『ハリネズミの願い』という本を読みました。オランダの医師で作家のトーン・テレヘンが描く、どうぶつたちの小説シリーズの一冊です。表紙の可愛らしいハリネズミが目を引きます。
今までに読んだことのないタイプの物語でした。他と何が違うって、ほとんど何も起こらないこと。
描かれるのは、ハリネズミがああでもないこうでもないと考えあぐねる様子。大抵はネガティブで、でもたまにおめでたい。だけど結局破滅的な考えに収まる。プラマイゼロ。しかも頭の中で考えているだけだから、行動もゼロ。一通りぐるぐるすると、ハリネズミは悩み疲れてベッドにもぐり込みます。
ハリネズミは動物たちが家に遊びに来てくれたらいいなと思います。
同時に、動物たちが遊びに来たときに生じる悪いことをあれこれシミュレーションしてしまいます。
こんな悲劇が起きたらどうしよう、きっと酷いことになるに違いない。
そう考えて「やっぱ遊びに来なくていいです」というところに落ち着きます。
だけどやっぱり寂しくて、動物たちの姿を思い浮かべ「もし○○を招待したら……」と考え始めて、以下ループ。
……と、まぁとにかくもどかしい。けど身につまされます。他人事だと「そんな悩んでないで、とりあえずやってみたら?」と言えるけど、当事者にとってはそんな単純な話じゃないんだよね、わかるよって。
本の紹介文には「臆病で気むずかしいあなたのための物語」とあります。
「複雑で繊細な感情」を持つあなたに。
時に「めんどくさい奴」と思われちゃうこともあるあなたに。
「あーわかる」と共感しつつも、「あーもーわかったから、もういいよ」とあきれ、だけど悩むのをやめられないこともわかるから「うむむむ」と唸る。
延々と続くネガティブ思考に少々ウンザリしながらも、この悩みの先に何があるのか気になって最後まで読んでしまいました。とっても素敵なラストです。
可愛らしいハリネズミの姿を思い浮かべつつも、途中から狂気がチラついているようにも感じて、それが何とも言えない魅力になっているのかなと感じました。
ではここで、ハリネズミと私の対話を少し紹介しましょう。
予想外の状況や悲劇について考えていた。途中で自分の考えを疑ったり、意見を変えたりしないようにしながら。
別に考えが変わってもいいんだよ? 最初の答えに固執しなくていいんだよ? 悲劇以外の可能性もあわせて考えてみるとよさげだよ?
まったく、すべてはなんてフクザツなんだろう
うん、その問題に関しては、自分で複雑にしちゃってるだけかな? 絡まった糸をほどこうと引っ張れば引っ張るほど、結び目が固くなってほどけなくなっちゃう感じかな?
ぼくはだれなんだろう? と考えた。いや、みんなもだれなんだろう? いやつまり……。
悩みすぎたときに陥りがちなやつね、混乱やら疲労やらで、もうすべてがわからなくなっちゃうのね。消耗してるときに自問すると、イケてない感じになるね。
……といった具合に、いちいちツッコミを入れたくなるんだけれど、同時にそのツッコミは自分にばっちり当てはまることも多く、思わず苦笑い。
ぼくはヘンで恐怖をかきたてて孤独で自信がない。ぼくにはハリがあって、それでもだれかにあそびに来てほしい。でもやっぱりだれにも来てほしくない……
このフクザツな感じ。
こういう人、嫌いじゃない。だって私もそういうとこあるし。
取り越し苦労で一日が終わる。そんなハリネズミの日常。
彼がベッドで悩み続ける姿を見ていると、逆にやる気が出るかもしれません。
あるいは、「すべてひっくるめてOK」とありのままの自分を受け入れる寛容さにたどり着くかもしれません。
私は「別にいいじゃん」と思いました。
どこかから聞こえる「こうすべき」「そうあるべきではない」という声に対して。
ハリネズミの行動は何一つ悪くなかったのだ、と納得感のようなものがありました。
風が通り抜けていった、そんな感覚に近い気がします。
更新ありがとうございます。
私の中では、星新一さんの小説に近いのかなと 思いました。 あくまでも個人の感想です。 機会があったら読んでみます。