「精神科を初めて受診するうつ病患者さんの多くが、不眠を訴える」
睡眠障害の本を読むと、精神疾患の項で大抵このようなことが書いてあります。
不眠は精神症状の中で自覚しやすく、また、日常生活で支障を及ぼしやすい症状であることが理由に挙げられています。
不眠や過眠の症状に精神疾患が隠れていることは少なくありません。
- 充分に睡眠がとれない
- 朝早く目覚めてしまう
- やる気が起きない
- ひどく気分が落ち込む
- いらいらする
- ぼんやりする など
睡眠障害とともに精神症状が1か月以上続いているときには病院を受診すべき、と『睡眠障害ガイドブック』にあります。
このページでは、うつ病をはじめとする精神と神経の病気について、どのような睡眠障害があらわれるのか、原因や治療法についてまとめました。
うつ病と睡眠障害
主な症状
・早朝覚醒
・中途覚醒
早朝、目を覚ましたときに、ひどく憂うつな気分であったり、後悔や自責の念、将来への悲観などに襲われたりします。
不眠がうつ病の最初の症状であることは多いようです。
うつ病者の心身の状態
うつ病になると、生気がなくなったように沈み込んでしまいます。しかし、体の中は不安と緊張が高まっている状態です。
睡眠に関する訴えで多いのは、次の2つ。
1.「眠れない!」
脳の睡眠コントロール機能が低下し、体の一部だけ興奮が高まってしまうと、眠れなくなります。
体温が昼も夜も上昇、血圧も上昇、脈拍も増加。さまざまなホルモン(コルチゾール、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、プロラクチンなど)の分泌も亢進します。
意欲に関わる脳の前頭葉などの活動は低下しがちなのに、体は緊張状態。そのため、うつの不眠は、朝も夜もずーっと眠れない。ただひたすら落ち込みが続く。どうしようもなくつらい状態です。
本来は、体温を下げて心身を休息に持っていくのですが、その仕組みが不調になっているため、楽しいことをして緊張をほぐすのも難しくなるのだそうです。
2.「いつも夢を見ます」
うつ病患者さんは、寝つくまでの時間が長く、入眠してから最初のレム睡眠があらわれるまでの時間が短いのが特徴です。
【関連】睡眠のメカニズムと生体リズム
治療
治療法:薬物療法、行動療法、精神療法
一般的な不眠に比べて睡眠薬が効きにくいことも、うつ病の特徴と言われます。
不眠状態が続いているうつ病患者さんには、断眠療法(覚醒療法)を行うこともあります。
眠らずに朝まで過ごすことで、睡眠の欲求を高める方法。
うつ病患者さんは、眠りを誘う睡眠物質がなかなかたまらないため、入眠までに時間がかかり、眠りを維持できません。この睡眠物質は、二晩断眠することで、健常者と同じくらいたまることが研究の結果わかっています。
双極性障害(躁うつ病)と睡眠障害
気分障害患者さんの約10~15%は過眠を訴えると言います。
夜間どれだけ寝ても、日中強い眠気に襲われる過眠症。脳の覚醒を維持する機能が障害されるために起こるとの解説がありますが、原因・治療法は不明な部分が多いようで、現在も研究中とのこと。
【治療】
突発性過眠症、反復性過眠症の治療には、躁うつ病の予防薬・炭酸リチウムが使われます。
薬の効き方は個人差が大きいようです。
季節性うつ病と睡眠障害
季節の変化によって発症する冬季うつ病は、秋から冬にかけて抑うつ症状が起こる疾患です。
症状
・過眠
季節性うつ病の患者さんは、抑うつ症状の他に、過食の症状も見られます。ごはんやパンや甘いものなどをやたら食べたくなり、そのために体重が増加してしまうケースも多くあります。
原因
<原因1:遺伝的要因>
米国国立精神保健研究所の研究によると、家族発症するケースが数多くみられたとのこと。
<原因2:日照時間の変化>
冬にうつ症状があらわれるのは、光の量が大きな要因と考えられています。
このように、日照時間の変化が生体リズムに影響を与えているのではないか、とのこと。
治療
高照度光療法:
1日朝1回、2~3間程度、2500~3000ルクスの蛍光白色光を照射
過眠の人は、深い眠り(ノンレム睡眠)が減少し、レム睡眠が切れ切れにあらわれます。これにはメラトニン(脳の松果体から分泌・夜眠るための準備をするホルモン)が関与していると考えられていて、光療法によって、生体リズムと脳の働きを正常な状態に近づけます。
100%ではないものの、光療法は季節性うつ病の患者さんに非常に効果があるそうです。
統合失調症と睡眠障害
統合失調症は、幻覚や妄想などを特徴とした脳機能の障害による病気です。
睡眠障害の症状
発病初期に訴える症状は不眠。症状が進んで幻聴や妄想があらわれるようになっても不眠は続きます。
・深い眠りのノンレム睡眠が減少
・中途覚醒が多い
原因
日中は過覚醒状態にあり、認知の障害が発生(ある事柄に集中できない、注意があちこちに分散する)。
他者を意識しすぎる過緊張による反応性の不眠症である可能性があります。ただし、薬が与える影響を鑑みると、反応性の不眠とも言い切れないとのこと。
治療
統合失調症の多くは薬でよくなります。「早期発見、早期治療」が重要です。
不安障害(パニック障害)と睡眠障害
不安障害は、不安が主な症状の病気の総称です。
・恐怖症(社会恐怖症、高所恐怖症など)
・パニック障害
・社交不安障害
・強迫性障害
・PTSD
非常に強い不安感や恐怖感に支配され、日常生活や活動に支障をきたしている状態です。
パニック障害の睡眠障害・症状
・最初のレム睡眠があらわれるまでの時間が短い
・レム睡眠の密度が低い(熟眠感が得られない)
・中途覚醒や寝返りなど体動時間が多い
<睡眠中のパニック発作>
・ノンレム睡眠のより深い段階に移行するときに起きる
・昼間より夜間に発生することが多い(患者さんの約70%が睡眠中の発作を経験)
原因
熟眠感が得られない原因:
予期不安(また発作が起きるのではないかという不安感)が潜んでいて常に緊張状態にあること。
治療
薬物療法、精神療法(個人精神療法、認知行動療法など)
パニック障害の原因は、まだはっきりわかっていませんが、脳内の神経伝達物質のバランスの乱れが発症に関係していると考えられています。そのため、セロトニンやノルアドレナリンに働きかける薬を使います。
また、認知行動療法など心理療法の有用性も研究が進められています。
摂食障害と睡眠障害
【症状】不眠
【原因】不規則で不安定な食生活によって、睡眠リズムが崩れてしまう
【治療】薬物療法、カウンセリングなど
『眠れなくて不安な人たち』では、「過食したから寝てはいけない」との思いが摂食障害に結びついていた例、「空腹だと眠れない」という思いから過食し、眠りが妨げられていた例が挙げられています。
アルコール依存症と睡眠障害
アルコール依存症は、飲酒行動をコントロールできなくなる精神疾患です。アルコールを中断すると離脱症状が生じ、振戦せん妄、けいれん発作が起こることもあります。
軽度、中程度の意識低下、不眠、興奮、幻覚、錯覚、「ベッドのまわりに小さな虫がいっぱいいる」といった混乱など
睡眠障害の症状
眠っているときに振戦せん妄が起きると、睡眠変容が起きます。レム睡眠時に眼球運動はあるのに、筋肉の弛緩(活動低下)がみられない、すなわち、レム睡眠とノンレム睡眠が混在している異常な状態です。
アルコール依存が解消されると、健常なレム睡眠が戻ります。
治療
睡眠習慣の改善、薬物療法、精神療法
専門医の指導のもと、アルコールを徐々に減らしていきます。
認知症と睡眠障害
睡眠障害の症状
・せん妄などの行動障害を伴う睡眠障害
突然覚醒し、寝ぼけたようなよくわからないことを言ったり、興奮したりする
レム睡眠時:眼球運動はあるのに、筋肉の活動低下はみられない
→ レム睡眠とノンレム睡眠が混在している?
アルコール依存症患者さんが眠っているときの振戦せん妄と同じような状態です。
【治療】
夜間せん妄は、なかなか治療薬が効きません。効果があると言われる薬の報告はありますが、薬物療法とその他の治療をあわせて症状の軽減をはかります。
・昼間の活動をうながす
・高照度光療法(明るい部屋で過ごしたり、日光浴をしたりする)
最後に
初期段階で睡眠障害があらわれる精神疾患は少なくありません。
睡眠については、まだまだわかっていないことも多いのですが、治療薬や治療法の研究開発が進んでいます。
不眠や過眠を改善するためには、これらの医療的アプローチ、プラス、生活習慣の見直しによって、生体リズムを整えていくことが大切。
とは言え、身体が思うように動かないときに「健全な生活を送ろう」と言うのは酷な話にも思えます。そういうときは、無理のない範囲で少しずつ改善を心がけることで、多少なりとも良い方向に向かうのではないかと思います。
第1回 『睡眠障害解消法』健康な眠りのために心がけたい7つのこと
第2回 睡眠日誌のつけ方・適正な睡眠時間の見つけ方
第3回 睡眠の専門医による不眠解消のための3つの生活指導
第4回 【睡眠の基礎知識】睡眠のメカニズムと生体リズム
第5回 うまく眠れないのはなぜ?不眠の原因「5つのP」
第6回 眠れない?眠りすぎ?睡眠障害の種類と特徴
第7回 うつ病をはじめとする精神・神経の病と睡眠障害
第8回 睡眠障害の治療法(行動療法・光療法・断眠療法など)
第9回 【早起きのコツ】朝起きられないとき実践して効果を感じた方法
<参考書籍>
太田龍朗 (2006)『睡眠障害ガイドブック 治療とケア』弘文堂
内山真 (2014)『睡眠のはなし – 快眠のためのヒント』中央公論新社
井上雄一 (2007)『ササッとわかる「睡眠障害」解消法』講談社
立川秀樹 (2008)『眠れなくて不安な人たち』リヨン社
ナミさん、あなたの優しさが伝わり、それが気持ちを変えてくれます。私は統合失調症感情障害。統合失調症の症状が治まれば鬱。30年近く。そんな私に優しく優しくしてくださり、本当に有難うございます。今を生きる、それしかないですね。