自分の意見を言えなくなる!?多数派に抗えない「同調」の心理

みんなお揃い!マルチボーダーの靴下

当たり前の生活が当たり前でなくなったときの寂しさ。みんなと同じ選択ができない不安感。

それは自然な反応です。

周りの意見に惑わされずに生きるのは、簡単ではありません。

今日は、そんな人間の心理を科学的に証明した実験をご紹介します。その事実を知ることで、「こんなことでいいのだろうか?」という不安を少しは軽くできるかもしれません。割り切りの態度も学べるのではないかなと思います。

明らかに間違いだとわかっていても流されちゃう

社会心理学者のアッシュが行った有名な実験があります。ひとりで正しい意見を主張し続けるのは大変、ということを証明した研究です。

実験の流れを簡単にまとめると、こんな感じです。

まず、次の2枚のカードを見てください。

アッシュの実験で用いた刺激の例

左のカードの線と同じ長さのものは、右の1~3のうちどれですか?

正解は「2」。どう見ても「1」や「3」ではないですよね。

次に、7~9人のグループでテーブルを囲んで同じ質問をします。あなたの回答順は最後から2番目。

さぁ、実験スタートです。先ほどの形式の問題に参加者が順番に答えていきます。当然、全員が同じ正答を選びます。答えは誰の目から見ても明らかですから、間違えようがありません。

しかし、3回目以降、参加者は間違った回答を選びます。しかも、みんな同じ答え。(例えば先の問題で言うと、あなた以外の全員が「3」と答える)

最初は、「あはは、バカだな」「どう見たってそれは短いだろ」と笑っていたあなたですが、3人目4人目と誤回答が続くと……?

「え? え? え?」となって、他の人と同じ答えを選んでしまうのでした。

そんな同調実験。あなた以外の参加者は、全員サクラ(実験協力者)だったのです。

味方がいれば心強い

さらにアッシュは、同調行動に影響を与えているものは何か調べました。そのうちの一つが「同意者」の存在です。自分以外にひとりでも正しい答えを選ぶ人がいれば、他の全員が間違えても、正解を選ぶ人が増えました(同調による誤答率は1/4くらいに減少)。

しかし、「同意者」が途中から他のサクラたちと同じ誤答を選ぶようになると……? 自信を持って正しい答えを選べなくなってしまうのです。

これと比較するための条件として、「同意者」が途中退席したらどうなるか調べたところ、誤答を選んだ人はそこまで増えませんでした(正解する人が多かった)。

つまり、味方がいるという事実が心の支えになったわけですね。

一人でも賛同者がいれば自分の意見を言いやすくなるが、味方だと思っていた人が多数派に回ると不安になる。日常生活でも経験することです。それが実験で証明されているというのは面白いですね。

なぜ同調してしまうのか?

では、なぜ人はこのような行動をしてしまうのでしょうか?

「もし自分が同調実験に参加したら?」と考えたとき、生まれるであろう気持ちは、

・自信がない(みんなが正しいのでは?)
・バカにされるのが怖い

自分の答えに確信を持っていも、不安が芽生えると「みんな」に同調したくなります。

日常の人間関係においては、「嫌われたくない」「波風を立てたくない」という思いが行動を大きく左右しそうです。みんなと違う意見を主張するのは心に負担がかかります。明らかな正解がなければ尚更。「そんなしんどい思いをしてまで通したい自分の意見なんてないよ」、これはまさしく私がよく口にする言葉です。

さらに、私は「いじめ」を思い浮かべました。みんなと違うことを理由に排除されることがある、その脅威から身を守るために「みんなと同じ」を選ぶ。

同調は、生き延びるための戦略と言えるのかもしれません。良いかどうかは別として、「長いものには巻かれろ」という処世術にも納得です。

「あなたはひとりぼっちじゃないよ」

みんながやっていることを同じようにできない状態はしんどい。

その中で耐えているあなたは偉いね、頑張ってるね。

今日の話から、そんなメッセージを取り出すことができます。

ついつい人と比べてしまうのも、みんなと違うことを恐れる気持ちが多少なりとも関係しているのかもしれません。ひとりだけ違うのはすごく心細いことだから。

前回も書きましたが、多数派に流れるのは悪いことではなく、ごくごく自然な反応。

それに抗わなければならない状況にいる人、味方を見つけられない人はちょっと大変。もしあなたがそうならば、私は応援したい。このブログがアッシュの同調実験における「同意者」になったらいいなと思います。

正しい答えを選ぶのが難しいときに、あえて間違いを選ぶしたたかさを身につけると、世の中をうまく渡っていけるようになるのかもしれませんね。

同調実験では、一貫して自分の意見を変えなかった人は全体の25%でした。彼らのような姿勢、正しいものを正しいと言うハートの強さを見習いつつ、自分を苦しめずにすむ選択をしていけたらいいのかなぁと思います。

 

<参考書籍>
岡本浩一(1986)「同調の古典的パラダイム」『心理学ショート・ショート 実験でとく心の謎』新曜社 pp.4-14

<参考サイト>
日本心理学会「同調」心理学ミュージアム(http://psychmuseum.jp/tuning
山口裕幸「行動観察と社会心理学第3回 多数者意見の影響力は個人の行動をどのくらい束縛するか:同調行動に関する社会心理学の研究」行動観察研究所(http://www.kansatsu.jp/service/kansatsu-x/column/detail/88
藤島喜嗣「社会心理学 講義ノート3 個人と集団編3 同調と逸脱」藤島喜嗣のホームページ(http://homepage3.nifty.com/fujishima/showa/shakai03.htm

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