病んだ時こそ本を読もう。ピース又吉の読書ガイド『第2図書係補佐』

いい本を読みました。

【内容紹介】
お笑い界きっての本読みピース又吉が尾崎放哉、太宰治、江戸川乱歩などの作品紹介を通して自身を綴る、胸を揺さぶられるパーソナル・エッセイ集。巻末には芥川賞作家・中村文則氏との対談も収載。

読みながら何度も声を出して笑っちゃいました。本を読んで吹き出すってなかなかないですよ。さくらももこ大先生以来でしょうか。又吉さんの文章は情景がありありと目に浮かぶんです。そうやってホワワ~と想像しているところに、ポンっと絶妙なオチが展開されて、「えーっ」と嬉しい驚きがあったり。

さすがお笑い芸人。でも文章のベースは冷静というか暗め。彼のイメージそのままなんですが、その雰囲気とアクシデントの温度差が何とも言えない心地よさ。ギャップや意外性ってのは笑いに欠かせない要素ですね。

さて、本書では47の作品が紹介されています。と言っても、又吉さんの個人的なエピソードがメインなので、「本のある生活」がテーマのエッセイ集といった趣。作品について触れるのは3~5行程度。登場人物の描写や物語の展開など、詳しい内容についてはほとんど触れられていません。それなのに、なぜかその本の魅力が伝わってくる。「読みたい!」という気持ちが自然にわいてくるんです。「本の世界」と「又吉さんの世界」それぞれの存在に引き込まれるような感覚。しかも、その二つの世界はつながっていて、「私もその本を読んだらつながりが持てるんだ」とワクワクするような、自分の世界が広がる希望みたいなものを感じました。いや、希望っていうのはちょっと大げさですね。

この本を読んで、又吉さんがすごく気になる人になりました。なんでしょう、「誰も見てないところで変な顔したりアホなこと考えたりしてるの知ってるんだからねっ」という幼馴染的な感覚でしょうか。うーん、小説の登場人物に親近感を持つのに近いですね。友達じゃないし家族でもない。恋人とも違う。不思議な関係性。

そんな彼が紹介する本の中に、自分の好きな本があるとすごく嬉しい。「あー、私もそれ読んだ!」とキャピキャピしたり、「うむ、さすがわかっておるのぉ」と身の程を忘れて上から目線でうなってみたり。やっぱり気持ちを共有できるっていうのは喜びですね。自分とは違う捉え方を知ると視野が広がりますし、刺激を受けて次の行動につながります。表現するってことは生きる上で欠かせないものなんだと今改めて感じ入っております。

だからやめられない!読書の醍醐味

中村文則さんとの対談も興味深いものでした。

本の世界にのめり込んでいった背景について語る2人の言葉に思わず共感。

又吉 子供の頃ってみんな、いつか自分に最強の力が現れてすごいことになるって。自分がスーパースターやみたいな、そういう感覚って持っているじゃないですか。それをきれいに打ち砕いてくれたじゃないですけど、“あ、自分は普通やん” と思えたというか。自分が考えているようなことをもっと高いレベルで考えている人がいっぱいいて、言葉にでけへんことを既にしている人がいっぱいいて、自分が発明家でもなんでもなかったと思えたのが、すごく気持ちよかった。それに “これは思ったことがある” “これも思ったことがあるけど、他の人も思ってるんや” っていう確認作業ができたり、自分が思いもつかへんかったことを書いていることが楽しかったんですよね。

中村 それくらいの年齢っていうのは “自分だけがこんなに暗かったりするのかな” とか、“自分ってちょっと異常なんじゃないだろうか” とか思いがちなんです。僕なんかはそういう時に本を読んで、“あ、俺と同じくらい変な人がいる” とか、“俺と同じように暗い人がいる” とか、“俺と同じように大多数じゃないのに生きている人がいる” とかっていうところで安心したりもしていたんです(……)

この感じすごくわかります。特にうつ状態がひどくて毎日ドロドロした陰鬱の中で過ごしていた頃は、「自分だけがこの苦しみを知っている」という優越感と劣等感が混在するような感覚でした。それが、本を読んだら「同じこと書いてある!」という驚きと「私だけじゃない!」という喜びがあって。「あーこの感じめっちゃわかるーーー!」と読み進めていくのが何とも言えない快感でした。いや、当時は快感じゃなくて悲愴感しかなかったんですけど。でも、今思うとやっぱりそれは喜びですね。暗闇の中にいたからこそ知ることのできた光。

本とシュークリームがあれば何とかなる

最後、中村さんに今後の目標について訊ねられたときの又吉さんの言葉。

「まず生きていこうとは思っています」

すごくいい。私にとってもこれは最大で最高の目標です。

あとがきでも又吉さんは「中村さんの新作が読める限り生きて行こうと思います」と語っているのですが、これってすごく大事ですよね。

うつ病になって死ぬことしか考えられなくなると、生きがいなんて本当に何一つ思い出せなくなってしまいます。だからこそ、少しでも気力があるときに自分が「好き」と言えるものを探しておく。つらくて苦しくてどうしようもないときには何の励みにもならないかもしれないけれど、例えば「中村さんの新作を読んでから死のう」という思考を持てれば、何とか生きていけるんだと思います。もちろん、苦しみは簡単に消えないんですけど。

私が「死ぬしかない!」と追い込まれたときによく思ったのは、「シュークリームを食べてから考えよう」でした。

それで問題が解決するわけじゃありませんが、一瞬でも苦痛が弱まったらそれでOK。その繰り返しで何とか生き延びたって感じです。

シュークリームを食べながらコーヒーを飲んで好きな本を読む。

あのとき死ななくて良かったのかなと思える瞬間です。

 

<本日の一冊>

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