松本ハウスが教えてくれた、病気と共に生きる苦しみ・働く喜び・笑いの心得

意欲・集中力の低下、気分の落ち込み、無感情などのうつ症状。これに似た症状は統合失調症の陰性症状でもあらわれます。

うつ病は気分の障害、統合失調症は脳の障害と言われ、まったく別の病気なのですが、私はどうも人ごとには思えません。

お笑い芸人・ハウス加賀谷さん、松本キックさんの『統合失調症がやってきた』を読んで、ますますその気持ちが強くなりました。

松本ハウスが私にくれたもの

今でも忘れません。療養中、まだ不調で寝ていることしかできなかったときのこと。松本ハウスが「JINRUI」として復活する噂を聞きつけ、パソコンの電源をつけることさえおっくうだった私が、必死にネットで情報を探しました。

加賀谷くん(JINRUIの時の芸名)が統合失調症で闘病していたことも、そのとき知りました。ファンとして、復活はものすごく嬉しかったですし、それ以上に、精神疾患を抱えながら芸能活動を再開することにとても励まされました。

そして、彼らのブログトップ画面に出てくる「か・が・や・で~す!」を見るのが私の日課になりました。

松本ハウスの不思議な冒険

あぁ~、何回見ても良い。元気出る~。

 

ハウス加賀谷の闘病生活

加賀谷くんが精神症状に悩まされ始めたのは中学生のとき。幻聴や自己臭恐怖症を発症し、苦しむことになります。

さらに、高校では、廊下が波打って自分を呑み込もうとする幻覚に襲われ、グループホームに入ることになります。1年後、彼はお笑い芸人を志し、オーディションに合格。そこで相方のキックさんと出会います。

調子を崩した原因

売れっ子となってからも、服薬を続けながら活動する日々。人前に出ることで、症状は良くなっていったと言います。

が、「薬に頼らなくても、ぼくは普通にやれるんだ」という思いから、薬の量を自己調節するようになります。

そうして、体調は急降下。仕事に支障をきたすことだけはしたくないと、お客さんやスタッフの前では全力で取り組むものの、休みのない日々が続き、心身のバランスが崩れ……。

 どうしてぼくは、そこまで悪くなってしまったのだろう。
振り返ると、一つの理由に突きあたる。調子を崩した原因は、勝手に薬の量を調節してしまったことだ。ぼくは、本当にいけないことをしていた。
「調子いいからこれ二錠でいいや」
「眠れないからこれ三錠に、これ一錠プラスして……」
主治医が処方してくれた薬の分量を守らず、自己判断で、気分に応じて飲む。少なすぎることもあれば、死にたいのかというくらい多すぎることもある。
ぼくのしていたことは、きつい言葉を使うと、「薬物濫用」だ。(……)

個人で分量を変えることは、絶対にしてはいけない。
今のぼくは、声を大にして言いたい。薬を飼いならせると思ったら大間違い。そんなことをすれば、道は深くて暗いものになっていく。

精神疾患の治療に使われる薬はリスクも大きく、副作用もあります。それでも、そのリスクを上回る効果があると精神科医は判断し、薬を処方します。

使い方を間違えば、加賀谷くんのように心身に大きなダメージを与えることになってしまう。どんなに調子が良くても、医師の指示を守って服薬を続けることが大事だし、過剰服用は自分を傷付けるだけで何の解決にもならない。むしろ、苦しみを増長させるだけ。

改めて、薬との付き合い方を考えさせられます。

救いを求めて本を読み漁る日々

ギリギリの綱渡りも限界に達し、加賀谷くんは閉鎖病棟に入院することになります。

筋肉注射と何日かに一度の回診。それ以外にやることはなく、食事が唯一の楽しみ。

そんな中で、加賀谷くんは本を読み、そこに救いを求めるようになります。

 ぼくは、答えを探していた。この先どうしていくのか、どんな生き方があるのか、なんのために生きるのか……。太宰治ではないが、将来のことを考えると不安で不安で、救いとなる答えが欲しくてたまらなかった。

もう、この気持ちは本当によくわかります。私も同じことを毎日毎日考えていました。そして、さまざまな本を読み漁りました。

カントの『純粋理性批判』をはじめとする哲学書、ドストエフスキーの『罪と罰』、聖書などの宗教関係の本……。

驚くことに、加賀谷くんもこれらの本を読んだと言うではないですか。さらに、内容が頭に入ってこず挫折したことろまで一緒。

あの苦しみは二度と味わいたくはないけれど、こういう気持ちを体験できたのは貴重なことだとは思います。

先の見えない不安に怯え、加賀谷くんと同じような発想で同じ本を読んでいたことが嬉しくてニヤニヤしてしまったことは内緒です。

 

病気を抱えながらのアルバイト生活

長い療養生活の末、体調も落ち着いてきた加賀谷くん。芸人に復帰するための準備としてアルバイトを始めます。そのときのことを語った漫才風のインタビューが面白くて参考になります。以下、簡単にまとめました。

仕事探し~面接

  • タウンワークでアルバイト探し。
  • 求人(募集年齢:30歳ぐらいまでの方)を発見し、32歳で応募。
  • 履歴書に病気のことは書かなかった(が、彼の場合は特殊で、ネットで調べれば病気だということはわかった)。
  • 職歴の空白期間について聞かれたときは、「病気療養してました」と答えた。
  • 「松本ハウス枠」で合格。

こういう具体的な体験談はとても参考になりますよね~。すべて松本ハウス枠で採用されているので、同じようにはいかないですけど。

アルバイト先

①喫茶店

  • チェーン店の喫茶店。
  • 週2日×2時間~ 時給800円。
  • 震える手でコーヒーを「カチャカチャカチャカチャカチャカチャ」と提供。
  • ホールでは時間に追われパニックになりながらも、納得のいくトーストを準備(タイムオーバー)。
  • 迷惑をかけてしまうため、病名を告げて退職。

②お寿司屋さん

  • 地元で有名な回らないお寿司屋さん。
  • 週2~3日×8時間。
  • 調理場からの指示が聞こえず、読唇術で対処するも間違える。
  • 「いくら丼いっちょー!」という威勢の良さは褒められる。
  • リーマンショックの波及によりフェードアウト。
  • 接客の仕事は向いていないと悟る。

③建設現場の日雇い

  • 好きだったのは、建築現場で出たゴミを外に出す力仕事「ガラ出し」。
  • 手首まで刺青が入っているお兄さんたちの懐に入って現場を和ませる。
  • 復帰の時期と重なり、徐々に遠ざかる。

④アパレル関連の仕事

  • 友人の紹介で始めたアパレル系の作業。
  • 黙々と一人で値札に値段のスタンプを打ったり、簡単なアクセサリーを作ったりする。
  • 職場は優しいおばさんお姉さんばかりで楽しかった。

バイトをやってみて感じたこと

自分の特性を知って、それを活かせる分野で働くことが大事だと加賀谷くんは言っています。

「病気だから」という基準ではなくて、自分に合った仕事を無理のないペースで続けること。普通の職探しと同じですね。

なかなか希望の条件が見つからない場合も多いですが、運やタイミングもありますし、加賀谷くんのように思い切って行動してみるのもポイントでしょう。

仕事のことを考えると、「失敗したらどうしよう」「迷惑をかけるんじゃないか」と不安に押しつぶされてしまいますが、このインタビューを読んでいると励まされます。自然と働きたくなってくるから不思議です。

 

おわりに

まだまだ書きたいことはあるんですが、この調子だと永遠に終わらないので、この辺で切り上げることにします。

本当はキックさんの名言もご紹介したかったんですけどね。まぁ、ここだけでは松本ハウスの信頼関係の深さは伝えきれないので、ぜひ本を読んでみてください。もうホント惚れますよ、キックさんの優しくも男気ある対応に。

そしてもちろん、加賀谷くんの生き様にもたくさんのことを学ばせてもらいました。偏見にも負けることなく、前向きに生きる姿には勇気づけられます。

社会の偏見は根深く、なかなかなくならない。
だけど、ぼくは、偏見がなくなることを期待するより、
自分がどう生きるかが大事だと考えてるんだ。

ぼくは、もう一度、ぼくのやりたいことに飛び込んだ。
現状を動かしたいと思って飛び込んだ。
正直、後先のことは考えていなかったけど、動くことで、何かが変わることもある。

ぼくは周りの人に恵まれたこともあって、今もこうして芸人をやれている。
みんなに感謝しながら、無理をしすぎないで、やっていくよ。
年をとっても、みんなを笑わせ、みんなと笑っていられるといいね。

みんなありがとうね。感謝しています。

私の方こそありがとう、加賀谷くん。私もあなたのように感謝の気持ちを忘れず、笑顔で日々を過ごしていこうと思うよ。

年下のくせに「加賀谷くん」なんて呼んでごめんね。これからも応援しています。

 

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松本ハウスがやってきた!『統合失調症がやってきた』発売記念インタビュー

<今度こそ読みたい本たち>

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1 COMMENT

匿名

おはようございます。
本日もブログを拝見させていただきました。

私はお笑い芸人さんには詳しくないですが、「本を読み、そこに救いを求める」
という気持ちは今の自分と似ているなと感じました。
私も最近は、本ばかり読むようになりました。
こんな自分が生きる意味はあるのか、何のために生きてるのか、苦しみをどうやって乗り越えたらいいのか、よりよく生きるにはどうしたらいいのか、答えが知りたくて、苦しくて。
親からは、「考え過ぎ・真面目すぎる」と言われています。でも同じ体験をされている方がいて、なんだか「自分一人ではないんだ」と感じました。

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