「迷惑＝死ね」じゃないのに、どうしてそう感じてしまうんだろう？

「迷惑なんだけど」

そう言われたとき、あなたはどんな気持ちになりますか？

私はしゅんとしてしまいます。もちろん状況によって反応は変わると思いますが、「迷惑」という言葉に小さな恐怖を感じるであろうことは間違いありません。

おそらく根底に「迷惑をかけるのは悪いこと」という意識がこびりついているからです。「お互い様だよ」と言いながらも、「迷惑を最小限にすべし」という強力なルールが発動しています。

なぜ責められている気がするの？

あるとき、「～な人って迷惑だよね」と話をしている人がいて、胸が痛みました。内容を要約すると、仕事を要領よくこなせない人は迷惑ということなのですが、その内容より、発言者が迷惑だと感じている事実に敏感に反応してしまいました。

なぜ私は「迷惑」という言葉にこんなにドキドキしているんだろう？　と考えて気づいたのは、「迷惑＝死ね」という思考が自分の中にあること。文脈に関係なく、「迷惑」が「死ね」に変換されてしまうんですね。だから、私はこの言葉に怯えてしまうわけです。

こうやって書いてみると、何ともまぁ極端な考え方です。なんでそんなことになっちゃったのか。特にこれといった要因は思い当たりませんが、強いて挙げるなら、子供の頃の体験でしょうか。

「あなたがここにいるだけで迷惑」
「目障りだから消えてくれる？」

こういうことを言われた経験が影響しているのでしょうか。そうだと認めたくないんですけどね。きっとこれだけがすべてじゃないから。

でも、今改めて見てみると、ひどいですね。存在していることを否定されちゃったらもうどうしようもない。言葉の綾だったとしても「早く死んで」とかアウトですよね。ジョークとかじゃない笑えないやつです。もし、こういうことを言われて泣いている子がいたとしたら、今すぐに抱きしめてあげたくなります。あー、なんかいろいろ思いを巡らせてたら泣けてきました。迷惑だからって存在を否定するってどんだけひどいの？！　って感じですね。ああ、もう。

「迷惑＝死ね」のニュアンスを和らげる方法

「迷惑」とは一体なんでしょうか。

例えば、先の話のような「仕事を要領よくこなせない人がいて迷惑」という不快感。それから、うつ病で仕事を長期休んでいる人がいるとしわ寄せがきて迷惑だと言われることもあります。その一方で、多くのうつ病患者さんは「自分が休んでいるせいでみんなに迷惑をかけている」という罪責感に苦しんでいることでしょう。

もっとわかりやすいところだと、狭い映画館で前の席の人がすごい盛りヘアーだったときとか、店内でぎゃーぎゃー理不尽なクレームつけてる人がいたときとか。あとは、自分が好きじゃない音や臭いを発している人がいたときにも不快になります。

こうやって考えてみると、自分が嫌だと思う対象を排除したいという意識が見えてきます。だから、「迷惑＝死ね」は極端ではあるけれども、完全な間違いではないのかもしれません。いや、完全に間違いなんですけど、気持ちの方向性としては同じなのかな、と。

でも、騒いでいる人に対して「迷惑なんですけど」と言う人がいても、そんなに嫌な感じはしません。いや、もうちょっと他の言い方がいいと思うし、どうせ私のことですから、迷惑という言葉に怯えるんでしょうけど、「ごもっとも」とは思います。それは、何をどう変えればいいか明確だからです。「それさえ直してくれたらOKだよ」というメッセージだと思えば、まったくもって健全な「迷惑なんですけど」です。

「迷惑だなぁ」と思うときの気持ちは、言い換えると「いやだ」です。それは個人的な理由です。主張すべき権利なのか、ただの自己中なのかはわかりません。

そういう言葉に心を乱されてしまったときは、ちょっと変換してみると、印象が和らいで受け取りやすくなります。

「迷惑なんですけど」
　　　↓
「嫌なんですけど」
「とんだとばっちりだぜ」
「この悲しみをどうすりゃいいの」
「○○が◆◆なせいで、オイラがこんな思いをしなきゃならないんだゾ！」

3つめのセリフはユニコーンの「大迷惑」、サビのフレーズです。単身赴任で妻と別れて暮らさなきゃならないなんて大迷惑！　めっちゃ個人的な理由で迷惑と言っています。決して「死ね」「消え失せろ」という意味ではありません。むしろ哀しみや寂しさを感じさせる怒りを含んだ嘆きは、一言で言い表せない味わいがあります。

みんな頑張ってる

どんなとき「迷惑だ」と口にしたくなるのでしょうか。

「あぁ、迷惑だなぁ」つぶやき
「あの人迷惑だよね」ヒソヒソ
「迷惑なんですけど」面と向かって

こうやって並べてみるとわかるのですが、面と向かって「迷惑なんですけど」と言うのは刺激が強いですね。もちろん先の話のように「○○を直してくれたらOKだよ」という指摘は別です。そういう納得できる理由もなく、感情的に「迷惑！」と言ってしまうのは悲しいです。

でも、そう言いたくなる気持ちが間違っているわけではありません。もっともな主張であることも多いです。

例えば、社内にうつ病で休んでいる人がいて、その分の仕事をフォローしている社員さんがいたとしましょう。

「なんで私があの人の尻拭いをしなきゃいけないの！？」

そうじゃないと仕事は回らないから。でも、そう言いたくなる気持ちはもっともです。だからといって、迷惑だと当人に言っても状況が良くなるわけではありません。そのセリフは経営側に言うのが良さそうです。でも、現場の主張は大抵聞き入れてもらえないから結局のみ込むしかなくて、

「あﾞーーーもﾞーーー！！！」

こうなると休んでいる人の至らない部分ばかりが目について、ますます腹が立ってきます。いつもより仕事量が多くハード。当然疲れてきます。心の余裕がなくなります。イライラも増幅します。

「なんで私ばっかり！！！」

あぁぁぁぁ……そんなに怒んないで……（泣）。感情的になって人格否定に近いものが出てしまう人もいますし、「迷惑」と断罪する人のことは「なんてひどい人！」と思ってしまうのですが、別にこの人は悪くありません。優しくはないかもしれないけれど、フォローしてくれているわけだから、それを思えば、「ダメだよ」とは言えません。むしろ「ありがとう」。

とは言っても、「私は迷惑な存在だ」と散々自分を責めている人にとっては、こういう発言がとどめの一発になるので、何とかして穏やかに接していただきたいのですけれど。

「こんなにも相手に負担をかけて不快にさせてしまった自分はなんて罪深い人間なんだ」と考えてしまうときは、もう、なんか、とにかくつらいですよね。こういうときこそ完全に思考が「迷惑＝死ね」ですよね。

もう今はとにかく休みましょう。あなたは悪い人間じゃないし、迷惑な存在じゃないし、甘えてばかりでもありません。まずはゆっくり身体を休めて、治療に専念しましょう。

というのがうつ病患者さんへのメッセージ。