「責任」とは何か考える

責任とは何か。

事あるごとに浮かぶ疑問です。

2020年4月、緊急事態宣言が発令された日の記者会見。当時首相だった安倍さんの言葉が忘れられません。コロナ対策についての質疑応答で、外国人記者が、失敗ならどう責任をとるか質問しました。それに対し安倍元首相は「私が責任を取ればいいというものではありません」と言い放ちました。これには心底驚きました。やばすぎない?

でもまあ「幅広く募っているという認識で、募集しているという認識ではなかった」などとおっしゃる方だから、独自の言葉の定義を持っているのでしょう。先の言葉もきっと「責任を取る」=「辞める」という認識で、「私が辞めればいいというわけではない」と言いたかったのかなと捉えることにしました。確かに、職を辞して逃げてはいけないですものね。きちんと国民に説明する義務がある。

でも、あの周辺の人たちってちゃんと説明しないですよね。「しっかりと説明する」だの「丁寧に説明する」だのくり返すだけで、その「説明」の具体的な内容がないよー。どうやら「説明します」と言ったら説明したことになるらしい。「んなアホな!」と言いたくなるけれど、みんなそうやって逃げていきます。

辞めるわけでもないし、説明するわけでもない。となると、「私が責任を取ればいいというものではありません」という発言は「私は無責任です」という意味でOK? 責任を果たさない人はただの人。そんな無責任パーソンが大臣になれるってどういうこと?

 
と一通り憤ってから考えます。

責任って何?

責任、英語では responsibility。いつか何かの本で、responsibility には説明責任というニュアンスがあるという話を読んで「なるほど~」と思ったのですが、何の本だったかな? 英英辞書を引くと、responsibly の語源はラテン語の respondere で、answer を意味するとあります。おそらくそのあたりの流れから、責任者には応答する義務があるという話だった記憶。

似たような単語に accountability があります。こちらも説明責任を意味する言葉です。手元の英和辞書には、「失敗したときなどはきちんと釈明し、罰を受けるなどして責任をとること; responsibly と異なり、組織や権力構造に関連する概念」と書かれています。

 
最近読んだ本『民主主義とは何か』にはこうありました。古代ギリシアの政治家や役人たちの公的責任について。

それでは責任とは何でしょうか。一例を挙げれば、任期を終了し、公職を全うしたとします。そのことは直ちに負担の終了を意味しませんでした。というのも、任期中にしたことについて、厳しい審査が待っていたからです。会計報告を行い、公金を横領せず正しく用いたことを示せなければ、市民からの告発により、裁判にかけられることを免れませんでした。会計業務以外の公務についても同じです。有罪となれば、罰金や市民権の剥奪、財産没収、さらには死刑もありえました。(Kindle 位置 No.648)

まさにこれじゃん! 昔の人たちの方がちゃんとしてる! 今の政治家こういうのから逃れてる! 国民は説明責任を果たさない人たちを見逃してる! ああ! 退化してるじゃないか……! と思わず感情が高ぶってしまいました。

いや、有罪になったときの罰が激しいなとは思いますけど(一体何をしたら死刑になるんだろう)、今の日本のように、やったことの是非が問われないのはおかしい。そういう人を選んでしまった国民にも非はあります。

 
政治の話から離れてもう一つ。

最相葉月さんの本『調べてみよう、書いてみよう』にはこんな記述がありました。ティーン向けにノンフィクションの書き方を解説した本です。

 奥付とは責任の所在を明らかにするものです。その本が誰によって書かれ、どこの出版社によって刊行されたかを示すだけでなく、もしそこに書かれたことに間違いがあったり他人の名誉を傷つけることがあったりしたらすべての責任は自分たちが負います、という決意と覚悟を示すものなのです。(「本で調べる」より)

これを読んだとき「カッコいい!」と思いました。「決意と覚悟を示す」です。でもこれって当たり前のことなんだよなぁと情けなくも思いました。

 

果たして私は当たり前のことができているだろうか。

自分はどんな責任を負っているだろうか。

きちんと説明することはできるだろうか。

適切な対処をできるだろうか。

過ちを犯したとき、求められた罰を受ける覚悟があるだろうか。

 
そんなことを自問する日々です。

 
 

山岸勝榮編『スーパー・アンカー英和辞典』第2版 学習研究社 2001年
Paperback Oxford English Dictionary. 7th ed. Oxford University Press, 2013.

 

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