「うつ病は、病気です。甘えや、心の弱さではありません」
この前提から始まる本を読みました。タイトルは『「うつ」は病気か甘えか。』
病気か病気でないかをバシッと線引きすることはできないのだけれど、本書はそのグレーゾーンを両側からジワジワ攻めて、読み終わると何とな~くのラインがわかる感じ。ぼんやりしていることに変わりはないのですが、ただぼんやりしていただけの「うつ」が、どんなふうにぼんやりしているのか把握できたような気がします。これまで感じていた違和感が言語化されて、ちょっとスッキリ&納得。
ユーモアもあり、シニカルな感じもあって、楽しみながら読めました。
うつ病知識として学ぶことも多かったので、そのあたりをまとめましたら、けっこうな分量になってしまいました。長文読むのしんどいわーという方は、ページの最後、本書の目次をどうぞ。
▼こちらの対談もあわせて。
『「うつ」は病気か甘えか。』刊行記念 村松太郎×斎藤環対談 – 幻冬舎plus
・前編 「ストレスでうつ病になる」はおかしい!?
・後編 「うつは薬で治る」は幻想!?
うつ病とは?
タイトルや帯を見ると「うつ」に対して否定的な印象を受ける本書ですが、決して病気の人に「甘えじゃないの?」と問うものではありません。
「うつ」について、混乱やら誤解やらがあるので、「うつ病とは何ぞや?」というところから始めましょう、というのがこの本の導入。
そんなわけで、うつ病とは何か、一般の人向けにわかりやすく解説されています。
うつ病の中心は内因性うつ病
典型的なうつ病の症状があらわれたとき、注目すべき点は次の2つ。
- これといった理由がない
- 元々のその人とは変わってしまった
うつ病の中心は、ひとりでにおこるうつ。理由なく発症するうつ。ストレスは関係ない。これが内因性うつ病。
薬による治療が必須なのがこのタイプ。内因性うつ病は薬でキレイに治るというのが臨床医の感覚としてあるそうです。
「うつ」のタイプについて、笠原嘉氏の『軽症うつ病』を引用しながら解説されています。(p.68)
1 脳と関係の深い「ゆううつ」
2 近親者の死――心因性の「ゆううつ」
3 ひとりでにおこる「ゆううつ」――内因性の「ゆううつ」
もう少し詳しい三分類は次のとおり。(p.268)
(1) 内因性うつ病…双極性障害(躁うつ病)/単極性うつ病
(2) 心因性うつ病…神経症性うつ病/反応性うつ病
(3) 器質因性うつ病…脳の病変による
内因性うつ病は、ひとりでにおこるもの。
心因性うつ病は、心理的ストレスによって起こる心理的な反応。
この内因性と心因性をはっきり区別することは難しい。「理由なく発症する」と言ったって、生活をする以上、何らかの出来事はあるわけで、100%「理由なし」とは言えない。何らかのきっかけがあるように見える。
だから、仕方ない、現実的な妥協策として内因性・心因性の区別はやめてしまおう、ということになっている。
とのことです。
うつ病の原因は?
うつ病の原因はよくわかっていない。
それをつきとめるため、優秀な学者・研究者によるうつ病治療の研究が続けられています。
現代の精神医学研究で注目されているものの一つが遺伝子なのだそう。
それは、うつ病が遺伝病だという意味ではない。うつ病が脳の病気であり、脳の中の何らかの変調によって発症する病気である以上、脳内の神経にかかわる物質が関係しているはずであり、であれば、その物質の設計図である遺伝子の中に、うつ病という病気を解き明かす鍵があることは間違いないからである。(pp.78-79)
でも、ストレスが原因と言った方が一般の人には受け入れてもらいやすいし、ストレスは誰にでもあるわけだから偏見も薄れていく。うつ病で苦しんでいる人を助けるためなら、ちょっとくらい違っていても致し方ない。
だけどね……
そんなもどかしさと葛藤。
先生~!!
うつ病と自殺の因果関係
裁判所がうつ病をどう判断するかという点も興味深いところです。
詳しい事例を見ていくと、判断の難しさがよくわかります。本書では、うつ病訴訟として有名な「電通事件」の流れを追いながら、裁判所が過労と自殺の因果関係をどう捉えるか、詳しく解説されています。
[事例1-1] 長時間労働の結果うつ病にかかり自殺したケースの裁判事例(電通事件)
それまでの裁判では、「自殺は自由意思によるものだから自己責任」とされてきました。が、うつ病という概念を導入することで、自殺が自己責任ではなくなった。
自殺の理由はうつ病。だから、自由意思ではない。
そこで出てくる疑問。
「うつ病だから自殺したとは限らないんじゃないの?」
「うつ病になったのは本人の素因も関係してたんじゃないの?」
「電通事件」の高等裁判所の判決では、うつ病発症のうち、過労(ストレス)による部分が7割、内因(本人の素因)などの関与が3割と認められました。この数字が何割にせよ、内因の関与をうつ病の原因として認めたという点で、この判決は医学的に正しいと言える、と著者。
とは言え、反論や批判も当然あって、「うつ病以外の事情が理由かもしれないのに、それを一律にうつ病にしちゃうのはどうなの?」という疑問に関しては、うやむやになっているらしい。今のところ、「まぁ、因果関係ありとしていいんじゃないの」ということで争わないのが暗黙のルールになっているそうです。
さらに、著者は指摘します。
「うつ病という診断は本当に正しい?」
亡くなってしまった人をうつ病と診断した根拠は何か。うつ病を否定できないからといって、その人がうつ病であったかどうかはわからない。
そういった側面も見逃せません。
うつ病の診断 ― 「うつ病」という記号が意味するもの
診断書に記される「うつ病」という診断名。
患者にとって最大のマイナスは、「病気なのに、病気でないと誤診されること」(p.238)
うつ病を否定できない以上、医師はその人を突き放すことはできません。苦しんでいる人にはその苦しみを和らげる対処を、支援が必要な人には何らかの支援が必要。
うつ病を否定できない≠うつ病である
「うつ病」という診断名がついたからといって、うつ病かどうかはわからない。「うつ病の疑いあり」かもしれない。
甘えに見えても、病気ということもある。落ち込んだ理由を後づけしているだけかもしれない。甘えだと即断するのは危険。
さらに、厚生労働省は「メンタルヘルス不調」という概念をもとに、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を発表しています。
職場におけるこころの健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~
「メンタルヘルス不調」には、こころの病気だけではなく、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康、社会生活および生活の質に影響を与える可能性のある精神的および行動の問題が幅広く含まれています。
(「クイズ・セルフケア」より)
要するに、不調はすべて含まれますよと。これを受けて、甘えの概念は絶滅させられたと著書は言います。
病気未満のメンタルヘルス不調をどう扱うか?
「メンタルヘルス不調」という病名はない。だから、その代わりの文言を診断書に書く。
こうして差し出された診断書を見て、問わなければいけないこと。
診断書に書かれている「うつ病」とは、何を意味する記号か。(p.244)
まとめ:わからん!
うつ病は病気である。甘えではない。それは確かだ。しかし、うつ病に似た状態は、甘えということも十分にあり得る。朝起きられない。やる気が出ない。人の言葉にイライラする。何だか楽しいと思えない。どれも、うつ病の症状として出ることがある。だがうつ病の症状でなくたって、そういうことはある。ただの甘えということも十分にあり得る。逆もある。甘えに見えてもうつ病ということが十分にあり得る。(p.180)
広がり続ける「うつ」という名のグレーゾーン。
後半に入ったくらいから、私の頭には「甘えって何だろう?」という問いが浮かんでいました。それをどう定義するかによっても「『うつ』は病気か甘えか?」の答えは変わってきます。
やる気がなくなったからやらない。休む。であれば、甘えだ。
病気になった。休む。であれば、甘えではない。(p.300)
これで言うなら、このブログに書いていることの大半が「甘え」なんじゃないかという気がしてきます。いや、もちろん、病気であることを前提にしているのだから、うつ病と診断されたあなたは甘えじゃない。でも、前提が適切かどうかわからないと言われちゃったら、ねぇ?
まぁ、私は医療関係者でも専門家でもないので、あくまでも患者の立場から、苦しみやつらい気持ちを少しでも和らげることを目的に、これからもブログを書くのであります。病気だろうが、病気じゃなかろうが、甘えだろうが、甘えじゃなかろうが、笑顔で「生きるのも悪くないな」と思える人が増えたら素敵やん? って。
……この感じが、グレーゾーンの広がりを助長しているのでしょうか。
もう、甘えってなんだよ~! と思いますね。もう一度『「甘え」の構造』を読み返してみることにします。
【関連】「うつ病は甘え」という言葉に過剰反応していませんか?
病気に逃げ込まなくても生きていける社会になったらいいのになぁ~ということも感じるので、この辺りの気持ちを代弁してくれるphaさんの本も読み返してみることにします。
【関連】ゆるい生き方読本『持たない幸福論』は心を軽くしてくれます
おまけ
目次
はじめに 「うつ」は病気か甘えか?
第1章 その人はうつ病かただの甘えか
第2章 「私はうつです」はうつ病?
第3章 「ストレスですね」にハズレなし
第4章 どっちもカンタン、ニセ医者・ニセ患者
第5章 裁かれるうつ病――裁判所はうつ病をどう診断したか
第6章 はたして、「うつ」は病気か甘えか
第7章 ストップ・ザ・ドクターストップ
終章 あなたは「うつ」をどう読み解くか――うつ病講義ノートより「症例JE」
解題 「うつ」は病気か甘えか
甘えの診断基準
A 特権への安住と自己主張(次のうち2つ以上を満たす)
- 自分はうつ病であると公言してはばからない。
- うつ病としての配慮をするよう要求する。
- うつ病について理解がないと人を責めることが多い。
- 注意や指導を受けると、すぐにハラスメントであると言う。
B 未熟な性格(次のうち2つ以上を満たす)
- 言動の中に親の影が見え隠れする。
- プライドが高い。
- 自分のことはぺらぺらとよどみなくよく喋る。人の話はあまり聞かない。
- 言動が全体に年齢より幼い。
- 人が自分のことをわかってくれないという意味あいのことをよく言う。
C 病気とは思えない、人の神経を逆撫でする言動(次のうち1つ以上を満たす)
- 以下のような場面での元気の差が大きい:業務と休み時間。出勤日と休日。
- 病気休養中の活動(例:海外旅行)のことを自慢気に話す。
(p.16,208 作成:とある産業医)
注意すべきは、甘えに見えても実は病気ということが精神科ではざらにあるということ。
著者曰く、「『甘えの診断基準』などというものは受け入れることはできない」。しかしながら……
詳しくは本書をご覧ください。
※上記の「甘えの診断基準」は著者によるものではなく、ある医師が作ったオリジナルの基準です。
ナミさんこんにちは。
うー、ドキリギクリ…。
わたし、Bの未熟な性格だと思います…。
精神的に未熟で、プライドが高いのです…。
年相応の、余裕のある人間になりたい…。
考えたらどんどん落ち込んできたので、寝ることにします。笑