不器用なこじらせ男子の成長物語『ぼくとアールと彼女のさよなら』感想

周囲と馴れ合うのが嫌で、なんかいろいろこじらせているみなさん。

傷つかないように、心を閉ざし、他人から距離を置いているみなさん。

そのみなさんがどこにいるかわからないけれど、同じ質の人間はここにいる。それがこのわたくし。

そしてもう一人、似たような人間を見つけました。『ぼくとアールと彼女のさよなら』という映画の中に。

というわけで、『ぼくとアールと彼女のさよなら』を観ました。

とても素晴らしい映画だったので、感想を書きます。

決定的なネタバレはしていないつもりですが、具体的なシーンを挙げたので、ほんのりネタバレにはなっているかも。

まっさらな気持ちで観たい方は、作品をご覧になってからどうぞ。

あらすじと作品紹介

イケてない映画オタクの高校生男子グレッグが、白血病になった同級生の女の子レイチェルのために、幼馴染みのアールとオリジナル映画を作るお話。青春と友情を軽やかに描いたドラマ(+ちょっぴりコメディ)です。

『(500)日のサマー』というオシャレ映画をすいぶん前に観ましたが、その制作スタジオが贈る青春ドラマだそうです。確かに、そのふれこみ通り、隅々まで洗練された映画です。主人公の語りで物語が進むところ、場面ごとにタイトルがついているところも『(500)日のサマー』と似ています。

名作映画のパロディがたくさん登場するので、映画好きの人は、そのあたりも含めてニヤニヤしながら楽しめると思います。その他にも「きっとこれ好きな人にはたまらないんじゃないかな」という部分がいくつかありました(私は映画に詳しくないので予想です)。映画愛を感じられる映画。こういうのいいですよね。

感想:めちゃめちゃよかった!

いい映画でした。見終わってから何度もしつこく「いい映画だったな~」とつぶやいてしまうほどに。

人の目を気にして、目立たないように、無難に生活しようとする主人公グレッグの気持ちをリアルに描いていて、ほのかな共感とともに見守る感じが何とも言えない心持ちで。

難病ものの作品によくある安易な「泣かせ」演出がなかったのもよかったです。愛だ絆だと大げさに感動を煽られると、醒めてしまうところがあるんですよね。まぁそう言いながら大抵泣くんですけど。「くそぉ~、こんなありきたりの演出で泣いてしまうなんて」とか言いながら。

この作品は、淡々と軽やかに日常を描いています。オシャレさがあって、クスッと笑える要素も随所に散りばめられていて。だからこそ、シリアスな部分が引き立って、胸に迫ってくるのかなという気がしました。

孤立するグレッグやレイチェルに自分を重ね、アールの強さに憧れる

印象的だったのは、人の目を気にして、主体性を失っているグレッグにレイチェルが問うシーン。

「あなたは何がしたいの?」

思わずドキッとする言葉です。

グレッグは不器用で、見ていてもどかしくなります。世の中を斜に構えて見て、そつなくやっているようだけど、大事なものをボロボロこぼしている。時にめちゃくちゃ無神経。傷つくことを恐れて、人と浅いつながりしか持てない。必死に取り繕おうとするけど、結果うまくいかない。あーもう! グレッグ下手くそか! って。

でも、自分が同じ年代だった頃のことを思えば、同じような不器用さだったし、一生懸命だけど、空回ってばかりでした。どうしたらいいかわからなくて戸惑ってそれを悟られないように必死で隠したり。今だってそうです。そんなことを思い出しながらグレッグを見る。まーとにかくもどかしい。でも、そこには正直さもあって、それがまたいとおしい。

そんなグレッグに対して、アールやレイチェルには強さがあります。

アールはもうそこにいるだけで存在感があるというか、揺るがない意志を持っているんだなということが伝わってきます。RJ・サイラーという役者さんですか、すごくいい。すべて見通してしまうようなキリッとした目が忘れられません。グレッグの人間性を描く上で絶対に欠かせない人物。

レイチェルには、静かな強さを感じます。アールの言葉を借りれば、辛抱強い。多くを語らないけれど、現実と向き合っている。演じているオリヴィア・クックという役者さん、むっちゃ可愛い。

レイチェルが、病気の苦しみより、周りの反応にショックを受けたとグレッグに話すシーンはとても印象深かったです。芯のある彼女が崩れてしまうほどの衝撃。もし自分がその立場に立ったら、すごい堪えるのかなぁと考え込んでしまいました。

やっぱり病気の苦しみって、なってみなくちゃわからない。どんなに言葉を尽くして語られても、その痛みを知ることはできないんですよね。当たり前ですけど。

レイチェルはそんな自身の苦しみと闘いながらも、グレッグのことちゃんと見ていて、あとからあとからジーンときました。そう、この作品ってじわじわくるんですよね。

特典映像にも重要なシーンが収録されています

この作品は、日本では劇場公開されていないそうです(こんなに素晴らしい作品なのに!)。

というわけで、DVDで鑑賞しました。特典映像もいろいろ収録されていたので、あわせて観てみたのですが、それがまた非常によかったです。

この作品は、グレッグの成長を描いた物語ではありますが、本編でそれを端的に表したシーンはありません。ですが、未公開場面として紹介されているシーンの一つに、それは明確に描かれています。全体の流れを考えて、泣く泣くカットしたシーンだそうです。

その場面のグレッグの言葉、佇まいに、グッときました。

レイチェルのためにグレッグが作った映画もすごく良いです。抽象的でよくわからない部分が多いけれど、彼らたちにはわかる何かがそこにあるんだろうなと思ったら、それだけで胸が詰まる。最初の部分だけで、うわーってなります。特典映像にノーカット版が収録されています。

個人的には、英語タイトル『Me and Earl and the Dying Girl(僕とアールと死にかけの女の子)』の方が好きです。身も蓋もない表現がグレッグっぽくて良いなぁと。本作が描こうとしているものを正確に表していると思います。日本語タイトルも悪くはないんですけど。でも、違うから。グレッグに言わせると。

最後に

レイチェルの病気という一つの出来事をきっかけに、グレッグは成長していきます。少しずつ、少しずつ。そして、今までのグレッグにはあり得なかった行動に出ます。よくあるドラマチックな物語に比べたら、ほんのささいな変化です。でも、グレッグにとっては大変革。

その心の変化にこそグッとくる。

私はこういう映画が好きです。こういう映画をたくさん観たいなぁ。

1 COMMENT

アジサシ

ブログの更新ありがとうございます。
初めの4行だけでも涙が出そうです。
この映画観てみたいです。

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