緊迫した心をゆるめる11の言葉(エキセントリック精神科医・伊良部シリーズ三部作より)

考えても考えても答えが見つからず、行き詰まりを感じることはありませんか?

八方塞がりで、身動きが取れない……。

そんな状況に陥るとすごくつらいですよね。

この現状を打開するにはどうすればいいのか……。

抑うつ状態の真っただ中で、途方に暮れていた私が助けられたのは、第三者の客観的な言葉でした。それも、肩の力が抜けるようなゆる~いメッセージ。

授けてくれたのは、精神科の担当医です。言葉だけでなく、先生の飄々とした態度にも救われるところがありました。

この、何気ない一言によって「そうか」「確かに」と気づく瞬間は、なかなかの快感です。

というわけで、今日は似たような気持ちが味わえるかもしれない小説を取り上げます。

通称「精神科医・伊良部シリーズ」三部作。精神科を舞台にした楽しいお話です。

作品の中で、私の心にとまったドクター伊良部の言葉を11個選びました。

それでは、まずは簡単な作品紹介から始めましょう。

精神科医・伊良部シリーズ三部作

今から紹介するのは、『イン・ザ・プール』『空中ブランコ』『町長選挙』の三作。著者の奥田英朗さんは『空中ブランコ』で直木賞を受賞しています。

舞台となるのは、大病院の地下にある神経科(=精神科)。藁をもつかむ思いで病院に駆け込む患者たちの悲哀をコミカルに描いています。

診察室で患者を待ち受けるのは、勝手気ままな精神科医・伊良部と、気だるげなセクシー看護師マユミ。

現実ではありえないぶっ飛びな言動を次々とくり出しながらも、患者の問題を解決に導いてしまうのが痛快です。薬を使わない治療。これなら精神科専門療法料を取られても納得だなぁと思うほど。

1話完結の短編集で、さまざまな精神症状(強迫症が多め)が取り上げられています。

肩の力がいい感じに抜けるというか、「あはは~、そうだね~」と軽く笑いながら読み進められるエンタメ小説です。

うつのときは全然笑えないどころか不快になる可能性も否定できませんが、私は療養中の回復期に楽しく読みました(再読だったので読みやすかったのかな?)。

それでは、ここからは、印象に残った精神科医・伊良部の言葉を紹介していきます。

ドクター伊良部 11の名(迷?)言

1.「ストレスなんてのは、人生についてまわるものであって、元来あるものをなくそうなんてのはむだな努力なの」

そう、ストレスをなくすことはできないんですよね。ストレスがあるから適切な行動が取れることもあるわけで。

しんどいときは、別の刺激を追加して、ストレスを薄めるのが良いそうです。

「たとえば、繁華街でやくざを闇討ちして歩くとかね」
「(中略)命すら危ないときに、どうして家や会社のことなんかにクヨクヨできるのよ」

具体例をちゃんと挙げているのが良いですね。ほんと、命が危ないときに不安がっている暇はありません。

比較的気軽に命の危機を感じられるのは、水中に潜ることです。だから私は泳ぎに行きます。温泉とかもよさそう。

(「イン・ザ・プール」より)

2.「身体が求めてるんだもん。しょうがないじゃん」

「しょうがないじゃん」と言って、非合法なことをしてはいけないわけですけれどもね。

でも、そういうことでなければ、「しょうがないじゃん」で諦めてしまった方が精神衛生上はよさそうです。

「心身症なんてのは神の采配なんだから、自分じゃ抗わないこと。『あるがままに』がいちばんなんだから」

そうなってしまうものは仕方がない。ジタバタしても仕方ない。抗わない。諦めが肝心。

まぁ「あるがままに」ってのが難しいんですけどねぇ。周りのことを考えず、自分の気持ちだけで動いていたら、それはただの「わがまま」ですし。

森田療法の教えを上手に取り入れられたらいいのですが。

(「イン・ザ・プール」より)

3.「ま、人間の体なんてのは宇宙より不思議だから、深く考えないのも手だけどね」

ほんとに人間の体って不思議だな~と思います。

人の体は宇宙の縮図だなんて言ったりもしますよね。

だから、あんまり必死に考えすぎると、わからなすぎて、うわぁーーーーー!ってなる。

ほどほどに、あるがままを見つめる感じで。瞑想でもするといいですかね。

ちなみに、このセリフが出てくるお話のタイトルは「勃ちっぱなし」。生命の神秘です。

(『イン・ザ・プール』「勃ちっぱなし」より)

4.「調子が悪いときってね、無理しないのがいちばんなの。ぼくも気分が乗らないときは、さっさと休診にしちゃうし、あはは」

「気分が乗らない」も立派な判断材料になるのだと。何だか勇気をもらえますね。

さぁ、自信を持って休みましょう。

私も今日は休んじゃおう。あはは。

(『イン・ザ・プール』「コンパニオン」より)

5.「ぼく、実害がなければ放っておく主義なの」

実害がない、これ大事。

誰かを傷つけたり、迷惑をかけたりするのでなければ、自由にすればOK。

ここでもやはり「あるがまま」。

(『イン・ザ・プール』「フレンズ」より)

6.「生い立ちも性格も治らないんだから、聞いてもしょうがないじゃん」

治らないもの、変えられないものについてアレコレ言っても仕方がない。

そして、仕方がないとわかっているのにアレコレ言ってしまうのが人間。

人間はしょうがないもの。

ああ、いとおしい。

(『イン・ザ・プール』「いてもたっても」より)

7.「性格っていうのは既得権だからね。あいつならしょうがないかって思われれば勝ちなわけ」

いつも遅刻してばかりいるから、約束の時間を一人だけ1時間前に設定されるやつですね。にもかかわらず遅れる強者になりたいものです。

「あいつならしょうがないか」と思われるためには、時に下に見られることをも許容する必要があります。つまり、余計なプライドは邪魔になる。今すぐ投げ捨てましょう。

今すぐ投げ捨てられない人は、分別のある人です。ゴミは分別して、決まった日に捨てなければいけないですものね。

はぁ、強くなりたいものです。

(『空中ブランコ』「義父のヅラ」より)

8.「気にしない、気にしない、あははは」

そうなんだ~、AHAHAHAHAHA☆

と笑ってすませることができたらいいですね。

一休さんの歌でもありましたよね、「気にしない気にしない気にしないー!」って。

高らかに歌って「あいつに言ってもムダだ」と諦められる人を目指しましょう。

(『空中ブランコ』「ホットコーナー」より)

9.「(原因が)仕事なら仕事を辞める。近所付き合いなら引っ越す。対人関係なら消えてもらう」

「ああ、嘔吐症ね。要するにむかつくことがあると、ほんとに吐いちゃうわけだから、むかつく原因をはっきりさせればいいわけよ」(中略)
「それが仕事なら仕事を辞める。近所付き合いなら引っ越す。対人関係なら消えてもらう」伊良部が事もなげに言った。「一服盛るなら薬の銘柄ぐらい教えてあげるよ。えへへ」

原因究明とその除去。実に正しい。

一服盛るより、仕事を辞めよう。

(『空中ブランコ』「女流作家」より)

10.『いやだよーん』

以前紹介した漫☆画太郎先生の『星の王子さま』にもありました。端的な断りのセリフです。

王子は「やだーーーッ!!!」と叫びながら斧をズバーンと振り下ろした。一方、伊良部は「いやだよーん」と鼻をほじりながら言った。

というのはイメージで、鼻をほじる描写はないですが、そういう態度が伊良部にはあるのですよね。それが羨ましい。いや、羨ましくはないんだけれど、自分にはない怖いもの知らずの強さ。

私も「いやだよーん」とストレートに断れたら……。

やはりここでも効いてくる、「あいつならしょうがないかって思われれば勝ちなわけ」という言葉。至言なり。

(『町長選挙』「オーナー」より)

11.「ストレスを抱えて頑張るなんてのはナンセンスだね。流される、それがいちばん」

ああ川の流れのようにおだやかにこの身をまかせていたいのですけれど、なかなかそうはいかぬことも多く、ヒジョーに難儀いたします。

しかし、実のところ、すべては「しなければならぬ」という思い込みなのであった。

ということも多々あるので、しんどいときこそ、流される方向で進路を探ってみるのがよいかもしれません。

ジタバタせず、流されましょう。

(「町長選挙」より)

最後に(作品全体の感想を少し)

このページを作成するにあたって、3作すべて読み返したのですが、やっぱり私は『イン・ザ・プール』が一番好きです。

伊良部のもとに駆け込む患者たちに親近感を覚えるし、困り果てている患者と伊良部のテキトーすぎる態度とのコントラストが鮮やかで楽しいから(患者の苦しみを想像すると絶望的になりますが)。

第二作の『空中ブランコ』、第三作の『町長選挙』は、伊良部が外に飛び出して大活躍するのですが、それよりは、診察室でありえない振る舞いをしてほしいなぁと。精神科通いの自分と重ねて楽しみたい気持ちがあるんですよね。

あとは、看護師のマユミちゃんがパンクでカッコいい。『空中ブランコ』の5編目「女流作家」ですごい好きになっちゃいました。

テキトーなようでいて、含蓄のある言葉もあり。こんな精神科医が実際にいたら面白いですよね。

心の病気を扱う精神科医は、人間力も大切な要素の一つだなと改めて感じました。
 

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