『躁うつ病を生きる:わたしはこの残酷で魅惑的な病気を愛せるか?』感想

精神疾患当事者の体験記を前にしたとき、私はいつも2つのことを思います。

「気になる」と「読みたくない」です。

双極性障害(躁うつ病)という診断名をもらった私は、同じ病気を抱える人の話が気になります。同病相憐れむ的な心理があるのか、親しみもわきます。「ああ、同志よ」と思わず一方的に呼びかけます。ぜひとも読みたいと思う。ひとりじゃないと思えることはとても心強い。

同時に、まったく反対のことも思うのです。「読みたくない」。病気にまつわるネガティブな感情がきっと掘り起こされるだろう。思い出したくない。それに、本を出す人の多くは素晴らしい人で、それと比べてみじめになることもよくある。嫌な気分になりたくない。

この相反する感情を秤にかけて、得るもののほうが大きそうだと思えたときに「読む」という選択をします。このあたりの判断は、内容というより、自身の体調による部分が多いかもしれません。

 

そんなこんなで双極性障害(躁うつ病)当事者の体験記を読みました。

精神科の治療者でもある女性が、躁うつ病を抱えて生きてきた日々を綴った本です。出版は1998年。

この本を読もうと思ったのは多分サブタイトルにひかれたからだと思います。

「わたしはこの残酷で魅惑的な病気を愛せるか?」

このコピーに心をつかまれちゃったわけですね。私はこの残酷で魅惑的な病気を愛せるか。うーん、どうだろう。わからない。

 

読み始めてすぐ、読むのがつらくなりました。躁の始まり、軽躁エピソードの記述。わかる。めっちゃわかる。過去の記憶が押し寄せてくる。これが「ほんのかわいいひとかじり」だなんて!

気がつくと、しかめっ面しながら読んでいる。かと思えば、著者の家族の優しさに涙する。はぁ、疲れる。読みたいのに気が進まない理由が改めてよくわかりました。

それにしても、まったく異なる人生なのに、わかるわかると感じるのも面白いものだよなーと思います。SNSだったらいいね連打ですよこれはとか思いながらページをめくっておりました。

ユニークな表現もたくさんあります。「異様な考え方と独創的な考え方との間の複雑で浸透性のある境界(p.50)」「脳内の高速道路でニューロンが玉突き衝突する(p.76)」「たまらなく土星が恋しかった(p.101)」など、感性豊かな科学者っぽい言い回しが随所で光っており、それをヒントに自身の経験を言葉で捉え直すことができます。海と防波堤のたとえとかね、躁うつにぴったりな比喩に出合うたび「なるほど確かに」と頷きます。

読み終わった直後は、映画一本観終わったような感覚になりました。人の半生だからそう易々とコメントすることなんてできない。壮大な躁うつ体験記。訳者あとがきだったかに「愛の物語」とありましたけど、ほんとにそれ。愛がいっぱい。胸いっぱい。ラブロマンスで映画化お願いします。

 

この本を読みながら「わかる!」と感じる部分はいくつもありましたが、当然わからないところもたくさんあります。

まず、著者には圧倒的な肯定感があるように感じました。不協和音や変拍子だらけのパートが多かったとしても、すべてを包む大枠は短調ではなく長調なのです。

私はどうだろう。よくわからない。長調なのに短調のふりをして自分を慰めてる系かもしれない。うん、そんな気がしてきた。きっとそうなんでしょう。まあ別に長調でも短調でもどっちでもいいんですけどね。ただ、違うねと思ったのです。

多分読むタイミングによっても受ける印象が変わるんだろうなと思います。どんな本でもそうですが、この本は特にその振れ幅が大きそうな気がします。

いずれにせよ、「書いてくれてありがとう!」と言いたくなりますね。出版年が1998年ということを思えば尚更。すごい勇気だ。こういう人がいたから今があるんだよなと思うと、本当に感謝の気持ちでいっぱいになります。

 

病名変更など治療者の立場から書かれたパートもなるほどと思う部分がありました。

この本が書かれた時点で「双極性障害」という用語が浸透してきたと書いてあります。診断基準としてDSM-Ⅳが使われていた時代です。

2020年代の今、「双極性障害」は「双極症」に変わる流れとかで、いまだに言葉の選択には迷うことも多いですが、表現の微妙な問題を議論できるレベルになってるのは、ありがたいこと。著者の意見に同意です。

 

というわけで、ざっと思いつく感想を書いてみましたが、まー読了後の正直な思いとしては、著者の強さや勇ましさが眩しくて仕方ない。すげーーーと圧倒される感じが大いにありました。いやもちろん著者が重いうつ状態に苦しんだ日々を思えば、そんな単純な感想はとっても失礼なんですが。要するに、素敵な人だということです。

自分自身について考える良いきっかけになったと思います。

くり返しになりますが、「書いてくれてありがとう!」という気持ちです。

とりあえず、生きましょう。
 

 

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