いろいろ煩わしいことが重なって、「酒でも飲まなきゃやってられんわ~」と現実逃避したくなることはありますか?
お酒を飲むとポワンとしたいい気分になりますし、悲しみを慰めるためにお酒の力を借りたくなることもあるのではないでしょうか。
しかし、薬とお酒は相性がよくありません。
今日は、服薬中にお酒を飲んではいけない理由と、アルコールにまつわるお困りごとの対処法をまとめます。
お酒の力を借りたくなるほどつらい気持ちの紛らわし方も提案しますので、よかったら参考にしてみてください。
もくじ
服薬中にお酒を飲んではいけない3つの理由
「なぜ服薬中にお酒を飲んではいけないの?」
理由は次の3つです。
- 薬の効果が不安定になるから
- 睡眠の質が落ちるから
- 根本的な解決にならないから
一つずつ説明します。
理由1:薬の効果が不安定になるから
お酒と薬は相性がよくありません。
お酒を毎日飲むと、薬が効きにくくなります。また、薬をお酒と一緒に飲むと、薬が過剰に効いてしまうため危険です。
・薬が効きにくくなる
・反対に効きすぎてしまう
・副作用が出る可能性がある
では、なぜお酒を飲むと薬の効果が不安定になってしまうのでしょうか。
その理由を簡単に説明します。
<薬が効きにくくなる理由>
アルコールは肝臓で分解されます。そのとき働くのがさまざまな酵素たちです。
酵素は、お酒を常用することで活発になります。
肝臓がひんぱんに刺激されて、処理が大変になると、助っ人の酵素がやってきます。
酵素たちが元気に働くと、アルコールがたくさん分解されます。
アルコールの処理が早ければ、ヘロヘロに酔っ払ってしまうこともありません。
ただ、酵素は、アルコールだけでなく、薬の成分を分解する役割もあります。
そのため、酵素が元気よく働いている状態だと、大切な薬の成分まで処理してしまいます。
薬の成分は、多すぎても少なすぎてもいけません。ほどよい量を体内にとどめておかないといけないのに、酵素が活発だと、いつもの調子でたくさんの成分をせっせと分解してしまうわけです。
<薬が効きすぎてしまう理由>
普段あまりお酒を飲まない人は、肝臓内の酵素が活発ではありません。
そのため、いきなり大量のお酒を飲んだり、アルコールや薬を同時に摂取すると、成分をうまく処理しきれません。
肝臓内はてんやわんやで、酵素たちは大忙し。
アルコールを分解する酵素が少ない人は、処理が遅れ、酔ってしまいます。
さらに、酵素はアルコールを優先的に分解するので、薬の処理は後回しになります。
その結果、薬の成分が体内に長くとどまり、薬が強く作用してしまうことがある、というわけです。
理由2:睡眠の質が落ちるから
服薬中にお酒を飲んではいけない2つ目の理由は、睡眠への影響です。
アルコールは頭をぼんやりさせ、眠気を誘います。「寝る前にお酒を飲むとよく眠れる」と言う人もいますよね。
しかし、アルコールは睡眠の後半で眠りを浅くする作用があり、深い眠りを邪魔します。
さらに、利尿作用があるので、トイレに行きたくなって目が覚めてしまうことも。
いくら寝入りはスムーズでも、睡眠の質が良いとは言えないわけですね。
理由3:根本的な解決にならないから
気分が落ち込んだときやイライラが募ったときに、「いっちょ酒でも飲んで元気出すか!」とアルコールの力を借りる人は少なくないと思います。
でも、うつ病治療中にそれをやってしまうのはよろしくありません。
お酒の力を借りて一時的につらさが和らいだとしても、根本的な解決になっていないからです。
つらい気分に陥るたびに、お酒の力を借りてやり過ごす。それが習慣になると、飲酒頻度・飲酒量が増えて体に負担がかかります。アルコール依存症になってしまうケースも少なくありません。
お酒を飲まざるを得ないときは?
いくら「お酒をやめよう」と決意しても、会社の飲み会や冠婚葬祭など、お酒を断りにくいシチュエーションもありますよね。
「俺の酒が飲めないのか!」という人種はまだ絶滅していないようですし、お酒好きとして通っていた人なら「飲めないことないでしょ~」と強引に勧められることもあるかもしれません。
そんなときの対処法。私が用意していた言い訳と対策は次の3つです。
1. 「今、薬を飲んでいるので……」
やはりこれが定番ですね。というか事実ですし。
わざわざ「うつ病だから」と言う必要はありません。
「今飲んでる薬の関係でお酒飲めないんですよね~」と言えばいいだけ。
もし詳しく聞かれたら、
「ちょっと睡眠が良くなくてね~」
「調子悪くて医者行ったらお酒を控えるように言われてね~」
「ドクターストップだよ~ハハハ~」
などと答えておきましょう。
それでも酒を勧めてくる人はダメな人です。「下戸なんですよ」と言っても無理やり飲ませようとするタイプですね。ダメです。要注意です。周りの人にあらかじめ伝えるなどして回避しましょう。
2. 「今日車で来たから」と言う
病気であることを知らない相手に使うと便利です。本当は車じゃなくても、車ってことにします。自転車でもOKです。
相手が自分の家を知らない場合は、「最寄駅まで車で来た」体でいきましょう。
「別の用事があって、そちらの方に車を止めてきてるんですよ」という理由も使えます。
飲酒運転の取り締まりが厳しくなりましたから、大抵はこれで大丈夫なはずです。
ただ、交通事情や住んでいる場所など、条件によっては使えないケースもありますね。
3. 行かない
酒の席には行きません。断りにくい場合は、体調不良を理由に欠席です。
ガンガン断っていくと、誘われることもなくなるので安心です(?)。
飲酒したときは医師に伝えよう
「酒の席には行かない」と身も蓋もないことを書いてしまいましたが、それではすまないこともあると思います。
その場の空気的に飲まざるを得なかったり、「まぁいいか」と流されてしまったり……。
そういうときは、お酒を飲んだ旨を主治医に伝えておきましょう。
なぜ医師に伝えた方がいいのか?
理由は、適切な処方ができなくなるから。
先ほどお話したように、アルコールが入ると薬の効果が不安定になります。もし主治医に「この患者さんは飲酒していない」と伝わっていたら、「薬が効きにくいのは薬が合っていないのかもしれない」と判断するかもしれません。
こんな結果になってしまったら、悲しいですよね。
本当のことを言ったら怒られるかもしれないし、言い出しにくいことではありますが、自分のためにも、正直にありのままを伝えましょう。
「お酒を飲まなければいけないシチュエーションに遭遇したときは、何に注意すればいいですか?」などと聞いてみるのもいいと思います。
どうしてもお酒をやめられないときは、それも込みで治療方針を考えてもらいましょう。
ノンアルコールで酔う5つの方法
というわけで、「服薬中はお酒を控えましょう」というのが基本的なルールとなるのですが、精神科医の中には飲酒を黙認している先生もいるようです。
それはなぜでしょうか?
・何でもかんでも「ダメ」「禁止」と押さえつけるのはしんどいよね
・自分もお酒好きだからさ
……みたいな理由なのかなぁと予想します。
確かに、お酒が大好きな人にとって、至福のひとときを我慢しなければならないのは、なかなかつらいところ。
でも、ここまで書いた通り、お酒を飲むことで得られるメリットより、デメリットの方が重大です。
もし、酔ったときの楽しげな感覚を得るために(あるいは、つらい気持ちを和らげるために)お酒を飲むのだとしたら、飲酒以外に代替案はあるはず。
そこで提案するのが次の5つの方法です。
- 音楽を聴く、演奏する
- 恋をする(疑似恋愛でもいいかも)
- ポエムを書く
- 瞑想する
- 温泉につかる、湯船につかる
ここで言う「酔う」は、生理的・精神的な変化、ポワンとすることを表します。
順番に見ていきましょう。
1. 音楽を聴く、演奏する
演奏者は、作品の世界に入り込んで演奏をします。プロのパフォーマンスは観衆をもその世界に引き込んでくれますよね。だから、音楽鑑賞後はほろ酔い気分のような余韻を味わえます。
ただ、素人の演奏だとなかなかそうはいきません。はたから見て「あの人、酔ってるね」と映ることってけっこうありますよね。
でも、それでいいんです。本人が気持ちよければそれでOK。酔いってそういうものです。酔っ払いは陽気で楽しそうだけど、それを介抱する下戸の皆さんは別に楽しくないのです。
でもやっぱり迷惑をかけるのは忍びないので、防音の部屋で練習するなどの工夫をしましょう。ヘッドホンをして音楽の世界に浸るだけでも、心持ちをいい感じにすることはできます。
2. 恋をする(疑似恋愛でもいいかも)
「落ち込みや感情の高ぶりについて ― 恋をして冷静さを欠いた人の姿から考える」でも書きましたが、恋はアルコールのようなものらしいです。素敵なことです。
3. ポエムを書く
恋をすると、人は素敵なポエムを書けるようになるようです。
絶望的な状況や、孤独に苛まれたときにも上等なポエムが書けます。それはそれは香ばしく芳しいポエムです。
4. 瞑想する
目を閉じてじっとしているだけで、いつもと違う感覚に浸ることはできます。
瞑想がもたらす効用については「心と体に休息を与えよう!ネガティブ思考を和らげる瞑想のすすめ」で詳しく書いています。
私なりのコツは「ガチガチの心と体をふにゃっとさせる瞑想のコツ」で紹介しています。
5. 温泉につかる、湯船につかる
温泉は気持ちいいですよね。
酔うとは違いますが、凝り固まった心身が解放されて、いい気持ちになります。のぼせたときの感覚は「酔う」とちょっと似ているところがあるような。
精神を整えるにはサウナもいいらしいですよ。
最後に
好きなものを断つのはつらいものです。
でも、回復のために必要なことなら、そこはガマン。
目先の「快」を取るか、長い目で見て得られる「快」を取るか。
それを考えれば、自分が取るべき選択に迷うことはないでしょう。
不調を治すためにも、薬の効果を最大限に引き出す選択をしたいですね。
【おまけの話】私が考える飲酒のメリット・デメリット
・おいしい
・頭をポワンとさせて、苦痛を軽減してくれる
・酔った状態の心地よさ、独特の冴えを与えてくれる
<飲酒のデメリット>
・薬の効果が不安定になる
・睡眠の質が落ちる
・元気がないときは楽しくもイイ感じにもならない。それどころか虚しさや罪悪感が増すだけ
・飲みすぎると翌日しんどい
・お茶より高い
私はもともとお酒が大好きだったのですが、病気になってからは、飲んだ後の不快感の方が大きくなりました。お酒を飲むことで、ますます落ち込んでしまうことも多々あり。……ってこれはお酒関係なく、ただ心身の調子が悪かっただけとも言えるのですが。
金銭的なこともデメリットの一つですね。たまにしか飲まないのであれば、それほど大きな負担にはなりませんが、酒よりお茶の方が安いし。
お酒を飲まなくなった代わりに、酒の席ではジンジャエールを飲むようになりました。見た目がアルコールっぽいし、シュワシュワするので、頑張れば酔える(自己暗示)。そして、おいしい。
お酒は健康なときだからこそ楽しめるもので、不調のときにはその良さを感じにくくなるのかなーと思います。
<参考書籍>
井原裕 (2015)『うつの8割に薬は無意味』朝日新聞出版社
加藤哲太 (2015)『一番やさしい薬の本』エイ出版社
加藤哲太 (2013)『よくわかる 薬の危ない飲み方・飲み合わせ』有楽出版社
吉野聡 松崎一葉 (2009)『現役 精神科産業医が教える 「うつ」からの職場復帰のポイント』秀和システム
<参考サイト>
飲酒|e-ヘルスネット – 厚生労働省
公益社団法人アルコール健康医学協会
本書の詳しい内容は「うつ・双極Ⅱ型障害の治し方 ― 『うつの8割に薬は無意味』感想」で紹介しています。
ナミさん、メリークリスマス!
図と解説がとてもわかりやすかったです。
わたしもお酒の席ではもっぱらジンジャーエールです。美味しいですよね!
ナミさんこんにちは
今年もナミさんのメッセージにたくさん助けて頂きました
来年もよろしくお願いします
ブログ楽しみにしてます^^