「この人は一体何者なんだ?」
「橋本治」と検索したとき、浮かんだセリフ。
橋本治とは。作家として紹介されることが多いようです。幅広い作品を手がける人だと聞いたこともあります。
小説、脚本、エッセイ、評論、画集。著作の数がとにかく多い。すごい。多彩。圧倒的。でも、よくわからない。何から手をつけたらいいのか迷ってしまいます。仕方がないので、有名っぽい『桃尻娘』を読みたい本リストに追加しました。
それから数年後。橋本治さんは2019年1月に亡くなりました。何人もの著名人が「橋本さんのここがすごい、あそこがすごい」と各所で語っており、改めてその偉大さを知りました。
でも、やっぱりどういう人なのかよくわからない。わかったのは、とにかくすごいから作品にふれるべき、ということだけ。
そんな橋本治さんが回答する人生相談。幻冬舎plusの連載「かけこみ人生相談」(2013年11月~2017年8月分)を書籍化したものです。
するするっと読める分量ですが、噛めば噛むほど味が出る要素もあり、満足感を得られます。
メディアで見かける人生相談。そのスタンスはさまざまです。「誠実に向き合う」「斜めに向き合う」「ゆるく向き合う」「とにかく寄り添う」など、回答者の人柄や個性が魅力となります。橋本治さんが回答する本書は「正しく向き合う」という印象です。これまでに読んだ人生相談本の中で、最も的確かつ実践的な回答だと思いました。
橋本治さんは、行間を読み取って、質問者の気持ちを探ります。そして、言葉にならないモヤモヤ、ぐちゃぐちゃになった悩みを整理してくれます。
根っこにあるお困りごとを「これじゃないですか?」と目の前に差し出す。その手さばきの見事さに「ほぉ~」と唸る。そのくり返しでした。
自分の悩みを把握するのは難しいものです。他人のことなら「こうすればいいじゃん」「そんな悩まなくても大丈夫だよ」と思えるのに。中には「どうしたらいいんだろう。これは難しい問題だ」と困ってしまうこともありますが、悩みすぎてこじらせることはない。シンプルに考えられます。
どうして自分のことだとわからなくなってしまうのでしょうか。不合理な感情が邪魔をするからでしょうか。悲しい・苦しい・つらい・悔しい・エトセトラ。もがけばもがくほど這い上がれなくなる。嫌だと思っていることを無意識に避けてしまうこともあります。自分が回避している事柄に向き合って乗り越えるのは難しいことです。
そんなときには、伴走者がいれば頑張れるのかもしれません。本書にもそんな回答がありました。「一緒に頑張ろう」と言ってあげて、というアドバイスです。
どうしたら悩みを整理して、自分で考えられるようになるのか?
人と話して考え方の幅を広げれば、ヒントが見つかるかもしれません。
そう、だからこそ、人生相談本をつい手にとってしまうのです。ズバリな答えがほしいから。自分の頭で考えようとしても、堂々巡りに陥りがちですからね……。
自分の悩みが何なのか、まずは理解すること。それが大事だと教えてくれる本書は、問題解決を目指すとき参考になりそうです。
ちなみに今一番読みたい橋本治さんの本は、『男の編み物、橋本治の手トリ足トリ』です。