アニマルセラピーの効果 ― 動物が私たちに与えてくれるもの

お散歩中のワンちゃん

アニマルセラピーに関する本を読みました。

かなり実践的な内容で、セラピーを行う人・ボランティアとして参加する人に向けた具体的な技術などが紹介されています。

アニマルセラピーに関するエピソードもいくつか紹介されていて、動物と関わることでどんな心の変化があらわれるのか知ることができます。一人一人に物語があって、短いエピソードではありますが、とても優しい気持ちになれます。これも動物の存在あってのことでしょうか。

その他にも、アニマルセラピーの効果や成り立ちなど、参考になる部分がいくつかあったので、備忘録を兼ねてまとめます。

主な対象者

アニマルセラピーの対象として、以下の症状・障害が挙げられています。(pp.21-48)

  • 認知症
  • 知的障害
  • 自閉症
  • 精神疾患
    • 統合失調症スペクトラム
    • 双極性障害
    • 抑うつ障害
    • 不安障害
    • 強迫関連障害
    • 外傷後ストレス障害(PTSD)

この他に、不登校の子ども、身体的リハビリテーション(手術後の機能回復)に対するアニマルセラピーも効果をあげているようです。

アニマルセラピーの病院・施設への訪問活動は、統合失調症の人を対象にすることで効果を期待できるそうです。このような精神疾患患者との交流には、対象者の状態を把握している医師のもとで行われる必要があるとのこと。

不安が強い人についても、動物とのふれあいが心身に変化を与えてくれるようです。不安が強いと悩みを人に相談することが難しくなりますが、相談相手が動物となると不思議と心を開ける、気持ちを前向きにしてくれる、そんな傾向があるのだとか。リラックスすることで、過呼吸や過度の緊張を回避しやすくなるというメリットもあります。

ただし、抑うつ症状が強い人に飼育をオススメするのはNG。これはよくわかります。うつ状態のときには自分の身のまわりのことさえできなくなってしまいます。そのような状態でペットの世話はとてもできそうにありません。周りに飼育をサポートしてくれる人がいれば、動物は精神的な支えになって、ネガティブ思考を和らげてくれるとのこと。

森田療法でも、作業期に動物飼育を取り入れているそうです。

森田療法・入院療法

アニマルセラピーに向いている動物

  • イルカ
  • 鳥類
  • 魚類
  • ウサギ
  • モルモット

作家の絲山秋子さんが乗馬の魅力をエッセイに書いてました。絲山さんが自身の病気(双極性障害)について書いた文章やインタビューをよく読んでいたこともあって、乗馬は心身をいい状態に保つ助けになりそうだなーと思ったことが印象に残っています。

そして、イルカ。自閉症の子どもを中心にそのセラピーが注目されているそうです。私も昔イルカと泳いだことがあるのですが、とても素敵な時間でした。イルカの背びれに手をかけるだけで、スイ~っと進んでくれるんですよね。水中なので、体の力がいい感じに抜けてリラックス。解放感を味わえました。不思議と安心感もあって。イルカは賢くて可愛い!

そして、猫。「うつ」を患った萩原流行・まゆ美夫妻は、猫の存在に救われたと自著『Wうつ』の中で語っています。確かテレビでも「猫のおかげ」というようなことを言っていた記憶です。何も語らないけれど、そこにいてくれるだけで心を癒してくれる。猫が与えてくれる安らぎとその存在感には強く惹かれます。

生きているものの体温を感じること。からだを優しくなでるときに感じるぬくもり、鼓動、命のはかなさ。そこに生きる糧となるエネルギーがあるように思います。

動物がヒトに与える効果

動物を見て「かわいい」と感じると穏やかな気持ちになります。不安や緊張がほぐれて気持ちが落ち着く、この状態が「癒し」と呼ばれるもの。生理的には、副交感神経が活発になって肉体的にリラックスしている状態なのだそうです。

愛情をかける存在として動物が身近にいること、動物もその愛情に応えるかのように信頼してくれること。人と動物の絆は、癒しにとどまらない、かけがえのない関係性です。

ヒトと動物との関係に関する研究も進められています。動物がヒトに与える効果・影響として挙げられるのが次の3つ。

(1) 心理的効果
・不安・緊張を和らげる
・動物と暮らし、責任を持って飼育することで、自信や意欲を持てるようになる
・自己肯定感や自尊感情の回復へとつなげることもできる

(2) 生理的・身体的効果
・動物を触ったりなでたりする
→血圧や心拍数が下がる・血中コルチゾール濃度が下がる(見ているだけでも効果アリ)
=緊張がほどけて身体的にリラックスした状態になる

(3) 社会的効果
・社会との関わりが減少する高齢期
→犬の散歩、動物病院への通院、フード購入など買い物によって人と関わるきっかけになる
・動物に話しかける
→発話が促され、言語が活性化される
・子ども時代に飼育経験を持つ
→共感性、協調性が発達 他者をいたわり、思いやる気持ちが育つ

(pp.173-175)

WHO(世界保健機構)は、身体的・精神的・社会的、これらすべてが満たされた状態を「健康」と定義しています。

この3つに良い影響を与えてくれる動物たち。アニマルセラピーは多くの可能性を秘めていると言えます。

ナイチンゲールの記録『看護覚え書き』にはこうあるそうです。(p.166)

「小さなペットなどは、病人、とりわけ長期の慢性病の病人にとっては、こよなき友となることが多い」

「社員犬」とメンタルヘルスケア

ペットに関する企業の取り組みについても紹介されています。

特に興味深かったのは、メンタルヘルスケアの一環として導入された「社員犬」です。

本書で紹介されているのが、日本オラクル株式会社。ソフトウエアの開発・販売をしている情報通信業の企業です。

「社員犬」は、従業員にとって働きやすい環境を作る取り組みの一つ。

1991年に1代目の社員犬が採用され、現在は4代目のキャンディがグリーティング&ヒーリングアンバサダーを務めています。

社員犬がもたらしてくれるのは、

  • 心身のリフレッシュ
  • 生産性、創造性を高める
  • コミュニケーションを深めるきっかけ
  • 企業のPR

企業サイトにもいくつか写真がありますが、見ているだけで心癒されます。社内がピリピリした雰囲気になっても、愛らしい社員犬がみんなの緊張を和らげてくれそうですよね。

その他にも、企業で活躍する動物たちがいるようです。(このページの最後にまとめました)

さらに米国では、ペットに福利厚生を適用する取り組みがあるのだとか。

  • 「扶養ペット慶弔規定」
  • ペットを飼い始めたときの1万円の「祝い金」
  • ペット同伴の出勤の奨励
  • ペット休暇

などなど。「ペットは家族の一員」と考える社員にとっては、とても心強い取り組み。こういう意識の広がりは心のゆとりにもつながりそうですよね。

最後に

気になったところを書き連ねていったら、なかなかのボリュームになってしまいました。本書は充実の内容で、とても1ページにはまとめきれません。ペットロスについても参考になる部分があったので、また改めて書けたらなと思っています。(追記:書きました →【ペットロス】大切な家族を失う悲しみ・克服・グリーフワーク

アニマルセラピーに関して、動物にストレスはかからないのかな? という疑問を持っていたのですが、その答えも書かれていました。深刻ではないものの、やはりストレスはかかるのだそうな。個体差も大きいのですが、ストレスマネジメントを的確に行うことで負荷を軽くすることができるのだそうです。やはり、施術者の技術が重要なんですね。とても奥深い分野だなぁと思いました。

本書は、セラピーを受ける人よりは、実践する人向きの内容なのですが、こういうアプローチもあると知ることで心強く思えたりしますよね。選択肢を広げることはプラスになります。

これからも少しずつ知識を深めていけたらいいなと思います。

 

<本日の一冊>
・川添敏弘 監修 堀井隆行 山川伊津子 赤羽根和恵 (2015) 『知りたい!やってみたい!アニマルセラピー』 駿河台出版社

<参考書籍>
・北西憲二 (2007)『森田療法のすべてがわかる本』講談社

・萩原流行 萩原まゆ美 (2009)『Wうつ ~うつが、ふたりを本当の夫婦にした。』廣済堂出版

おまけ:動物の社員さん

お名前 所属企業・詳細
1代目 サンディ
2代目 ハイディ
3代目 ウェンディ
4代目 キャンディ
(いずれもオールドイングリッシュシープドッグ・♀)
日本オラクル株式会社(情報システム構築・ソフト開発)
社員犬について
チョビ(黒柴・♀) ピクシブ株式会社(イラスト共有サービス)
ピクシブの社員犬!
順ちゃん(フレンチ・ブルドック・♀) 三洋商事株式会社(資源回収・リサイクル事業)
社員犬「順ちゃん」が入社しました。
エディ(トイプードル・♂) ワオ・コーポレーション(教育・学習事業)
ワオ・コーポレーションに社員犬「癒やしのエディ」が入社
ランス(ノーフォークテリア・♂) コンセプトワークス株式会社(出版プロデュース・経営コンサルティング)
社員犬ランスについて
チャオ(トイプードル・♂) 株式会社ユーシステム(システム開発、人材派遣)
社員犬チャオの業務日誌
ラッキー(ゴールデンレトリバーと柴犬のmix・♂)
ローラ(柴犬)
株式会社シーアンドアール研究所(書籍・雑誌の出版、セミナーの開催)
会社犬の紹介
ヌーピー(ラブラドール・レトリーバー・♂) UTグループ株式会社(建築、技術コンサル、製造アウトソーシング)
広報担当係長ヌーピーブログ
HARU(ラブラドールレトリバー・♂) ハイアットリージェンシー箱根リゾート&スパ(ホテル業)
レジデンシャルドッグ HARUがセラピードッグの資格を獲得しました
ヤギ(ミント君、うめちゃん、クッキー君、クモちゃんをはじめとするヤギさんたち) Amazon(通販サイト)
ヤギによる「エコ除草」
社員証を着用し、除草がんばっています。
レオン(ゴールデンレトリバー・♂) 日本ビジネスシステムズ株式会社(ITサービス、システム開発)
2013年6月、飼い主の社員と共にシンガポール支社に転勤。
バニー
オリーブ
ビスケット
ルアー

(オーストラリアン・ラブラドゥードル)
株式会社 ニチイ学館(医療・介護・教育サービス業)
ニチイグループの社員犬は10月よりレイクウッズガーデンひめはるの里に活動拠点を移します
coco(トイプードル) 株式会社ILB(インターネットメディア事業)
Pinterest「COCO 2011」
ヤギ(休職中)
アルパカ
パソナグループ(人材派遣)
2011年2月、ヤギ2頭が正社員として入社。受付・癒やし業務担当。
2013年7月、アルパカ入社。淡路島の地域活性プロジェクト拠点で活動中。
ゲーテ2011年永眠
ソクラテス
ITY株式会社(コンサルティング、ITプランニング)
企業サイトのトップ画像にも登場。
社員犬 ゲーテとソクラテスの今日のお勤め
しなもん(コーギー・♂) 株式会社はてな(システム開発)
愛称は「会長」。
2013年6月21日永眠。
しなもん日記 – さようなら。ありがとう。

こちらのリンク以外にも、社員犬や会社の動物たちを紹介するサイトがたくさんあって、彼らがいかに愛されているかよくわかります。

ただ、すべての人が動物好きというわけではありません。アレルギーの問題もあります。そういったことを考慮しながら、皆が穏やかな気持ちで過ごせる場所を作ることができたら素敵ですよね。

2 COMMENTS

川添敏弘

著者の川添です。
真剣に読んでくださり、ありがとうございます。
特に、赤羽根が著した社員犬やCSRなどには新しい可能性を感じています。そこを取り上げて頂けたことが嬉しいです。
ヒトと動物の共生は、これからも大切なテーマだと思っています。
今後も、この分野を大切にして頂けると嬉しい限りです。

返信する
ナミ

川添敏弘 様

コメントありがとうございます。まさか著者の先生からメッセージをいただけるとは思っていなかったので、驚いています。

『知りたい!やってみたい!アニマルセラピー』は、専門的な内容がわかりやすく説明されていて、とても勉強になりました。同時に、自分が知らなかった世界に触れられた気がしてワクワクしました。動物に対する見方も、これまでとは変わったような気がします。

「ヒトと動物の共生」、これからもぜひ注目していきたいと思います。

たくさんの学びをありがとうございました。

返信する

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です