問題解決のヒントは物語にあり。おとぎ話によって癒された人々の話

本とピンクのバラ

 

あなたにはあなたの物語が、
わたしにはわたしの物語がある。

 

そう気づかせてくれたのが、今日ご紹介する『診察室にきた赤ずきん』です。

著者は精神科医の大平健氏。実際の臨床場面を紹介しながら、物語療法の世界を魅せてくれます。

この本を読んでから、自分の世界に変化が訪れたような気がします。

こんなふうに書くとちょっと大げさのようにも思えますが、自分の人生の全体像をじっくり眺めようとする時間が増えたことは確かです。

これってすごく重要なことなんじゃないかと思います。

だって、よく言いますよね、客観的な視点が大事だよって。それが得られたわけです、ただ一冊の本を読んだだけで。

一冊の本といっても、その中で12のお話(昔話、おとぎ話、童話)が紹介されています。それとあわせて心の問題を抱える人たちの話も紹介されているので、12×2=24。一つの物語につき登場人物は一人ではないので、どんどん世界は広がっていきます。

そう、とにかく読了後の広がりがすごい。たった200ページ、でも、その中にはたくさんの物語が詰まっていて、俗っぽく言えば「めちゃお得!」。

お得ってのも変な話ですが、他人の人生を通して気づけることも多いじゃないですか。そういう意味で、気づきをいっぱい得られる本だよと。

自分のことを知る手がかりがたくさん得られて、なんか楽しい感じもする素敵な本なのです。

物語療法の世界へ

冒頭でも紹介した通り、本書は精神科を訪れた人たちの診察風景を紹介した本です。

そこで用いられるのが、昔話やおとぎ話、現代絵本のお話。

大平先生は、物語を使って、患者の心を解きほぐしていきます。

言葉ではうまく言い表せなくても、お話になぞらえて考えてみることで、はたと気づくことがある。

自分では見えない問題を浮き上がらせてくれるんですよね。

「物語の力ってすごいんだよ」

ページをめくるたびに、大平先生がそう語りかけてくれるようです。

精神科医がお話を語ることによって、患者の心を癒やす。

その様子に、読んでいる私の方まで心が洗われるよう。というか、単純におもしろいよね、もつれた糸がほどけてスッキリする感じあるよねって。

人は誰でも「自分の物語」を持っています。

「自分の人生なんかつまらない」と思っている人でも、必ず特別な物語を紡いでいる。

本書は、「あなたは特別である」「あなたはあなたの物語の主人公である」と実感させてくれます。

この本を読み終えたとき、大平先生のメッセージが、温かく胸に届きます。

自分の人生と合わない物語をあてがわれたら……?

本書を読みながら疑問に思っていたこともあります。

ここで紹介されている事例は、昔話や童話が患者の人生にぴったりと当てはまってうまくいった、よかったね、という話。

でも、実際にはあまりしっくりこないケースもあったのでは?
物語を取り入れたことで、こじれてしまったことはなかったのかな?

そんな疑問です。

私は、物語をあれやこれやと解釈することは時に危険だと考えていました。

だって、間違える可能性があるから。

的外れな解釈で、ねじ曲がった答えを見いだしてしまうこともあるんじゃないかと思ったんですよね。たとえ可能性を示しただけであっても、「これこそが答えだ!」と患者が思い込んで迷走してしまうこともあるのではないかなぁと。

そのあたりの話も書かれていたら、さらに深く納得できたんじゃないかと思います。

まあ、そういう相手には物語を持ち出さないよーとか、ディープな話はさすがに書けないよ~ってことなのかなーとも思いますが。

で、そんなほのかな疑いを抱きながらも、気づかされたんですよね。

たとえ本当の答えとは違っていても、そのお話を聞いた人が、自分の人生を切り開くヒントを見つけることができたのなら、それは大正解なのだ! と。

そういう意味で、物語が与えてくれるものはやっぱり大きい。他者視点で「これって共通点あるんじゃないかな?」と提示してもらうことも重要です。

と、本書を読んだことで、ちょっと考えが柔らかくなった気がします。

というか、そもそも物語に正解不正解はないですよね。

真実は神のみぞ知る(誰も知ることができない?)。

あなたの物語はどんなものですか?

最後に、大平先生の素敵なメッセージを紹介しておきます。

 皆さんも思い出してみて下さい。幼いときに心引かれた物語が、きっと皆さんの人生を導いてきたことに気づくはずです。人生のおりおりに鍵となったお話があったことに気づくはずです。人には誰にでも「自分の物語」があるのです。
 過去に限る必要はありません。人生の節目節目に自分に合った童話や昔話を見つけて下さい。誰の心の中にも小さな主人公たちがいて、皆さんに呼び出されるのを待っています。あるいは、小さな主人公たちは、皆さんの心の中ですでに活躍を始めているかもしれません。皆さんがそのことに、まだ気がついていないだけのことかもしれないのです。(pp.199-200)

こういう言葉を受け取ると、「人生の煌めき」のような、普段自分の口からは絶対出てこないワードが自然に思い浮かぶから不思議です。

物語の力を借りて、自分自身を理解する。
漠然としていたものを浮き上がらせる。

それを叶える昔話やおとぎ話。

あなたのお気に入りの作品、「なんか好きだな」と感じる物語はありますか?

そこに大きなヒントが隠されていそうです。

じっくり味わってみることで、あなたが探し求めていた答えが見つかるかも!?

 

<本日の一冊>
大平健 (2004)『診療室にきた赤ずきん 物語療法の世界』新潮社

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