人生に絶望したとき味わいたいフランツ・カフカの言葉

好きな言葉があります。

いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです。

― フェリーツェへの手紙 ―

小説家、フランツ・カフカの言葉です。

できないことを気に病んでいる人にとっては、どこか安心感を与えてくれる言葉ではないでしょうか。

「倒れたまま」と関連する言葉をもう一つ。アンジェラ・アキさんの「始まりのバラード」にこんな一節があります。

簡単に倒れない人だと思われたくて
泣く事すらも忘れるくらいに素顔を隠していた

こんなふうに過ごしてきた人は少なくないのではないでしょうか。私はそうやって我慢を重ねた結果、倒れているのがデフォルトになりました。

病気になる前も、エネルギー切れを起こして倒れることが何度かありました。学校の全校集会でぶっ倒れる人いませんでした? あれ、私です。

 
強くなりたいけど、強くなれない。
倒れたくなくても、倒れてしまう。
誰かに支えてもらうことが心苦しい。
支えてくれる人の負担を少しでも軽くするためには自分がいなくなればいいと思う。
そうすれば自分も惨めな思いをせずにすむ。
 

同時にこうも考えます。

 
強いことだけがよいこととは限らない。
倒れてしまう理由があるはず。
自分が誰かの支えになれることは嬉しい。
自己犠牲は悲しい。
 

自分を他人に置き換えれば、寛容な気持ちになれます。

でも、やっぱり悲観的な言葉が落ち着きます。

再び、カフカの言葉。

ぼくは人生に必要な能力を、
なにひとつ備えておらず、
ただ人間的な弱みしか持っていない。

― 八つ折り判ノート ―

カフカのこの感じ、最高ですね。

カフカの言葉には卑屈さが感じられません。いじけていても、子供のような可愛さがあります。薄汚れていない、ひっかかりがない、毒がない、純度の高い絶望です。

深淵にすーっと吸い込まれていくような……。

何だか美しい。自分の中にある黒々としたものが浄化されるようです。

 
横たわるアザラシとカフカの言葉

 

名言集はあまり読みません。一部分だけ取り出した言葉は、意味を読み間違える可能性があるから。ここに引用した言葉も、カフカの真意とは異なっているのかもしれません。

作家の死後公開された日記や手紙もあまり読みません。プライベートなものを覗き見するようで申し訳ない気分になります。と言いつつ見ているんですけど。

太宰治が自分の個人的な言葉をこんなに公表されていると知ったらどう思うんだろうと心配になります。「芥川賞くださいお願いします見殺しにしないで~」みたいな手紙とか「芥川龍之介芥川龍之介芥川龍之介」と書き連ねたノートとか。もし自分が死んだ後、好きな人の名前を書き連ねたノートを公開されたらと考えただけで、恥死にしそうです。

ヤバさで言えば、石川啄木もなかなかです。日記がゲスい。「一握の砂」のイメージが崩れ去ります。18禁の変態記録です。

文豪は大変だなと思います。表した言葉すべてを保存されてしまうから。まぁ、死んだ本人は知り得ないことだからいいんですかね。どうなんですかね。でも、自分が大大大好きなアーティストの言葉はすべてコレクションしたいって人の気持ちはめちゃくちゃわかりますし、まぁいいことにしてください恐縮ですって感じですかね。

話が脱線してしまいました。カフカの話に戻します。

カフカは、書きためていた未発表小説を焼却するよう友人に頼んでいたそうです。彼のそのときの心境はどのようなものだったのでしょうか。友人がカフカの言葉通りにしていたら、カフカの作品を読めなかったんですよね。友人ブロートに感謝。カフカがどう思うかわからないけど、感謝。

このあたりは、さまざまな見解があるようで、カフカはブロートが燃やさないとわかっていたとか、「焼き捨てるよう本人が遺言した作品」と但し書きがあったら残ってもOKと思ってたんじゃないかとか。後者の見解が本当だとしたら、カフカ面倒くさいけどなんか可愛いですよね。元祖・自意識こじらせマン?

カフカが今の時代に生きていたら、どんな言葉を残したでしょうか。ブログやツイッターで愚痴ったりするんですかね。ぜひ読んでみたいところです。

いつの時代にも、自分と似たような感覚で過ごしている人がいるのかなと思うと心強くなれます。

今この瞬間も世界のどこかで自分と同じようなことを考えて過ごしている人がいるのかなーなどと思いながら、卑屈な感情を持て余す私です。

 

<本日の一冊>
フランツ・カフカ 頭木弘樹編訳 (2011)『絶望名人カフカの人生論』飛鳥新社

<本日の一曲>
アンジェラ・アキ「始まりのバラード」2011年

3曲目に入っているレディオヘッドの「CREEP」カバーが聴きたくて手にしたCD。

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