可愛いね。楽しいね。しんどいね。嗚呼社会/『バクちゃん』感想

もしも自分が地球外生命体だったらどうしますか?

自分以外の自分を想像するのって難しいですよね。

でも、漫画『バクちゃん』を読んでいたら、ちょっとだけ想像力の幅が広がったような気がしました。

『バクちゃん』は、地球にやってきた異星人のバクちゃんが、永住権取得を目指し、がんばって生活をやっていくお話。

バクちゃんの姿は、あの夢喰いのバクです。出身地はバクの星。食べる夢が枯渇してしまったため、移住することにしたのだそうです。

舞台は日本・東京。私達が住んでいるこの地球と同じような社会構造で、ITも発達している現代と捉えてよさそうです。バクちゃんの他にも、さまざまな姿形をした移民がいます。彼らはみな、滞在するために苦労しています。地球出身の者たちも、それぞれに悩みを抱えながら日々を頑張って過ごしています。

そんな中で、バクちゃんを取り巻く人々のエピソードが展開されるわけですが、読み進めるにつれ、心が揺れる揺れる。可愛らしくほんわかした雰囲気で表現されているけれども、描かれる現実は時にシビアで胸が苦しくなります。

バクちゃんは一生懸命仕事をします。楽しいこと面白いことがあると心から嬉しい気持ちになれる素直さを持っています。誰にでも優しく、良いところを見つけられるバクちゃん。バクちゃんはまだ子供ですが、弱音を吐いたり、わがままを言ったりしません。認知が歪んでいないのは、子供ゆえの純粋さなのか、バクちゃんの性格なのか、とにかく物事をありのままに受け止められる無垢っぽい存在として描かれています。

そんなバクちゃんが葛藤するシーンはとても印象に残りました。相手のために事実を言うべきか、嘘をつくべきか。そもそも、これは嘘なのか、嘘というほどではないのか。自分はどう振る舞ったらいいのか。迷いに迷った末に出した答えも、適切だったのかわからない。その後もバクちゃんは悶々とし続けるのです。純粋な存在として描かれているキャラクターが葛藤して苦悩する姿は胸にきます。

これまでにあまり読んだことのないタイプの漫画かもしれないなぁと思いました。読み終わってからしばらく経つ今でもまだ余韻が残っています。印象的な読書体験です。いつまでも忘れられない作品となりそうです。言い忘れましたが、くすっと笑える小ネタがいっぱいなところも本作の魅力です。芸が細かい。すばらしい。

「私もがんばって生きようかな」と思いました。

著者・増村十七さんの現在連載中の作品『花四段といっしょ』も気になります。

 

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