上手に生きられない者同士の友情、ダメダメだからこそ愛おしい『メアリー&マックス』感想

よかれと思ってやったことが相手を傷つけ、長い時間をかけて築いた関係が壊れた。

そんな経験をしたことはありますか?

どちらの立場もつらいですよね。

では、そんな経験をしたあなたは、その後、どうやって関係を修復したのでしょうか。

私はうまくいきませんでした、いや、できませんでした。

自分はどうすればよかったのだろう……。

『メアリー&マックス』というクレイアニメ映画を観てから、そんな問いが浮かんだままです。

あらすじと作品紹介

『メアリー&マックス』は、ひょんなことからペンフレンドになった二人の友情を描いた物語。

……と書くと、ハートウォーミングなドラマが思い浮かびます。

が、この作品を観た後にはそんな爽やかなイメージは吹っ飛びます。

主人公は、オーストラリアに住む8歳のいじめられっ子少女メアリーと、ニューヨークで孤独な日々を送る過食症&アスペルガー症候群を患う44歳太っちょ中年男マックス。

他にもさまざまな難しさを抱えたキャラクターが登場します。例えば、メアリーの周りにはこんな人たちがいます。

  • アルコール依存症の母親
  • メアリーに無関心な父親
  • 戦争で両足を失い、広場恐怖症と闘っているお隣さん
  • 吃音症で、うまくしゃべれない男の子

愉快そうな見た目に反して、かなりシビアな設定です。

とはいえ、決して重苦しいばかりではなく、楽しく観られる部分もたくさんあります。じゃがいもみたいにボコボコしたフォルムだったり、ひん曲がった汚い建物だったり、クレイアニメの素朴さが、ギスギスギリギリしそうな部分を和らげてくれるからかなと思います。

「キモかわ」と形容したらいいんでしょうか、独特のキャラ造形がクセになります。不気味さや不穏さを感じさせる雰囲気があって。私はすごく好きです。ヴィジュアルのテイストがキライでなければ、観て損することはないでしょう。

というわけで、ここからは内容にふれながら感想を書きます。まっさらな気持ちで映画を楽しみたい方は、作品をご覧になってからどうぞ。

 

感想:メアリーとマックスは偉い

メアリーとマックスは、長い月日をかけて友情を築いていきます。しかし、ある出来事により、信頼関係が崩れてしまいます。

なんでそんなことになったかというと、メアリーが「マックスのために」と頑張ったことが、逆にマックスを傷つけてしまったから。メアリーはよかれと思ってやったんだけど、マックスからすれば、それは自分を否定するのと同じで喜べない。それでカーッとなってしまうのです。

ここが冒頭に書いた話につながります。壊れた関係の修復は難しい。少なくとも私はうまくできなかったよーと。

なんですが、メアリーとマックスは友情を取り戻します。

二人は本当に偉いんです。

メアリーは自分の過ちを認めて謝りました。

マックスは最終的にそれを許しました。

言葉にすれば簡単なことですが、これはすごいことだと思います。

もし私がメアリーの立場だったら、彼女と同じように過ちを全面的に認めて、きちんと、心から謝罪できたか自信がありません。自分の善意と頑張りが人を傷つけていたなんて認めたくないし、自分が生み出したものをすべて捨てるなんてできない。謝罪はしても、心のどこかで言い訳してしまいそうです。

そして私がマックスだったら。メアリーのことを死ぬまで許さないんじゃないかと思えてなりません。口では「いいよ」と言えても、心から許せるだろうか……。ちゃんと謝ってもらえれば許せるのかな……。ちょっとわからないです。

いずれにしても、自分の愚かさや心の狭さを思い知らせるようで、心臓をキュッと握られるみたいな痛さ苦しさがありました(もし心臓を握られたらこんな感じなんじゃないかという想像です)。

欠点は選べない。欠点も自分の一部。欠点も含めて自分を受け入れる。

そんなマックスの言葉と態度を、果たして私は会得できるようになるのでしょうか。乞うご期待(期待できないな……)。

白黒世界の住人マックスにとってのメアリー

とりあえず印象に残った部分を一つ選んで書いてみましたが、他にもいいなと思うところはたくさんありました。

例えば、マックスの世界には色がありません。

けれど、メアリーの世界から届く物には色がついています。手紙にもチョコレートにも落書きイラストにも。

象徴的なのは、メアリーお手製の赤いポンポン。

これをマックスは自分の帽子にくっつけます。

そのときの画は、まるでマックスの白黒世界に希望が灯ったみたいで、嬉しくもあり、同時にどうしようもなく切ない。

だって、こんなに赤が映えるのは、それだけ他の彩度が抑えられているってことだから。マックスにとっては良くも悪くも刺激なんですよね。

そういう視覚的な演出が全編通してめちゃめちゃ効いてるんだろうなと思います。

ほんとにね、マックスの部屋のあちこちに、メアリーの純粋な思いやりが溢れていることに気づくと、じーんときます。思い出してもじーんときます。人間っていいなって感じです。

最後に言い残したことをもう少し

先ほども書きましたが、全編通して細やかに作り込まれているので、作中のどこをとっても面白いです。

音楽もよかったです。特に「ケ・セラ・セラ」の使いどころ。これはかなり気に入りました(「なるようになるさ」って、そう思えないから不安で焦って絶望してるんですと書いたことを思い出しました)。他にもキャラの動きに合わせた楽しい演出があります。

汚らしさもまた魅力で、メアリーのコンプレックスである額のアザはうんち色だし、瞳はドブ色だし、マックスは肥満でメタボっぷりがすごいし、誰も彼もやることは雑だし、動物はみな不細工だし、金魚の扱いはひどいし、マックスのイマジナリーフレンドは小汚いおっさんだし、整っているところが何一つないのが良い。いとおしく思えます。みんな可愛い。

先の話題で割愛してしまいましたが、メアリーの痛さも強烈です。誰からも愛されなくて泣いていたけど好きな人と結婚して幸せを知ったら調子に乗って「私はできる」「みんなを幸せにする」っつってマックスを傷つけて落ち込んで酒に溺れて廃人同然になる流れ。特にこの、増長してしまう感じ、心当たりありませんか、若気の至りと言いましょうか、私だけですか、そうですか、「もう…コロしてくれ……」ってなりましたよね。その点マックスには穏やかな気持ちで共感いたしました。

「人間はみんな不完全な生き物」
「まずは自分を愛せ」
「家族は選べないが友人は選べる」

などの言葉もあり、人それぞれ、心を揺さぶられたり、ちょんちょんと刺激されたりするパートがあるんじゃないかと思います。特に生きづらさを抱えている人は共感できるところが多そうです。

関係というものは長い長い時間をかけて育まれるものなのだなぁ、と感じられる映画っていいですね。

『メアリー&マックス』、とても素敵な作品でした。キャラグッズがほしくなりました。

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