やるべきか、やらざるべきか。
対立する感情が生じたとき、あなたならどうする!?
と、選択を迫られるシチュエーションで、天使と悪魔が頭の中で言い合いするやつありますよね。漫画やドラマでよくあるコミカルパート。葛藤する様を楽しく観察できる定番の表現です。
もし、これが裁判だったら?
天使と悪魔の代わりに言い争うのは、弁護人と検察官。加えて、裁判官が双方の意見をジャッジします。例えばこんな内容。
さあ、あなたの頭の中で開かれる裁判はいかに。
「原告側どうぞ」「異議あり」「弁護人どうぞ」など、裁判の場面を思い浮かべながら考えてみたら、いつもとちょっと違う答えが出てくるかも?
きっと私の裁判では検事役が強いことでしょう。相手を責め立てる点においてかなり優秀かもしれない。対する弁護人はよわよわ。全然被告人をフォローしてくれない。裁判官もどちらかというと検察官の味方っぽくなりそうだし、雰囲気にも流されちゃいそう。
これは良くない。もっと冷静に判断して~!
いやはや、偏った考えを修正して、バランス良く考えられるようになりたいものです。
合理的な判断が下せるようになれば、日常で生じるしんどさも少しはラクになるはず。
検察官と弁護人と裁判官。一人三役、うまく演じられるよう努めましょう。
……というようなことを、ある漫画を読み終わった後に考えました。
その作品の名は『ひきだしにテラリウム』(九井諒子著)。
物事にはいろいろな見方があるんだよということを教えてくれるショートショートが33篇。裁判の話(「代理裁判」)も本作に収録された一篇です。
どの短編も面白くて引き込まれます。
現実と夢が溶け合っていく話とか、コマとコマの間の出来事が別視点で描かれる話とか、言葉の定義でちぐはぐになる話とか。
地球儀を眺めていると思ったら顕微鏡でしたみたいな飛躍あり転換ありで、どの話も心地よい裏切りが待っています。画風や温度感さえも飛び越えてダイナミックに展開していく。ぶん回されてたまらない。気持ちいい。
ベースとなるのは、ほのぼのマンガっぽい絵だから余計にメリハリがきいてくるんでしょうか。お話とお話の間に描かれるイラストもまたクスリと笑えて。上品な笑いだけでなく、思わず噴き出してしまうオチもあり。最後のコマに至るまでの経緯を思い出してしみじみとしてしまう系、すごく好き。
最初から最後まで、著者の視点や切り口に感心し通しでした。
すべて読み終わってから表紙カバーを眺めると、短編に登場したものたちがみんないるんですよね。楽しい。何だか世界がいとおしい。そんな気分になるのです。すごくない?
そんなこんなで『ひきだしにテラリウム』、私的大ヒット作でございました。