くだらない話を崇高に感じさせる、偉大なる大先生

派手な服
「あなたは、家族の前で平気でおならをしますか?」

こんな問いを投げかけられて、あなたは何を思いますか?

私は、平気でこんなことを聞いてしまうメンタリティが嫌いじゃありません。

もちろん、誰が言うかによって「嫌いじゃない」度合いは変化するのですが(嫌いな奴が言えば不快感MAX)、それなりに好意を持っている相手が口にしたのならば、ニヤリとすることでしょう。

さて、この問いを発したのは誰だと思いますか?

正解は、さくらももこ大先生です。

「さもありなん」といった感じですよね。

なぜこんな話をしているかと言うと、先日、さくらももこ30年記念の本を見かけたからです。

「ここしばらく、さくらももこの本読んでないな~」と思いながら、1.5cmほどの厚みの雑誌風書籍をめくると、こんな文言が目に飛び込んできました。

「うんこ宣言する? しない?」

思わず本の奥付を見ます。2014年発行。

3年前かぁ……って、この人はいまだにこんな話をしているのか!

「あなたは、家族の前で平気でおならをしますか?」

こう問うたのは2002年のこと。

12年の年月を経て、続編レポートを紙媒体で発表しているのです。

しかもお下品さがパワーアップして「うんこ宣言」です。

思い返してみれば、さくらももこ氏はいつもこんな話ばかりしています。いや、センスのいいインテリアの魅力やハートウォーミングな話だって多いんです。なのに、私の記憶に残るのは下品な話ばかり。

一番最初に感動したのは、「賞状をもらう話」(『あのころ』)。簡単に言ってしまうと「おしっこ漏れそうでヤバかった話」です。せっかくの晴れ舞台だっていうのに、膀胱のことで頭いっぱいだったよ、とほほ。これが臨場感あふれる筆致で描かれていました。

次に印象的だったのは、「便秘」(『そういうふうにできている』)。さくらももこ氏が妊娠期に経験したエピソードです。そのときの不快感を「尻の穴の呼吸を止める悪魔の封印石」と表現する氏の才能に圧倒されました。

他にもさくらももこ氏の作品を見てみれば、こういった類のエピソードは容易に見つかります。

本人も「飲尿やオナラや痔や水虫など、およそ他人に知られたくない恥をバラして今日まで来た」(『そういうふうにできている』)と言っているように、これらの生理的な事象は、「さくらももこ」の魅力を支える大きな要素、私にとっては絶対に欠かせない要素となっているのです。

さくらももこ氏は、自身のダメダメエピソード(憧れの絵本作家エロール・ル・カインと交流のあったイアン・キールさんの話を聞きながら睡魔に襲われ居眠りするなど)を惜しげもなくエッセイに綴っています。

しかし、原稿は必ず締め切り前に仕上げるといいます。締め切り1週間前に上がっていないと「今回遅れたよな」と思うほど。さらに、対談相手には「任せてください。どんなにとりとめのない話でも、バシッと面白くまとめてみせますから」と伝える頼もしさ!(『ツチケンモモコラーゲン』)。

これが大人になったちびまる子ちゃんの姿です。

あなたはこの事実を受け入れられますか?

こうした堅実な仕事ぶりによって支えられている「うんこ」や「おしっこ」や「おなら」。

下品で低俗なネタがどこか崇高に感じられる理由がわかった気がしました。

そして、改めてさくらももこ大先生の偉大さを知ったのでした。

あと、『神のちから』はマジで神ってるので、読んだ方がいいと思います。

 

それはさておき、これ書いてる間ずっと頭痛と腹痛に見舞われているんですけれども。途中、我慢できなくなって日を改めたのに、書き始めたらまたお腹痛くなるという……。何コレ、呪い?

 
<参考作品>
2002年『富士山 (第5号)』新潮社

当時これを読んだとき、おならレポートが本当に面白すぎて泣きました。「下品な家族の中でも最も下品でくだらない人間だ」とさくらももこ氏が書いている通り、お下劣にも程があるでしょうとたしなめたくなります。褒め言葉です。

この『富士山』シリーズは、さくらももこ氏の「好き」がいっぱい詰まっていて、ほっこりできる内輪ネタも多数。フルカラーで『ちびまる子ちゃん』や『コジコジ』が楽しめる素晴らしい雑誌です。
 

2014年『おめでとう』集英社

「ONE PIECEの尾田っちが私んちにやってきた!!」という目玉企画っぽいページの前にあるのが「うんこ宣言する?しない?」です。おならレポートに比べると、やや爆発力は小さめ。やはり氏も年を重ねたからでしょうか。いや、私が年を重ねたからでしょうか。

「神のちからふくせい原画」が欲しいと思いました。
 

1996年『あのころ』集英社

「歯切れのいい名調子」「もちろん大爆笑モノ」と帯のコピーにはありまして、子供ながらに「大げさだな、それはないわ」と思いました。が、本当に爆笑モノだったので、「嘘じゃないコピーもあるんだな」と思い直しました。
 

1995年『そういうふうにできている』新潮社

生命誕生の神秘、世界の真理に迫る一冊! と言えなくもない味わい深い内容です。「悪魔の封印石のような強情な便との壮絶な戦い」が忘れられなくて……。
 

1998年『憧れのまほうつかい』新潮社

絵本作家エロール・ル・カインへの熱い思いが伝わる一冊。扉絵やカラーの挿絵がとてもキレイです。すごく素敵なエッセイだったからこそ、「寝るなよ」のコントラストが映えました。
 

2001年『ツチケンモモコラーゲン』土屋賢二共著、集英社

ポジティブ×ネガティブ対談。哲学者の土屋賢二氏が「佐々木のじいさん」や「みまつやのオヤジ」の仲間っぽく思えてきます。土屋先生にこんなズバズバ言っちゃって大丈夫かとハラハラしつつも、「それでこそ、さくらももこ」といった感もあり。ツチケンの自虐エッセイも面白いスよね。
 

以上、このページで挙げた本のリストです。まだまだ紹介したい作品はありますが、数が多すぎて紹介しきれませんね。

さくらももこ作品は、内容はもちろん、装丁も魅力的なので、単行本をおすすめしたいのですが、入手しにくくなっているものも多いようで残念です。

それでは最後に、こちらの漫画を紹介して終わりにしたいと思います。

1992年『神のちから』小学館

さきほど「読んだ方がいいと思います」と書きましたけど、合う合わないがあるみたいなので、「私が愛する作品です」にとどめておきます。家が火事になったらこれを持って逃げたいと思うほどに愛。

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1 COMMENT

あたま

ブログ更新ありがとうございます。
いつも思っていることですが、なみさんの知識の幅と読書量に脱帽です。
余談では、ありますが、私、さくらももこ先生と同郷です。

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