精神科医による書籍『現役医師が教えます!失敗しない“心のお医者さん”の選び方かかり方』を読みました。
失敗しない“心のお医者さん”の選び方 かかり方―現役医師が教えます !
読みやすく、わかりやすい本でした。精神科を受診するにあたって、必要なことが一冊にまとめられています。
語り口も柔らかで、「うつ」なときでも比較的読みやすいのではないかなと思います。
友人や知人に精神科医がいたら、いろいろ話を聞きたいよね、相談に乗ってもらいたいよね、というコンセプトのもと、患者の気持ちをフォローしてくれます。
私が初めて病院を探すとき、この本に出会っていたら、かなり心強かっただろうなぁと思います。というわけで、もし誰かに「病院ってどうやって探せばいいのかな?」と聞かれたら、この本を手渡します。初めて精神科に行くときの不安が和らぎ、疑問に対する答えも見つかるはずです。
病院を探している人だけでなく、いま通院している人にも参考になる部分がたくさんあると思います。
また、精神科医療のいいところ、悪いところについても丁寧に書かれていて、バランスの取れた本という印象を受けました。
「精神科医Tomy」とは?
この本を手に取ったのは、精神科医Tomy先生に信頼感と好意を持っていたから。
療養中は、ブログ更新をチェックするのはもちろん、過去ログをさかのぼって読んでいました。
読者から寄せられる相談に対する回答は、優しさと誠実さを感じます。パートナーとの日記は、ユーモアたっぷりで、思わずふふっと笑ってしまう。とても素敵なブログです。字が大きくて、どこぞのブログのようにぐだぐだ文章を書き連ねたりしていないので(ごめんなさい)、うつでしんどいときでも読めます。ここにも優しさが……!
もし私がTomy先生のことを知らなかったら、「Tomy?え?精神科医?え?…てかTomyて」と手に取らなかったかもしれないなぁと思います。
わからないから肩書で判断するしかなくて、それが本当に正しいか疑問に思いつつも、権威にすがるしかないという悲しみ。
でも、この本は著者が匿名であることがプラスに働いていました。
Tomy先生曰く、名前を出しているがゆえに、はっきりと本音を言い切っていない本が多いとのこと。確かに、精神科医療に限らず、さまざまな兼ね合いがあって本音を言えないことは多々あるでしょう。
そこで、この本では「お茶を濁すわけでもなく、あおるわけでもない等身大の意見」を現場の医師の立場から率直にお伝えするとTomy先生。その言葉の通り、読者に対する誠実さが感じられる本でした。
クリニックの探し方
本のタイトルにもある通り、“心のお医者さん”の選び方とかかり方が具体的に示されています。
最初のパートでは、事例を挙げて、患者さんが抱いた疑問にTomy先生が一つ一つ回答する形式。「主治医にこんな対応をされたけど、どうなの?」という不安に対し、「そういう対応は妥当だよ」とか「こういう態度はちょっと問題アリかもね」という答えが得られます。
クリニックの探し方、初診の流れや通院する上でチェックしたいこともまとめられています。病院やドクターのタイプごとに、メリット・デメリットも挙げられているので、自分に合った病院・精神科医を探す参考になります。
よいクリニックの見分け方として、電話予約をする際にシステムや費用について質問するというアドバイスは、なるほど納得。その受け答えによってクリニックの良し悪しがわかります。きちんと理由を説明してくれるところは、よいクリニックの可能性が高いとのこと。質問の例と注目ポイントも挙げて、丁寧に説明されています。
クリニックの探し方は主に4つ。
・インターネット
・保健所
・知り合いからの口コミ
・主治医に紹介してもらう
わからないときは保健所で相談するのが一番、というのが私の中にある今のところの結論です。いろいろなパンフレットや冊子も置いてあるので、情報を集めたいとき助かります。精神保健福祉センターの担当者にたずねるのも良いですね。嘱託医による相談を行っている自治体もあります。
ちなみに私が最初にかかった病院は、インターネットで探しました。地域の精神科・心療内科をリストアップし、ホームページを確認。
・医師の経歴
・「精神保健指定」「精神科専門医」を取得していること
・サイトから読み取れるクリニックの雰囲気
これをチェックしたことで、ヤバい医師に当たることは避けられたのかな? という気はしています(が、実際のところはわかりません)。
「アブナイ心のお医者さん」
「ちまたにいる要注意ケース!アブナイ心のお医者さん」をはじめ、本書で挙げられていた事例については、「こんな人いるの?」「ひどいクリニックだな」と驚いてしまう例がありました。
説明をわかりやすくするために、極端な例を挙げているのだとは思いますが、こういう先生に出会ってしまったら、精神医療不信に陥って当然だよなぁとちょっとブルーな気持ちです。
実際は、「悪い先生じゃないんだけど、なんか納得できなくて……」というグレーな感じが多いんじゃないかと思います。それゆえに、なかなか転院に踏み切るわけにもいかず、モヤモヤしながら通院する……。
Tomy先生曰く、精神科の治療では患者さんとの距離感が重要、「可もなく不可もなく」が理想に近いとのこと。特に問題がなければ、通院するのがベターなようです。
ただし、
・説明がない
・質問に答えてくれない
・患者の意向を聞かない
こういう先生は信頼に欠けると言えそうです。
精神科の薬について
精神科の薬に対する印象は、人によってずいぶん違うようです。
不信感が強く、精神医療そのものを糾弾する極端な意見を持っている人もいます。その一方で、わりとカジュアルに薬を服用する人もいます。
傾向としては、精神科の薬に抵抗感を持つ人が多いようです。私もそうです。精神科医もそう、できれば最低限の薬で治療を進めたいと思っている医師がほとんどだとTomy先生は言います。
でも、デメリットよりメリットが上回るから使う。患者さんの治療のために必要だから使う。
ここがなかなか伝わりにくいみたいです。
患者さん本人が飲みたくないと思うこともあれば、家族が「いつまでも薬に頼ってちゃダメ」と言うケースもあります。
薬には必ず副作用があります。例えば、頭痛がひどいときに飲むロキソニンにもさまざまな副作用が記載されています。でも、「危険だ!」「飲んじゃダメだ!」と言われることはあまりありません。精神科の薬もそれと同じだよと言っても、実際に死亡事例もあるわけで、抵抗感を持つのも無理はありません。
このあたりは難しいですね。
適正に薬を処方する医師がほとんどとは言え、一方で、ばんばん薬を処方する医師がいることも確かなようで、そういう話を聞くと、治療を受ける側もしっかり知識を得ていかないといけないなぁと痛感します。調子が悪いときにそれをしろってのは酷な話なのですが。
精神科の薬が6種類以上出ている場合は要注意とのこと。
家族や周りの人に助けてもらいながら、少しずつ勉強していきたいですね。
最後に
不安や疑問に答えてくれる本であるといっても、個人差がある以上、「これが正解です!」とはっきり言いきることはできません。
不調のときには、そういう微妙なニュアンスを踏まえた上で答えを探すのは難しいよなぁと、自分自身の経験をふり返ってみて思います。
医療情報、特にネガティブな情報をネットで収拾するのはあまり好ましくありません。必ずしも正しいとは言えない不安を煽るような情報がたくさんあります。
本書でも述べられていますが、ネットの情報は参考程度にとどめておくのがよいですね。
病気に関する知識を得るときは、書籍を読むのが一番(まれに「う~ん」な本もありますが……)。図書館に行けば、関連する書籍がいくつかありますので、パラパラと読み比べて、適切な情報を収集していきたいところです。
おまけ
「失敗しない精神科の選び方 かかり方 7か条」
一、ドクターの第一印象だけで判断しない。
二、とりあえずドクターに聞く、聞く、聞く。
三、薬物療法はおまけではなく、主役。
四、薬の自己調整は絶対だめ! 必ずドクターに相談して決める。
五、大切なのは、治療をやめることではなく、あなたの人生。
六、今日明日で調子は変わらない。
七、ネットや他人の意見は話半分に。あなたが以前より楽に過ごせているかが重要。(pp.184-187)
「大切なのは、治療をやめることではなく、あなたの人生」の部分を「あなたの人生をやめる」と空目してしまいましたが、言うまでもなく、「人生の質を早く取り戻すことが大切だよ」という意味ですね。
チョコミントが食べたくなるカラーリングの表紙です。