双極症の手引書を読みました。世界的ベストセラーだそうです。
世界中で読まれている双極症のガイドブック、待望の日本語訳。双極症にありがちな体験から治療法、対処のコツまで網羅した決定版。
当事者のエピソードがわかりすぎて泣きたくなったり、あるあるネタ多数でウケたりしながら読みました。というのは大げさなコメントですが、なるほどと膝を打つところが多く、勉強になりました。
まず読んだ感想をざっと書き出してみます。
- 当事者の話の断片が各所に挿入されており、リアリティをもって本文を読むことができる
- 具体的な対処法、ワークシートの提示が多数あり、参考になる
- なるほど納得なたとえが多数。自身の感覚を理解するのに役立つ
- 一般的な病気の解説本に比べると、人生や生き方についての言及も多く、踏み込んだ内容になっている
- ボリュームのある内容なので、働かない頭で読むのは大変だった
- 症状への対応、治療の方針、病気の向き合い方、全体通してとても勉強になる
以下、もう少し詳しく書きます。
「わかる」「それな」なエピソード多数
双極症当事者の話の断片が各所に挿入されており、リアリティをもって、あるいは共感しながら本文を読むことができます。
たとえば、「私が双極症というなら、みんな双極症じゃない!?」という言葉。私もしょっちゅう思ったし、ブログでも何度か書いてると思います。同じくよく言及するものとして、やっちまった躁症状を思い出すせいでその後のうつがさらに酷いことになるよねという話もそう。深く頷きます。
他にもいくつか挙げたいものがありますが、話が長くなるので割愛。
「自分の気分に、愛憎の入り交じった複雑な心情を抱いている (p.184)」、これは著者の解説ですが、まさにそんな感じです。一言では言い表せない。それを補ってくれる当事者の言葉の数々です。
ケイ・ジャミソンさん(双極症当事者で精神科ドクター)の言葉も多く引用されていて、説得力を高めています。
『躁うつ病を生きる:わたしはこの残酷で魅惑的な病気を愛せるか?』感想 | ナミうつブログ
取り入れやすいワークシート
具体的な対処法、ワークシートの提示が多数あり、参考になります。
これらをまとめたPDFファイルが日本評論社の書籍詳細ページから参照できます。ありがたい。
手軽にワークを始めたいという人には「ココロのリズム」アプリがおすすめです。
双極症の生活モニタリング・アプリ「ココロのリズム」を使ってみた | ナミうつブログ
なるほど納得!秀逸なたとえ
「エンジンの出力障害」
双極症は気分の障害というだけでなく、エンジンの出力障害でもある。(p.46)
このたとえは、自身の状態を理解する上ですごくわかりやすいと思いました。意欲というエンジンパワーのアップダウンが双極症の本質的な病態なのだと。
このイメージで考えると、解決策を見つけやすくなりそう。エンジンの出力具合を調整するにはどうすればいいか考えればいいわけですものね。
「やる気はスピードメーター」という話と通じるところがありそうです。
めんどくさいのは気のせいですし、量子の世界はめちゃ面白そうです | ナミうつブログ
「恋」
もう一つ、なるほどなぁと納得したのが恋のたとえ。人に説明するとき伝わりやすそう。
ある患者は、躁状態を恋にたとえている。恋に落ちれば、浮かれ気分で、幸せで、意欲的になり、眠らずに相手のことを考え、自分に自信もつき、魅力が増し、色気もつき、より多くの人と話し、より多くのことに挑戦したくなる。その患者は、「もしあなたが恋に落ちているとき、その恋心を一瞬で消し去る薬の持ち主が現れたら、きっと『早くどこかに行って』と、叫ぶでしょ?」と言っていた。(p.184)
前に似たような話を書いていました。
落ち込みや感情の高ぶりについて ― 恋をして冷静さを欠いた人の姿から考える | ナミうつブログ
君たちはどう生きるか
一般的な病気の解説本に比べると、人生や生き方についての言及も多く、踏み込んだ内容になっています。
基本的には「そうだなぁ」「たしかになぁ」「なるほどなぁ」と思うところが多いのですが、たまにビミョーなところがある、というのが正直な感想です。
たとえば、明るい未来をすごい見せようとしてくるじゃん!っていうね、思いをね、少々感じたりしました。
第1章「この本を読んで未来を描こう!」という見出しの言葉からしてまさにそうなんですけれども。
日本の先生が書く本でこういう感じはあまりない気がします。文化的なノリの差とかあるんですかね。ただの個人差ですかね。このあたりは好みだと思います。
ボリュームのある内容
「双極症のすべてを網羅しちゃるっ!」という気概を感じます。
だから私も目次を見た時点で「うおーここに私の求める情報がありそうだ」と興奮しました。
が、それゆえに膨大な情報量になっているとも言えます。
躁・うつ・混合状態の組み合わせ多数の双極症について説明するのは大変ですよね、こういう傾向が強い人は○○、こういう考え方の人は□□、反対にこういうタイプの人は△△……といった具合にフォローしていかないといけないから。
そんなわけで、働かない頭で読むのは大変でした。
が、症状への対応、治療の方針、病気の向き合い方など、勉強になりました。双極症当事者やその周囲の人たちにおすすめの本と言えると思います。
おわりに
双極症当事者である私が本書を読んで改めて痛感したのは、再発に注意することの重要性。
コントロールできていると思っても、双極症は思いもよらないときに再発する。「体質的ななりやすさ(再発しやすさ)」は存在し続けている。
これを忘れないことが大切です。
さらに、この本を読んで自分のあり方も見えました。
「未来」や「希望」を示す本書だからこそ、自分はすべてを諦めることで対処したんだとよくわかりました。自分はすでに死んだものとして生きているから、未来や希望という類のものは遠い世界のことのよう。
この本が目指すところからは外れてしまうかもしれないけど、それでいいじゃないという気持ちがあります。私なりの受容のかたち。それでメンタルがそれなりに落ち着いて、自分も納得しているんだから、間違いではないはずです。
って、まとめるつもりがただの自分語りになってしまった。
ともあれ、『本人と家族のための双極症サバイバルガイド』、学ぶところがいろいろあったので、今後またブログでふれる機会があるかもしれません。
表紙の色合いがまたいいなと思いました。