小説『さよならドビュッシー』を読みました。
今日はその感想と、作中に登場した楽曲の動画をまとめました。
美しい音楽は、心を浄化してくれます。興奮を呼び起こし、感情を湧き立たせる力もあります。
そんな音楽の素晴らしさ、味わわずにはいられるか。
療養中のお供にぜひどうぞ。心が疲れたときには、ドビュッシーの繊細で甘美なメロディーが沁み入ります。
(おめぇの冗長な感想はいらねーぞという方は曲目リストへGO!)
『さよならドビュッシー』 感想
『さよならドビュッシー』は2013年に映画化された作品ということで、タイトルは聞いたことがありました。ドビュッシーが好きなので、気になってはいたものの、好きだからこそ何となく敬遠している節もあり。それでも、私の知らない曲がいっぱい出てくるのかなと思って手に取りました。さらに、「ピアニストからも絶賛!」という紹介コメント。「ほんとかよ」と思いながらもやっぱり期待しますよね。
第8回 『このミステリーがすごい!』大賞受賞作品のミステリー小説なのですが、私は音楽小説として楽しめませてもらいました。内容については、文庫版の解説が素晴らしくて、そのタイトルがズバリ、「音楽+スポ根+ミステリのハイブリット」。これで内容紹介はOKという感じですね。
青春スポ根なノリは、読む側の精神状態によっては多少拒否反応が出るかもしれません。というか、私がこれを不調だった頃に読んでいたら、途中で投げ捨てただろうなと思いました。いや、この作品のせいじゃないんです。ただ、私の被害妄想が炸裂して「頑張れない私はクズだ……」となっただろうな、と。それくらい、苦難に負けず、厳しい現実に向き合いながらひたむきに努力する主人公の姿がまぶしいのでした。あとは、才能に恵まれた人たちに対する嫉妬ですね。虚構の世界に精神を乱される私、愉快ですね。
残念ながら、ドビュッシー作品の演奏描写は2曲だけだったのですが、さまざまなクラシック曲の演奏場面があって満足でした。作者の中山七里さんは「この小説はピアノ曲や協奏曲をまるまる文章で表現することに挑戦した“読む音楽”」と語っています。そう、まさに“読む音楽”! メロディーが立体的に浮かんでくるんですよね。聴覚と言うよりは視覚イメージに近いでしょうか。いや、視覚でも聴覚でもない音楽を感じられるような。興奮と心地好さを感じられて、とてもよかったです。
『さよならドビュッシー』曲目リスト&動画
小説に登場する順に紹介すると、ドビュッシーに行き着く前にお腹いっぱいになってしまうので、まずは、この小説の肝となる2曲を。その次にピアノ曲 → オーケストラの順に並べました。
ドビュッシー「月の光」
ベルガマスク組曲 第3曲 月の光。コンクール本選の課題曲であり、主人公の思い入れを強く感じる曲です。この曲を聴いた主人公は、静かに降り注ぐ月の光を浴びながら男女が穏やかなワルツを踊っている情景を浮かべています。
私はこの曲を聴くと、独り夜空を見上げる人の姿を思い浮かべます。孤高の人が「現在」「世界」に思いを馳せ、弱さを見せる。それを包み込む月の光。そんなイメージです。こちらの演奏は特にそんな感慨を強く感じさせてくれます。
奏者は、アメリカのピアニスト、トーマス・レーベ(ラベ?)さん。一般的な?音源とは違った雰囲気があります。美しくて大切なものを愛撫しているみたいな優しいタッチ。
<トーマス・レーベ 公式サイト>
Thomas Labé.com, Official Web Site
現在は音楽大学の教授として活躍。エプロン姿のレーベさんも素敵。
ドビュッシー「アラベスク第1番」
コンクール本選の自由曲として主人公が選んだアラベスク第1番ホ長調。物語の佳境、この曲を演奏する主人公の気迫が凄まじい。文字列でこんなに興奮できるってすごいなと圧倒される描写でした。まさに「魂の演奏」。切なる祈りは心を震わせるものなのだと知りました。
動画は、ロシアのピアニスト、スタニスラフ・ブーニンの演奏。ブーニンさんは賛否両論のピアニストだそうですが、言われてみるとちょっと癖があるのかな? いや、だいぶ? めちゃくちゃ濃厚なスイーツを食べた気分になりました。ツンデレな感じもします。すごい揺さ振られる。
音質が良くないですが、私はこちらの演奏が好きです。ドイツのピアニストで作曲家、ヴァルター・ギーゼキング。
あぁ、美しい。何度聴いても美しい。ホントこの曲好き~。はぁ~……。
ドビュッシー「亜麻色の髪の乙女」
前奏曲集 第1巻 第8曲 亜麻色の髪の乙女。コンクールの練習を始めるにあたって主人公が借りてきたCD「ドビュッシー ピアノ名曲集」収録曲として名が挙げられています。改めてドビュッシーを聴いた主人公は、その魅力に引き込まれ、夢見心地。うん、そうなるよね、と共感しました。
動画は、金子一朗さんの優しい演奏。包み込むような柔らかな音色が素敵。この曲を聴くと、何だか懐かしい気持ちなります。
金子一朗さんのWeb連載にも注目。
亜麻色の髪の乙女 | ドビュッシー探求 | ピティナ・ピアノホームページ
ショパン「英雄ポロネーズ」
「ポロネーズ第6番変イ長調 作品53」
この曲の練習風景から物語は始まります。
こちらの動画は、フランスのピアニストで作曲家、シプリアン・カツァリスの演奏。この動画見て一発で虜になりました。カツァリスさんの内面に飛び込んで、カツァリスさんが感じている世界を一緒に味わいたい。私もあの顔したい。
ブルグミュラー「アラベスク」
レッスンの練習曲として登場するのが、チェルニー、ブルグミュラー、クレメンティ。主人公はブルグミュラーの「アラベスク」で自身の成長を実感します。
「アラベスク」を聞くと、小学生の時にピアノを習っている子たちが我も我もと音楽室で弾きまくっていたことを思い出します。右手のメロディーが走りがちになってしまうのもまた、いとをかし。
リスト「超絶技巧練習曲第4番 マゼッパ」
ロシアのピアニスト、ミロスラフ・クルティシェフによる演奏。
すごすぎて絶句。小説の中でも、この曲を聴いた登場人物たちが衝撃を受けている様子が描かれています。これ生で見たらとんでもないことになりそう。
発表された当時、リスト本人にしか弾けないのではないかと言われた難曲。それを演奏するクルティシェフさんは私と同い年。この感性は何だ。天才かよ。うん、天才だね。
リムスキー・コルサコフ「熊蜂の飛行」
初めてこの曲を聴いたときは衝撃でしたね。「なんじゃこりゃー!」って。そのときはフルートバージョンを聴いたのですが、ピロピロピロピロわけわかんないことになってるし、巻き舌のタンギングとかすごすぎて圧倒されました。ピアノも超絶ですね。人間業とは思えない。
こちらは、中国のピアニスト、ユジャ・ワンさんによる演奏。
ショパン「12のエチュード 作品10」
ショパン作曲、12のエチュード(練習曲)作品10は、フランツ・リストに捧げられ、二人が知り合うきっかけにもなった曲集なのだとか。
これが練習曲だなんてとんでもないと素人は思うわけですけれども。技術だけでなく、音楽表現の練習も兼ねた曲集だと聞けば納得。
小説の中では、コンクール予選の課題曲として4曲が描写されます。
主人公が弾いた曲
・第2番 イ短調 (02:16~)
・第4番 嬰ハ短調 (07:30~)
ライバルが弾いた曲
・第5番 変ト長調『黒鍵』(09:36~)
・第12番 ハ短調『革命』(25:14~)
「嬰ハ短調」は初めて聴きましたが、良いですね、好きです。躍動感があって、苦難の中でも立ち向かっていくぞという強さを感じます。主人公の心情にピッタリ。
この他に第3番『別れの曲』(03:40~)も有名ですよね。
リスト「パガニーニによる大練習曲第3番 ラ・カンパネラ」
主人公のライバルがコンクール本選の自由曲として演奏した曲です。その演奏は、主人公も認めざるを得ない感動的なパフォーマンス。表現者の魂がどのようなものか思い知らされる主人公なのでした……って高校生でそれ悟るってなんちゅー感性ですか。
こちらの動画は、辻井伸行さんの「ラ・カンパネラ」。切なくて涙が溢れてくるような演奏。胸に沁みます。この曲はパガニーニのヴァイオリン曲をリストがピアノ曲として編曲したもの。ヴァイオリンの指のポジションをピアノで弾くのは難しいそうな。マゼッパの超絶技巧にしても、「ピアノの魔術師」と呼ばれたリストはもやは狂気の人なんじゃないかという気がしてきました。いや、演奏技術を武器に女性を口説いていただけ? イケメンだしな……。
辻井伸行さんが弾くドビュッシーも好きです。とにかく優しい演奏。彼が感じている世界はどのようなものなのでしょう。はぁ……、美の表現者はすごい。
ベートーヴェン「交響曲第5番変ホ長調 皇帝」
主人公のピアノの先生が、チャリティーコンサートで演奏した曲目。10ページにわたる演奏場面の描写があります。ピアニストが放った力強いメッセージを受け取った主人公。この後のコンクールにどのような影響を与えたのでしょうか。
ピアノ:マウリツィオ・ポリーニ
指揮:クラウディオ・アバド
演奏:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ベートーヴェン「交響曲第3番 英雄」
小説の中で演奏はされていませんが、この曲が生まれた背景やベートーヴェンの苦悩などが書かれています。「崖っぷちに立たされた人間の凄まじい反骨精神」「意志が生み出す力強い音楽」である、と。
指揮:フィリップ・ヘレヴェッヘ
メンデルスゾーン「ヴァイオリン協奏曲ホ短調」
前述のチャリティーコンサートで、ベートーヴェン「皇帝」の前に演奏された曲①
ヴァイオリン:庄司紗矢香
指揮:klaus weise
演奏:ビルケント交響楽団
モーツァルト「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
チャリティーコンサートの演奏曲②
指揮:カール・ベーム
演奏:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
最後に
映画版『さよならドビュッシー』で主人公のピアノの先生役を務めたのが、“クラシック界の貴公子” 清塚信也さん。「のだめカンタービレ」や「神童」では吹き替え演奏を、ドラマ「コウノドリ」ではピアノテーマ、音楽監修を担当されています。
はぁー、すてき。
すごい才能に恵まれた人物がわんさか出てくるところが創作作品の楽しさだよねーなどと思いながら読んでいましたが、現実にいるんですね、とんでもない人たちって。もうため息しか出ません。
弾いてる間に「もうピアノも体も壊れちまえ!」って感じ始めるギアがあってその時はもう基礎もルールも全部ぶっ壊れて飛んでいくし肉が削ぎ落ちた指でもグリッサンドなんか平気でできるし聴いてる人の事も全然どうでもよくなるんだけど、そのゾーンに入ったらもう中々日常に戻れなくて苦しいのに快感。
— 清塚信也 (@ShinyaKiyozuka) 2015, 12月 30
カッコ良すぎ!
心が癒されますよ~というまとめで終わるつもりが、めちゃくちゃ興奮&圧倒されてしまいました。
いやぁ、音楽って本当に素晴らしいものですね。
<本日の一冊>
関心があったけれど見ていなかったから大興奮。曲もつけてくれたのでとても楽しかったです。アラベスクは子どもの発表会で弾いた曲でその前に死んでしまった世話をしていた雛が天国に昇っていくのをイメージして弾いた曲。そのことで心が救われました。ナミさんも音楽が好きなんですね。森田童子なんて懐かしいです。