洗顔後、化粧水をつけますか?
ここ数年、面倒くさがり具合に磨きがかかって、朝晩のスキンケアを怠っていたのですが、数日前から丁寧に化粧水をつけるようになりました。
化粧水を手のひらに数滴落とし、もう片方の手でサンド。手のひらの中でローションをあたためてから、頬にのせます。顔全体を包み込むように、優しく丁寧に。化粧水が肌の奥までジワジワと浸透するのをイメージしながら10秒ほど目を閉じて……じんわりじんわりじんわり……。
これが大変気持ちいい。
顔から手を放すと、「ほ~~~~ぅ」と軽く放心。もうちょっと正確に表記するなら「ほうぇ~ん」ですね、「Whe~n」。若干の「ここはどこ?私は誰?」感もありますから、ぴったりです。鏡の中の自分に「おかえり」と言いたい気分になります。
鏡で自分の顔を見るのは好きではありません。だから、何らかのケアをするときには、鏡にぐぐぐと近づいて、顔の部位のみを見ています。
でも、化粧水後の「ほうぇ~ん」のときには、鏡の中の自分をまっすぐ見ることができます。「なんだこの顔」「ブスだな」みたいな俗世の価値観から解放されたような心持ち、なのかどうかはわかりませんが。とにかく、ちょっとした解放感を得られます。
やり始めてまだ数日ですが、心なしか肌にハリが出てきた気がします。
まぁ、雑巾洗うような扱い方からゆで卵を優しく包む扱い方に変えれば、そりゃ必然的にそうなりますわな。
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丁寧にスキンケアをしようとしたきっかけは、小池昌代さんの小説『タタド』を読んだことです。
50代の中年男がアロエ化粧水を顔に塗るシーンから物語は始まります。それがとても気持ちよさそうなんですよね。
物語の中ほどでも、化粧水を顔につけるシーンが出てきます。
海の見えるセカンドハウスに集まっった中年男女4人が、白ワインとおつまみでほのかに酔い、交代でみかん風呂に入り、アロエ化粧水を塗る。
「掌で頬を圧しじっと目を閉じる」4人。私も同じように、手で顔を包み込み化粧水がじんわり頬に浸透する様を想像していました。途中、一人が「なぜひとは、掌を頬にあてるとき、同時に目を閉じるのかしら」と心の中で問います。「ほんとだ!」って思わず言いましたよね、同じく心の中で。
試しに、目を開けた状態で手のひらを当ててみたのですが、味わいがまったく違います。目を閉じて、液体その他が浸透する様子をイメージしながら、無になるのが良いのです。
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うつ状態に陥ると、身なりなんか全部どうでもよくなるし、お風呂にもろくに入れなくなります。これは自分がダメなだけだと思っていましたが、どうやらよくある話みたいです。
そのとき自分は化粧水を使っていたのか……? これ1本でOK的なものを使っていたような……記憶がおぼろげです。
こういうときにスキンケアは難しいよなぁと思いつつも、でも、こういうときこそ、試してみるべきなんじゃないかと。きっと何らかの変化を感じられるはずです。鬱で無感動ゆえに、何も感じない可能性も多分にありますが。
何にせよ、じんわりと心地よいので、おすすめです。ふだん化粧水を使ったケアをしていない人にこそ、ぜひ一度試してみてほしいなーと思った次第です。
<本日の一冊>
小池昌代『タタド』
川端康成文学賞を受賞した表題作「タタド」。美しい作品に出会うと、自分の言葉で汚したくないと思ってしまうのですが、こちらはまさにそんな作品でした。ほのかに漂う死の匂いが今も残っています。