破滅は甘美な妄想……抑うつの倦怠感を知るのに最適『メランコリア』感想

『メランコリア』というデンマークの映画を観ました。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』などで知られるラース・フォン・トリアー監督の作品です。

ザ・鬱映画でした。面白かったです。面白いというか興味深いというか「わかる」という共感が強め。ラストもよかったです。ちょっとにやっとしました。

ただの憂鬱&現実的なドラマだと思って観ていたので、「えっ、えっ」と戸惑うところはありましたが、「鬱の人が現実をどう受けとめるか」という点が印象深かったです。鬱ではない人の態度、言動も対比になって、よりわかりやすかったように思います。

では、続けて感想を書いていきます。これ以上余計な情報を入れたくないよという方は、作品をご覧になってからどうぞ(一応ネタバレなしのつもりです)。
 

『メランコリア』の鬱描写について

主人公は二人の姉妹。鬱持ちのコピーライター・ジャスティンと、姉のクレア。それぞれをメインに据えた2部構成になっています。

第1部は妹ジャスティンの結婚式。豪華な披露宴を用意してもらって、足りないものなどないはずなのに、心と体がどうしてもついてきてくれない。虚しい。せっかくのお祝いの席もぶちこわしてしまう。そんなジャスティンの振る舞いを見ていると、「それはちょっと、さすがにダメでしょ、もうちょっとどうにかならないかね」と苛立たしくも思うのですが、その、どうしようもならない感じはすごくわかる。両手足を縛られ引きずられるような。そういうイメージ映像が最初に示されていて、これがまためちゃめちゃ「わかる…」なのですよね。

第2部で、姉クレアがジャスティンをお風呂に入れようとするシーンがあります。そのときのジャスティン、それがまさにうつのときのそれです。バスタブが目の前にあって、ちょっとまたぐだけで入れるのに、それができない。支えられてもダメ。力も入らず、くてんとへたり込んでしまう。お風呂好きな人でもそうなってしまう。客観的に見ると「こりゃただ事じゃないな」とわかります。

一方で、悪い事態が起きることを予感して、ジャスティンが妙な落ち着きを取り戻すところも、「なんかわかる」と思いました。「いいな」とも思いました。世界に身を晒してうっとりしているシーンなんかは、見ているこちらまで甘美な気分になります。危うさがあるけれど、とても美しくて。

これこそが鬱の強みなのかななんて思ったら、ちょっと誇らしい気分にもなるじゃないか、悪いことばかりじゃないんだぞ、とそんなふうにも思わされました。実際、私はうつを経験してから、確実に感覚が変化しました。それはある意味「強さ」と言えるようなものです。感覚の変化……感覚とは、さまざまな刺激を感じ取る働き、それによって感じ取られる内容、物事をとらえる心の働き。まぁ、ただの成長、老化の一環ってだけかもしれないですね。よくわかりません。

監督もうつ経験者だそうで

と、そんなような感想をつらつらと書き連ねてからウィキペディアを見てみたら、この映画の脚本も担当しているラース・フォン・トリアー監督は、うつ病で苦しんでいた時期があると書いてありました。なるほど、それでこれだけ的確に「うつ」を表現できたんだなと納得です。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の監督・脚本であることもこのとき知りました。こりゃ鬱展開にも納得だと頷いてしまいました。

全体を通して、ずずーんと引きずられてウンザリするような雰囲気なんですが(特に前半の倦怠感がすごい)、不思議と安心感のようなものが得られました。懐かしさもありました。これはうつ経験あってのものかもしれません。

絵画のような映像が美しく、音楽も美しい(美術、音楽の教養があるとより深く楽しめると思われます)。キルスティン・ダンストも美しい。幻想的な世界が忘れられません。最初のイメージ映像がじわじわと効いてきます。いつまでも残り続けます。

スカッとなシーンも

最後におまけの感想をもう一つ。ジャスティンの職業がコピーライターで、上司に啖呵を切るシーンは痛快です。「お前のような大して価値もないものに立派なコピーをつけて、くだらない、コピーライターは虚業だバーーーカ」みたいなね(すみません、実際にこんなセリフはありません)。そりゃ虚しくもなるよねって(価値あるものに魅力的なコピーをつけるコピーライターの仕事は素晴らしいと思います、念のため)。このあたりは私が勝手に想像を広げて好き勝手に言っています。

メランコリー(憂鬱)あふれる物語です

冒頭でも書きましたが、この映画のラスト、素敵です。羨ましいです。私がいつも夢見ているもの。このシーンに思いを馳せるだけで、うっとりできる。甘美なラストです。

破滅を受け入れる準備はできている。いつでもウェルカムだ。

自分の中にそんな謎の前向きさを発見しました。

うつは好ましいものではないけれど、決して無意味ではない、何らかの機能がある。

そんなメッセージを受け取ることもできるのかなと思いました。
 

※この文章には「鬱」と「うつ」の表記ゆれがあり、直そうかと思ったのですが、無意識に書き分けているふうだったので、そのままにしました。鬱=憂鬱、うつ=うつ病、うつ症状というニュアンスです。平仮名より漢字の方がわかりやすいという理由で表記を選んだ部分もあります。そんなわけで、あまり深い意味はありません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です