10年近く前のことになるでしょうか。やる気満々のがんばる君だった頃の私に、ある人が言いました。
「ちょっとコレ聴いてみな。あなたの歌だよ」
手渡されたのは、夏川りみさんのアルバム。その中に収録された「愛よ 愛よ」が私にピッタリだと言うのです。
さっそく聴きました。
その人の言う通りでした。
「そんなにがんばらなくても大丈夫だよ」
「たまには泣いたっていいんだよ」
がんばりすぎて疲れているのに休もうとしない私への労いだったのでしょう。夏川りみさんの透き通った歌声は私の心を優しく包み込んでくれました。
でも、そのときの私は「ガンバルゾー!」とメラメラ燃えている状態。「がんばらないで」という言葉に、ほんの少しモヤっとしました。自分のがんばりが間違っていると言われているような気がして。
さらに、こんな思いも浮かびました。
「みんなが『がんばれ』って言うからがんばってるのに、『がんばらないで』って言われても困るんですけど」
「実際がんばらなかったら、『もっとがんばれよ』って言うよね?」
周囲の人や世間の声に疑問を感じました。
でも、今振り返ってみるとよくわかります。私のがんばり方は間違っていました。好きでやっているはずなのに、すごく苦しそうに見えたんだと思います。
何せ、苦しむことが成長につながると信じてやっていたので、それはそれは痛々しい姿だったのでしょうね。あまり思い出したくない過去の話です。
「こんなことじゃいけない」?
典型的なうつ病患者さんは、真面目で、責任感が強くて、気遣いのある人が多いと言います。
「大丈夫じゃない」と人に言えず、苦しみを一人で抱え込んでしまう。考えても考えても答えが見つからず、孤独を感じて、もう死んでしまいたい……。
そんなときこそ、この歌を思い出したいものです。
あなたが笑顔忘れるだけで
心が痛む人がいるから
がんばらないで
たまには人にすべて任せる勇気を出して
この他に、「重い荷物一人でしょって」というフレーズもあるのですが、まさに! ですね。
さて、病気になってから「こんなことじゃいけない、早く治さなければ!」と焦っていませんか?
そんなときにもこの歌は教えてくれます。
「『がんばらなきゃ』って力まなくてもいいよ」
「あなたの存在意義は揺るがないよ」
今より良くなるための努力は大切です。でも、それよりもっと大切なことがあります。
「がんばらないで」を否定的に受け取ってしまった過去の私にこう問いたい。
がんばりたい! と思うのはなぜ?
何のためにがんばるの?
がんばるってどういうこと?
「私には生きてる価値がない」?
「愛よ 愛よ」
今、改めて聴いてみました。
大切な人への温かな愛情が感じられる歌です。詞も、曲も、楽器の音色も、すべてが優しい。でも、優しいだけじゃなくて力強い流れがあるから、安心して身を委ねられる。空・海・風といった自然を感じられる……「心強い」とはこういうことでしょうか。
よく「私なんか生きてる価値がない」という言葉を聞きます。私自身も強く思っていました。
それって本当?
この歌にはこうあります。
あなたがそっと微笑むだけで
温かくなる人がいるから
それは何物にもかえがたいものです。だから、そんなふうに自分を責めたりしなくてもいい。
「とてもじゃないけど、微笑むことなんてできない」? それなら無理に微笑まなくて大丈夫。
あなたの微笑みを見て心温まる人がいる。それを覚えておけば十分です。今は心からそう思えなくても。
歯を食いしばって生きてきたあなたへ
がんばれない自分が情けない?
それなら、今度は私がこのアルバムを差し出しましょう。
「ちょっとコレ聴いてみな。あなたの歌だよ」