睡眠障害を改善するためには、生活習慣や睡眠環境を見直すことが必要です。その上で、改善が見られない場合には、専門医による治療を行います。
一般的に、睡眠障害は薬による治療が効果的です。その他に、行動療法や精神療法も効果を期待できます。
睡眠リズムには個人差があるため、その人その人の症状に合ったやり方で治療を進めることが大切です。睡眠と覚醒にどのようにアプローチするのか、専門医の指導のもとで行われる治療法についてまとめました。
行動療法
薬を使わない治療にはさまざまな方法があります。
<行動療法>
・睡眠制限療法
・漸進的筋弛緩法
・自律訓練法
・瞑想 など
これらの方法によって、緊張を和らげ、心身をリラックスさせます。
それぞれのやり方を簡単にまとめます。
睡眠制限療法
眠れないときには、少しでも長く眠ろうとして、床にいる時間が長くなりがちです。その結果、不眠意識が強まり、症状が増長します。
「眠れない」という不安感を和らげるために、就寝時刻を設定して、睡眠を調整するのが「睡眠制限療法」です。
午前0時に床につくが、3時間しか眠れない。起床は午前6時。
↓
あえて午前3時に床に入る
↓
5日間連続で、寝床にいる時間の90%(2時間42分)以上眠れるようになったら、就寝時刻を早める
↓
午前2時30分に床に入る
↓
自分に必要なだけ眠れるようになるまで、これをくり返す
このようにして、床にいる時間と睡眠時間の長さが同じになるように調整します。急激にリズムを変えるとうまくいかないので、少しずつ(10~15分)でもOK。
「寝床にいる間は睡眠がとれている」という意識が不安や緊張を和らげます。
漸進的筋弛緩法
漸進的筋弛緩法は、全身の筋をぎゅっと強く緊張させたうえで、ふっと力を抜いて弛緩させる方法です。筋肉がゆるむ感覚を、イメージではなく身体で覚えます。
覚醒度を下げることで、眠りを誘います。入眠障害・中途覚醒に有効です。
【やり方】
1日2~3回、1回15~20分、最終回は就寝前
椅子に腰掛けるか、横になって行います。
トレーニングのやり方や順番は、解説本によって多少違いがありますが、基本の動作「筋肉を緊張→弛緩」は同じです。
それぞれの部位ごとに基本の動作を行ったら、最後は全身で行います。左右ひとつずつ力を入れて、体中に力を入れたら、逆の順番でひとつずつ力を抜いていきます。
この感覚をつかむことで、ストレス状況での筋緊張に気づき、早く対処できるようになります。また、緊張をコントロールできる自信がつきます。
詳しいやり方は『「うつ」と上手につきあう心理学』に解説があります。また、↓こちらのPDFファイルでも図解入りでわかりやすく説明されています。
漸進性筋 弛緩法 呼吸法 – 大阪府(PDFファイル)
自律訓練法
イメージの力を使って、段階的に心と体をリラックスさせ、自律神経に関わる脳機能を安定させる方法です。不眠への不安が強い人に効果があります。また、疲労回復、イライラ軽減、体の痛みや精神的な苦痛が和らぐ、心身の活動が安定するなどの効果も期待できます。
【やり方】
1日2~3回、1回5分程度、最終回は就寝前。
リラックスした状態で目を閉じ、次のイメージを思い浮かべます。
②「重感練習」は、心地よい倦怠感・体が床に沈み込むイメージを、③「温感練習」は、血管が循環して温かい感覚をイメージします。
睡眠障害の患者さんに行う場合は、重感練習・温感練習のあとに「眠くなる」イメージを追加します。
慣れてくると、本当に腕や足が重く、温かくなる感覚を得られます。
最後に、消去動作を行います。
腹式呼吸法
息を吸う・・・筋肉が引き締まって交感神経が優位になる
息を吐く・・・副交感神経が働いて筋肉がゆるむ
空気を吐き出すのと一緒に、体の力も吐き出すイメージで行います。
瞑想
1日10分、寝る前などに。心の中をからっぽにして、「今」「瞑想している自分」に集中します。
- 目は閉じず半眼、少し遠くの床をボーっと見る
- おへその下にある「丹田」に意識を集中させる
- 親指と人差し指で輪をつくる
【関連】心と体に休息を与えよう!ネガティブ思考を和らげる瞑想のすすめ
精神療法
不眠症の中で最も多いと言われる「精神生理性不眠症」。眠れないことを恐れるあまり、ますます眠れなくなってしまう、というものです。身体や精神の病気に伴う不眠と異なり、睡眠薬が効きにくいと言われます。「寝なくてはいけない」と緊張してしまう人には、認知行動療法をはじめとする心理療法が重視されます。
刺激制御法
不眠症の人は、「寝室は眠れない場所」と条件づけられてしまっていることが少なくありません。恐怖心や不安感を軽くするためには、眠ることにこだわりすぎないことが大切です。そのために、次のような指導が与えられます。
- 眠くなったときだけ床につく
- 寝室を寝ること以外に使わない
- 本当に眠くなるまでは寝室に入らない
- 夜中に目が覚めてしまったら寝室を出て別の部屋で過ごし、眠くなったら寝室に戻る
「眠ろうとすればするほど緊張が高まり眠れなくなる」、このことを理解し、心身をリラックスさせるよう心がけます。
読書やテレビ視聴は別の部屋でするのが望ましいとのこと。スペースの都合で難しいときは、できる限り、寝床には不必要なものを持ち込まないようにしましょう。
薬物療法
睡眠障害の治療では、主に睡眠薬が使われます。
・寝つきをよくする
・入眠後、途中で何度も目覚めないようにする
・睡眠時間を延長させる
・睡眠の質を改善する
睡眠薬と聞いてネガティブなイメージを持つ人もいますが、現在、治療に使われている睡眠薬は、重大な副作用や依存性はほとんどないそうです。
強い不安感や抑うつ症状によって眠れないときにも効果を期待できます。
高照度光療法
高照度光療法は、光によって体内時計をリセットし、生体リズムを整える治療法です。睡眠障害の中でも、特に概日リズム障害の治療に効果があるとされています。
毎日約2時間(午前6~9時の間)、蛍光白色光を照射
睡眠には、メラトニン(脳の松果体から分泌・夜眠るための準備をするホルモン)が関与していると考えられています。
メラトニンは、脳の視交叉上核(1日周期・約25時間の生体リズムで活動をコントロールする部位)に働きかけます。これが、生体リズムのペースメーカー的な役割を果たしているのではないかと言われています。
光療法は、季節性うつ病にも有効です。軽い気分の変動はあるものの、特に大きな副作用はないため、抗うつ薬など他の治療と併用できるメリットがあります。
断眠療法
断眠療法(覚醒療法)は、眠らずに朝まで過ごすことで睡眠の欲求を高める方法です。
眠ろうとしても眠れないうつ病患者さんの不眠改善に効果が期待できます。薬物抵抗性の難治性うつ病にも効果があると言われています。ただし、統合失調症やてんかんなどは、断眠によって病気の症状が悪化することがあります。
断眠療法は、ヨーロッパを中心に研究が進められており、眠らないことが生体リズムや神経伝達物質に何らかの影響を与えていると考えられています。
うつ病患者さんは、眠りを誘う睡眠物質がたまりにくいため、入眠までに時間がかかり、眠りをキープできません。この睡眠物質は、二晩断眠することで、健常者と同じくらいたまることが研究の結果わかっているのだそうです。
断眠療法は、医療スタッフのサポートが必要です。入院して、医師の指導のもとで行うのが一般的です。
機器を使った特殊な治療法
電気睡眠療法
電気睡眠(頭部に微弱な電流を通じることで誘発される睡眠状態)を応用した治療法です。中枢神経系に直接的に働きかけることで、緊張を緩和します。
【対象】
入眠障害を主訴とする軽症の患者さん(いくつもの睡眠薬を服用している重度の障害では、あまり効果を期待できません)
電気睡眠導入器を使った治療は、医師の指導のもとで行われます。
バイオフィードバック
筋電図や脳波を使って、間接的に緊張を和らげ、入眠を促します。
筋電図:前頭筋をゆるませる訓練
脳波:頭の中心部か後頭部に機器をセットし、アルファ波(またはシータ波)活動を増加させる
最後に
睡眠については、まだまだわかっていないことも多く、研究段階とも言われますが、ここに挙げた治療法は一定の効果を上げているそうです。
すべての治療に共通するポイントは、生活習慣や睡眠環境を見直すこと。
行動療法や薬物療法など、自分に合った治療と併せて、生活の質を向上させる。これこそが、睡眠障害の治療と言えるでしょう。
第1回 『睡眠障害解消法』健康な眠りのために心がけたい7つのこと
第2回 睡眠日誌のつけ方・適正な睡眠時間の見つけ方
第3回 睡眠の専門医による不眠解消のための3つの生活指導
第4回 【睡眠の基礎知識】睡眠のメカニズムと生体リズム
第5回 うまく眠れないのはなぜ?不眠の原因「5つのP」
第6回 眠れない?眠りすぎ?睡眠障害の種類と特徴
第7回 うつ病をはじめとする精神・神経の病と睡眠障害
第8回 睡眠障害の治療法(行動療法・光療法・断眠療法など)
第9回 【早起きのコツ】朝起きられないとき実践して効果を感じた方法
<参考書籍>
太田龍朗 (2006)『睡眠障害ガイドブック 治療とケア』弘文堂
井上雄一 (2007)『ササッとわかる「睡眠障害」解消法』講談社
高橋良斉 (2002)『「うつ」と上手につきあう心理学』ベストセラーズ
漸進的筋弛緩法、自律訓練法、呼吸法について、かなり詳しく解説されています。ただ、文字による説明なので、ちょっとイメージを掴みにくいかもしれません。
太田龍朗 (2006)『どうしてワタシは眠れない?快適睡眠88の即効レシピ』技術評論社
<参考サイト>
・大川匡子「第3章 健康なくらしに寄与する光 2 光の治療的応用―光による生体リズム調節―」- 文部科学省
・在外教育施設安全対策資料【心のケア編】 第2章 心のケア 各論 – 文部科学省