うつ・ストレス対策の入門書『はじめての認知療法』

精神科医・大野裕氏の著書『はじめての認知療法』を読みました。

認知行動療法のやり方を詳しく解説した本です。

<こんな人におすすめ>

  • これから認知行動療法を勉強する人
  • ワークを実践したみたものの、なかなかうまく進められない人
  • うつ傾向で、毎日がつらい人
  • 仕事で強いストレスを感じている人
  • 家事や育児、人間関係で落ち込んだり不安になることが多い人

心をラクにし、充実した毎日を送るために、役立つ知識がつまっています。

認知行動療法はどんなものなのか?
どのように取り組んでいけばいいのか?

そんな疑問にも答えてくれる内容です。

認知行動療法を学ぶ意義

今日ご紹介する書籍『はじめての認知療法』は、地域精神保健福祉機構コンボの機関誌『こころの元気+』の連載をまとめたもの。

著書は認知行動療法の第一人者としても知られる大野裕氏。穏やかな語り口で、心をラクにする考え方を伝えてくれます。(本書は「認知療法」で統一されていますが、認知行動療法と同義と捉えて問題ないと思います)

認知行動療法は、薬に頼らない治療法の一つとして注目されています。平成22年度からは診療報酬の対象になりました。

心の健康で悩んでいる人が多い今、認知行動療法の役割は大きくなっています。

「本書を通して、さらに多くの方が認知療法について知り、充実した毎日を送っていただけるようになれば望外の幸せです。」(p.7) と大野先生。

認知行動療法をもっと広く活用してもらうため、書籍の他にウェブサイトやアプリなど、認知行動療法を学べるサービス・情報を提供されています。

<ウェブサイト>
認知行動療法活用サイト「こころのスキルアップ・トレーニング(ここトレ)」

<アプリ>
こころのスキルアップ・トレーニング
 - iPhone/iPadをお使いの方
 - Androidをお使いの方

認知行動療法のよくある誤解

認知行動療法は、認知の歪みを修正するものだと説明されることが多いですが、それは正確ではありません。

認知行動療法は、心の柔軟性を持つための練習法。

・いま自分はどういう状態か?
・困っていることは何か?
・どんな解決策が考えられるか?

こんなふうに現状を冷静に見つめ、問題に対処する方法を探ることが目的であって、もともと持っている考え方を否定するものではありません。

人それぞれ考え方にはクセがあり、それはその人の個性でもあります。それ自体を間違っていると決めつけることはできないですよね。

もちろん、極端な考え方に陥らないようにすること、偏った考え方を修正することは重要です。ですが、それ以上に、他の選択を一つでもたくさん見つけていこうする姿勢を重視しているのが認知行動療法です。

さらに注意しておきたいことがもう一点。

それは、認知行動療法は万能ではないということです。

不適切な認知行動療法は、回復しないばかりか、副作用を伴うこともあると言います。

また、いくら適切な考え方をしても、環境が変わらなければ問題が解決しないこともあります。心がつらいのは自分の考え方が悪いからとは限らないんですよね。

だから、「いま自分の中にある悲観的な考え方が正しいかもしれない」という可能性も捨てないこと。

楽観主義はほどほどに。
現実を見つめよう。

プラス・マイナス、ポジティブ・ネガティブのバランスが大事です。

中庸、なかなか難しいですけどね。

共感と提案とやさしさが詰まった手引書

『はじめての認知療法』というタイトルの通り、本書は入門書として最適です。

身近な例を挙げて説明されているので、理解しやすくなっています。また、話し言葉の柔らかい文章が、専門用語への抵抗感を和らげてくれます。

そういう意味で、とてもやさしい(易しい・優しい)本だと言えます。

そうは言っても、現実を見つめることをアドバイスする内容ゆえに、つらく感じることもあると思います。正しい意見に抵抗感を持つこともあるかもしれません。

「でも、そんな簡単にはいかないよ」
「それができたら苦労しないよ」

そう言いたくなることありませんか? 私はしょっちゅうです。

そういう気持ちに対するフォローもあります。くり返しくり返し、共感と提案を穏やかに示してくれています。

最初のうちはなかなか受け入れられない部分もあるかもしれません。でも、本書を読み終える頃には、きっと気持ちに変化があらわれているはず。ワークを実践すればその変化を感じられるだろうと思います。

大野先生も言っているように、できることから少しずつ。完璧を求めたり、一度にたくさんやろうとすると、思うようにいかずガッカリしてしまいます。

自分のペースで、ゆっくりじっくりやっていきましょう。

大野先生のちょっといい話

認知行動療法のやり方については、他の本で書かれていることと共通しているので、おさらい感覚で軽く読んでいたのですが、大野先生の体験談やコラムは興味をひかれました。

正直、解説が続くと私は眠くなってしまいます。でも、「最近こんなことがあってね」という雑談が入ると「ふむふむ」と楽しく読めます。

「肌で体験すること」大切にしてほしいと大野先生が言っている通り、実体験に基づく気づきは多くのことを教えてくれますね。

中でも、大野先生が中学生のときに英語教師からもらったアドバイスや、指導上手な歯医者さんの話は印象に残りました。

・「一度にたくさん」ではなく、「できることからひとつずつ」
・相手の長所を認めた上で要望を伝える

何か特別なことを言っているわけではないのだけれど、伝え方でこんなにも人の心に響かせることができるんだなと実感できる素敵なお話です。

安易なポジティブシンキングではない、地に足が着いた教え

さらに、大野先生の例え話で面白いと思ったのは、コップに半分入った水の話。よくある例え話です。

水50%

喉が渇いたときに、コップの水が「半分しか入っていない」と思うとつらくなるが、「半分もある」と考えると安心できる、というやつですね。

ここまで読んで、「はいはい、考え方次第ってヤツね、その例えわかりやすいよねー、よく言うよねー」と小生意気な生徒のごとき反応をしていたら、話にはまだ続きがありました。

ちょっと我慢すれば水が手に入るような状況では、「半分も入っている」と考えて少し余裕を持つようにしても良いでしょう。でも、砂漠の中など、簡単には水が手に入らないような状況では、「半分も入っている」と考えてのんきに水を飲んでいれば、すぐに水がなくなって大変なことになってしまいます。(p.30)

だから、何でもかんでもポジティブシンキングすればいいわけじゃないし、状況に応じて、少しずつ水を飲んでいくことも大事だよ、と。

こんなふうに、砂漠のイメージに置き換えてみることで理解しやすくなることって結構ありそうですよね。

考え方は簡単に変えられるものではないし、楽観的な考えが必ずしも適切だとは言えない。置かれている環境によって適切な答えは変わる。

これは全体を通してくり返し伝えられるメッセージです。現実を厳しく受け止めることはつらいですが、それを乗り越えるためにすべきことを認知行動療法は教えてくれます。

文章を読むのがつらいときは?

本書の魅力を伝えるにあたって忘れてはいけないのが、元祖・うつ漫画家として知られる藤臣柊子さんのイラスト。

冒頭には「認知療法は難しくない。」と題するマンガが掲載されています。文字を読むのがつらいときでも、マンガなら入りやすいですよね。本をめくるハードルを下げてくれます。

また、随所に挿入されたイラストも理解を助けてくれます。

とは言っても、新書ですので、ほとんどが文章。読むのがつらいときは、図解イラストの解説本から入るのが良いですね。

これまでにも何度か紹介している大野裕先生の『こころが晴れるノート』で本書の内容はカバーできます。イラスト入りでコンパクトにまとめられているので、「そんなにたくさんできないよ~」という人におすすめ。気になる部分から気軽にチャレンジできます。

『こころが晴れるノート』のワークをうまく進められないとき、『はじめての認知療法』を解説書として使うと、より理解が深まりそうです。

しんどいときは、『はじめての認知療法』を毎日1~2ページずつ読んでいくのも良いですね。読書療法的に。

当ブログでも「モヤモヤ整理法」でワークのやり方を紹介していますので、よろしければどうぞ。

認知行動療法は病気の治療だけでなく、病気予防やストレス対策、学校教育やスポーツの成績向上などにも活用できるとのこと。

ぜひこの機会にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。(もちろん無理のない範囲でね)

 

<本日の一冊>
大野裕 (2011)『はじめての認知療法』講談社

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