躁状態だった自分と向き合うのはしんどい/『絲的ココロエ』感想

双極性障害をテーマに書かれたエッセイ『絲的ココロエ』を読みました。

著者は、芥川賞作家の絲山秋子さん。双極性障害(Ⅰ型)を患い、長年治療を続けてきた経験をもとに、病気や障害とうまく付き合っていくための心得を綴っています。

双極性障害(Ⅱ型)と診断されている私の心をざわざわと波立たせるパートもあり、共感も多い内容でした。

躁だったときの言動を思い出すのはしんどい

一番印象に残ったのは、「躁状態と恥の意識」について書かれたパート。躁状態の行動を振り返るのはつらいという話です。つらいがゆえに当事者が詳細を語るのは難しく、躁状態に関する情報が少ないのではないかというのはその通りだと思います。

私は双極Ⅱ型障害という診断が出されていて、それにのっとった治療をしています。今は再発防止をメインに通院している感じです。

双極Ⅱ型障害は、うつ状態と軽躁状態が起こる病気です。私のこれまでを振り返ってみても、軽躁と思われるエピソードはいくつか思い浮かびます。でもそれは単なる若気の至りと言われれば、そうなのかなという気もします。病気の症状だったのか、ただ未熟だっただけなのか、よくわかりません。

とはいえ、病気になる前の自分、あるいは症状が落ち着いていたときの自分、今の自分をベースに考えれば、ありえない振る舞いだったことは間違いありません。周りの人に「おかしかったよね?」と言われる程度ではありました。

というわけで、病的な傾向はあったと捉えて、絲山さんの話と重ねさせてもらうことにします(長い前置きおわり)。

 
軽躁と思われる時期の言動を思い出すのはつらいことです。思い出したくない。思い出すと死にたくなる。迷わずそう書いてしまうほどにはつらい。語るのはかなり難しいです。

絲山さんも具体的なエピソードは語っていません。「自分が躁状態だったときのことをまざまざと思い出すことは、この病気で一番つらいことである」とも書いています。あまりにもダメージが大きすぎるのですよね。躁の症状がより強いⅠ型であれば尚更でしょう。

絲山さんは「私の書き方が大袈裟で不誠実、あるいは無責任だと感じる方もいるかもしれない」と書いています。でも、私はむしろ誠実に向き合おうとしていてすごいなと思いました。私には全然できていないことです。

とは言っても、絲山さんの言うとおり、当事者以外の方に理解を広めるためには、これではほとんど伝わらないだろうなとは思います。どうしたものか。難しいところです。

罪悪感について

このあたりの話について考えるとき、私の頭には恥と罪悪感という言葉が浮かびます。

同時に、罪悪感については、自分を守るための嘘っぽさを感じることもあります。私の中にいる意地悪い奴は「罪の意識を感じることで赦されようとする小賢しさがあるよね」と言います。優しくなくて泣いちゃいますね。

人に裁かれたり罰されたりすることがない代わりに、自分で自分を裁き罰してみることも的外れのような気がします。でも、やめられない。それがないと自分を保っていられないと思い込んでいるのだと思います。

どうしたらいいのかわかりません。死ぬまで直らないと居直っている節もあり困ったものだと苦笑いしている自分もいます。

最後に

この本を読みながら、自分のことをいろいろ考えました。絲山さんの話を聞き、「私はどうだったかな……」と自問する。そのくり返しです。

全体通して共感する部分が多かったです。病気の話はもちろん、女性性に対する感覚も重なるところが多くありました。もやもや感じていることをわかりやすい比喩で説明してもらってスッキリ頭の中を整理できた感じもあります。

冷静に淡々と書かれているところも読みやすかったし、好感を持てました。

結局のところ、病気の症状には個人差があって、付き合い方も人それぞれ。病気については個人的に語ることしかできないんだよなとつくづく思います。

一般化できる部分もあるけれど、当事者的にはそうじゃない部分こそ重要で、役立つヒントがつまっている可能性が高いのかなとも思います。誰かにとってはこの上なく素晴らしい答えであり、また誰かにとっては毒にも薬にもならない役立たずなもの。場合によっては強い毒になることもあるのかもしれません。性格も体質も人それぞれ違うんだから、当たり前といえば当たり前なんですが、忘れがちなので要注意と自分に改めて言い聞かせました。

人様の人生がどんなものか、そのストーリーを聞かせてもらうのっておもしろいですね。自然と「私もなんとかやっていこう」と思えます。

『絲的ココロエ』、エッセイのような気軽さで読み終えましたが、私にとってはかなり印象深い一冊となりました。

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