしようとする父親や、薬に否定的なライバルの言葉が印象に残ってしまうかもしれないなぁと心配な気持ちが少し。たくさんある依存モチーフの一つとして描かれていたところも誤解されてしまわないだろうかとか。

症状や治療法、回復に向けたアプローチの仕方は人それぞれですよ、という部分が伝わる形になっていたらベストですけど、それが主眼ではないので、あまり過敏に反応することもないのかなぁ、精神科にかかっている身としては気になる部分だったかなという感じです。

マイク・ミルズ監督の映画って優しいな

本作『サムサッカー』の監督と脚本を担当したマイク・ミルズは、NIKEやGAPのCM、人気ミュージシャンのミュージックビデオを手がけるクリエイターだそうで、アートワークを見てみてもポップでモダンでオシャレな感じ。X-girlのロゴデザインもそうですか。

同じくマイク・ミルズ監督・脚本の『人生はビギナーズ』(2010年)も観ましたが、ヴィジュアルにもこだわりが感じられて、好きな映画の一つとして記憶されています。手書き風ドローウィングとか鮮やかな黄色の壁紙とか、主人公がアートディレクターということもあって、素敵なデザインを堪能したという満足感が残っています。

それに比べると、『サムサッカー』はアート感は控えめだったかなという印象。ポスターのようなヴィヴィッドな画や落書きみたいな遊び心を期待していたので、「あっ、意外と普通だ」と。それでもやっぱりいいなと思える画がたくさんあったので、きっと素人にはわからない独自のこだわりがあるんだろうなぁと思います。

マイク・ミルズ監督の物語は優しい。グラフィック畑の人が撮ったただのシャレオツ映画ではなく、心に沁みる素敵な映画を撮る監督さんでございます……。

前から気になっている『マイク・ミルズのうつの話』はいまだに観れていません。

最後に:ティーンの成長物語っていいよね

主人公のジャスティンがほんのちょっと、半歩くらいかもしれないけれど、成長する。

こういうお話っていいですよね。あまり意識したことはなかったですけど、私は青春映画が好きなんでしょうかね。『ぼくと彼女とアールのさよなら』の主人公グレッグの成長も重なるところがあるなぁと思い出しました。女の子バージョンだと『レディ・バード』もよかったです。思春期のイタさとか背伸びしちゃう感じが「きっついなー」と思いつつも、いとおしくて。周囲の大人たちの不器用な愛情とか人間臭さとか優しさとか、なーんか沁みるのですよね。

『サムサッカー』に関しては、主人公ジャスティンの年の離れた弟くんがすごく気になっています。みんな兄のことばかり心配して忙しいから僕がしっかりしなくちゃいけないんだと言う彼のエピソードをもっと知りたい、弟視点の物語も興味深いなぁと。

 
はい、というわけで、あれやこれやとごちゃごちゃ書きましたが、『サムサッカー』、素敵な作品でございました。

「生きるってこういうことなんだよなぁ~」としみじみ思わせてくれる映画です。
 

 

↓本文でチラッとふれた映画たち

主人公の父とその恋人がとても良い。あと犬がむっちゃ可愛い。
 

感想書きました。
不器用なこじらせ男子の成長物語『ぼくとアールと彼女のさよなら』感想
 

こちらも不器用な大人たちがいとおしい。そして主人公を演じたシアーシャ・ローナンの存在感。素敵。
 

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