『自殺予防の認知療法』自殺の長所・短所を探るワーク

死を願う人に向けた認知療法の本を読みました。

この本はつらい気持ちを和らげるための手引書です。もし今、切迫した状態にある人は、専門家の助けが必要です。

  • 自殺を計画し、実行する手段をすでに手に入れている。
  • 真剣に自殺を考えていて、現在、アルコールや他の薬物を過剰に使用している。
  • 食事がとれず、眠れない。
  • この本が最後の頼りだと思い、もしもこれが役立たなければ、自殺することを決めている。
  • 聞こえるはずのない声が聞こえる。何が現実で、何が現実のものでないか、よくわからなくなっている。
  • 以前に経験した非常に強烈な体験が突然よみがえる(フラッシュバック)。
  • ある程度の時間の記憶が失われることがある。
  • ひどく気分が落ちこみ、強い不安感を覚える。

(p.3,240)

これらの症状がある場合には、まず精神科治療を受けることが前提として示されています。

もう駄目だと感じているあなたへ | 命を大切にするページ「こころの耳」- 厚生労働省
治療や生活へのサポート | みんなのメンタルヘルス – 厚生労働省

その上で、死を考えずにはいられない心境について、また、苦しみを和らげる技法がまとめられています。

自殺の長所と短所を探るワーク

この本の中でなるほどと思ったのは、自殺の長所と短所を書き出してみるワークです。

ひどいうつ状態に陥ると、考えが極端に悲観的になって、視野が狭くなってしまいます。それ自体は悪いこととは限らないのですが、自分を苦しめる思考に支配されてしまうことが多いので、好ましくありません。

「死にたい」という気持ちも同様に、否定的な見方しかできなくなっているために、自分にとってプラスの選択肢が見えなくなっている状態だと考えられます。

だから、死が最善の選択だと考えている人は、本当にそれが妥当な判断か検討する必要があるよ、まず自死の長所と短所について考えてみよう、というわけです。

要領は「ダブルカラム法」と同じです。紙の中央に線を引いて、左側に長所、右側に短所を書き出していきます。

本書で挙げられている「自殺の長所と短所」は次のようなもの。(p.62)

長所 短所
私はもう他人の重荷にならない。 私が死んだことが他の人の重荷にならないと(死んでしまっては)どうやって知ることができるのか?
私は負け犬だ。少なくともひとつのことはうまくやり遂げられる。それが死だ。 死ぬことで、過去と将来可能な成功をすべて失ってしまう。
少なくとも私は誰かを傷つけることはない。 私自身も何も感じられなくなってしまう。
私が死んだら、皆は自分が私にひどい扱いをしたことを後悔するだろう。 復讐を楽しむことすら、死んでしまってはできない。
これは私が何かをコントロールできる唯一の方法だ。 死んでしまうということは、究極的にコントロールする力を失うことである。
死によって、私の犯した多くの罪を償える。 私は死んでしまうのだから、罪は私の将来の行動に何の影響も及ぼさない。
ようやく、私があの人をどれほど愛していたのかわかってくれるだろう。そして、それに応えて私を愛してくれるだろう。 死んでしまっているのだから、これについて私自身はわからない。
来世で私はより幸せになれる。 来世の概念を完全に誤解している危険がある。

この他に思いつく長所があれば、短所とあわせて書き出します。

自分だけで考えていると、見落としてしまうものがあるので、できれば、家族や友人、心理療法家に相談するようアドバイスがあります。

さらに、極度の苦痛に襲われている人にとっては、その苦しみゆえに重要な情報を見逃してしまうことがあります。

それを補う質問が次のものです。

  • もしも自殺するとしよう。天寿をまっとうしたならば、残りの人生で何が起きただろうか?
  • 私が人生を早く終わらせてしまったら、どれくらい多くの物、多くの人を失うことになるのだろう?
  • 私が自殺したら、遺された人にどのような影響を及ぼすだろう?
  • 私の死後、実際に何が起きるだろうか?
  • 事態がよい方向に向かわないという私の考えがもしも間違っていたら、どうなるだろうか? 後に誤りだったと明らかになるような直感に基づいて私が自殺したら、どうなるだろうか?
  • 私が自殺したら、どのような影響を残すことになるのだろうか? 私は自殺して、愛する人を置き去りにした人間として、常に記憶されるのだろうか? こういったことをこの世に残したいのだろうか?

(p.66)

「死にたい」と思っているときにこういうことを考えるのは酷だろうと思います。が、「答えなんかどうでもいい」「考えたくもない」「そんなことを考える元気も忍耐力もない」という人に対するフォローもあり、具体的なワークもズラズラズラと示されています。

これらのアプローチにどれくらい効果があるかはわかりませんが、一度はきちんと向き合っておきたい問いです。考えに考えた末の答えだと思っても、一つや二つは見落としがあるかもしれません。

最後に

「死ぬしかない」という切迫感に苦しめられている人に役立ててほしいという著者と訳者の思いが伝わってくる本書。巻末には「家族や友人のための手引き」があり、サポートする人にとっても参考になる部分がたくさんあります。

死にたい気持ちを理解してもらえず、苦しんでいる人にとっては、正面から「自殺」に向き合ってくれる本書は心強い味方となることでしょう。

ただ、人生に対する姿勢や生死をどのように捉えているかという前提にズレがあると、スッキリしない部分があるかもしれません。まぁ、本書ではより実践的な技法を紹介することに重きを置いたと断わりがありますし、その点に関しては自分で考えていくしかないのかなぁとは思います。このあたりは、一冊ではとてもまとめきれない内容ですよね。

不調のときに読むのはちょっと大変かもしれませんが、興味のある方は手に取ってみてはいかがでしょうか。

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