通院のお供に最適。朝井リョウのエッセイ『時をかけるゆとり』を読む

このブログは精神科に通院する双極Ⅱ型障害の人が「うつ」について書いていて、きっとこれを読む人も通院の経験があるだろうと勝手に決めつけて書くんですけど、病院の待ち時間ってどうしていますか?

私は、待ち時間が長くなりそうなときは本を読みます。特にこだわりはなく、読みかけの本を適当に。

それで先日読んだのが、朝井リョウさんのエッセイ『時をかけるゆとり』だったのですが、「この本、病院の待合で読むのにちょうどいいかも」と思いました。

内容も面白かったので、印象に残ったところを以下思いつくまま書いてみます。

朝井リョウ『時をかけるゆとり』感想

2012年に出版された朝井リョウさんのエッセイ『学生時代にやらなくてもいい20のこと』に、社会人篇を追加・加筆し改題した本作。朝井さんが大学生のときに書かれたものが中心となっていて、少し前の大学生の日常を垣間見ることができます。さらさらさらと気軽に読めるのが良いです。

快活で制御されたリア充エッセイ

描かれているのは、元気なリア充大学生の日々。何気ない日常というよりは、こんな面白いことやりましたー的な体験レポが多め。

全篇通して、読者を楽しませようというサービス精神が盛り盛りです。巷に溢れる自意識丸出しのウケ狙いは引いてしまうこともありますが(※私も人のことは言えません)、さすがは作家。そのあたりのバランスがすぐれているというか、独りよがりにならず制御されていると感じました。例えば、一人称を「私」として、「元気な大学生」的な描写を重ね、こんなにバカでーすと上下左右にぶんぶん振っておいてからの堅め口調、私はこうだと冷静に語る、その加減がいいあんばい(とこんなふうに素人に下手くそな説明をされたら不快かなごめんなさいとエクスキューズを入れたくなる気分を発生させる雰囲気もほのかに)。

自虐しながらも、爽やかで変にねじ曲がっていない。鬱屈としたドロドロ感や何も見えない真っ暗闇の恐ろしさがない。

あまり楽しくない診察待ちの時間に読むにはぴったりだと思いました。

絶妙な自虐と楽しい形容

全体通して自身に対する面長顔いじりが多いもの印象的でした。「妖怪馬顔」だとか「馬糞」だとか、事あるごとに「馬面」から連想されるワードを放っています。明らかにこれは自虐ネタなのですが、馬面と聞くと私の脳裏には『進撃の巨人』の登場人物の一人ジャン・キルシュタインが思い浮かびます。彼も馬面いじりをされているわけですが、何だかんだでカッコいいじゃねぇですか。となると、馬面って自虐のようでいて自虐とも言い切れない絶妙なラインなのでは? ただの事実を語っているだけ? むしろイケてる? と思えてきて、巧みだな……とここでも感心するのです。実際、馬面が悪口なら馬に失礼だしね(?)。まあこれからはもう見た目いじりもなくなっていくんでしょうけれど。

あとは「私立おのぼりさん大学の一年生」とか。微笑ましいような、痛々しいような。自分自身の黒歴史が思い起こされて変な声が出そうになります。

元気な大学生ならではのダメエピソード(例:友人の幼馴染(直接知らない人)の部屋のテーブルに足を載せる)の記述も、なるほどそういうメンタリティかと参考になります。

友人に言われた「頭悪いよね」も褒め言葉として消化できてしまいそうなパワーが眩しく、やはり押し潰されるような変な声が出そうになりました。

思わず唸る上質な筆致

場面の切り取り方や描写が素晴らしいのもこのエッセイの魅力です。特に印象的だったのは、花火大会ついて語ったパート。その部分を読むだけで、その場の情景や気分がありありと思い出されて、思わず二度三度と読み返してしまいました。ニオイや音や触感や空気感、すべてがリアルに立ち上ってくるようで、小説家すげーと感嘆の声を上げました。ほんとにすごい。ほんとに素敵でした。

最後に

そんなこんなで『時をかけるゆとり』、楽しく読み終えました。快活リア充エッセイ、たまにはこういうのもいいなと。

改めて「なんでこのエッセイが病院の待ち時間にぴったりだと思ったんだろう?」と考えてみたのですが、多分これ、たまたま電車やバスで乗り合わせた学生さんの会話が耳に入ってきて、何知らぬ顔しながらめちゃめちゃ聞き耳を立てている、そんな気分に近いのかもしれないと思いました。あれ、なんか楽しいじゃないですか。微笑ましかったり鼻についたり内容もいろいろで。

この本に登場するのは10年近く前の大学生ってことになるんですかね、今の学生さんの会話はもう何を言っているのか理解できなかったりして……。SNS事情とかそういうね、あと「ガクチカ」みたいな謎の単語とかね(※ガクチカ:学生時代に力を入れたこと。就活用語)。まあそれはそれで興味深いか。ナウな学生さんのリアル、覗いてみたいなと思いました。あ、それこそSNS見てみればいいのか。すぐにのみ込まれて溺れそうだな……。というわけで、令和の朝井リョウを待つ。って私が知らないだけですごい人たくさんいそうですね。
 

 

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