日々をほぐす物語『すこしだけ生き返る』

あるときふと目に止まった漫画の表紙。

『すこしだけ生き返る』

男性が首のストレッチをしている。私もそれ、よくやる。何だろう、どんな話? あと、なんか、配色と絵のテイストが好み。ちょっと読んでみよう。

そんな感じで手に取った本書。

とてもよかった……!

『すこしだけ生き返る』 うすくらふみ | ビッグコミックBROS.NET(ビッグコミックブロス)|小学館

『すこしだけ生き返る』は、肩こりに悩む弁護士が、ストレッチをするお話。主人公は、個人法律事務所を営む間敏郎(42歳)。顧客は主に、地域の住民や中小企業。持ち込まれる相談と、体の痛みに向き合いながら話が進んでいきます。1話完結タイプです。

んで、各所でストレッチの様子が描かれるのですが、それがやけにリアルなんですよね。ページをめくりながら、思わず自分も首を回したり、腕を伸ばしたりしてしまう。読むと同時に体を動かす。こんな読書体験、初めてかも。

さらに、ストレッチの詳しい解説ページまであるから、実用書としても役立ちます。作中でも、「それ知ってる」の知識に「プラスワンのアドバイス」が添えられ、「何……?!」に変わる。そんな発見の積み重ねによって、間先生は「すこしだけ生き返る」のです。

で、間弁護士のテンションもまた心地いいんですよね。感情が乱高下しないので、穏やかに読んでいられます。訥々と紡がれる心の声がなんか笑える。冷静な表情のまま、心の中で正直な感想を述べ、ツッコミを入れる。そして、アドバイスを素直に実践する。その間合いに笑ってしまうんですかね。ときに、親子の肩車姿を見て「肩、痛そうだな…」とつぶやく中年男の哀愁。笑いと共感と……自身の体の痛みを思い出しながら苦笑いです。

物語から滲む人生の断片も味わい深いところです。母の記憶、父との距離感、年齢を重ねることへの戸惑い。多く語られないからこそ、想像が広がります。痛みの蓄積に至るまでに、間先生は一体どんな道を歩んできたのでしょうか。

この作品は、作者さんの悩みから生まれたものでもあるそうです。「肩や腰やらどっかしらが痛い……」とのこと。切実だ……。間先生は42歳。作者さんも間先生と同世代なのでしょうか。きっとそうなのでしょう。私も同世代だからわかります、回想で登場する懐かしのアイテムがドンピシャなのですよね。ナタデココやらルーズソックスやら……。共感の次は懐古ですかと。

『すこしだけ生き返る』。

タイトルがまたいいじゃないですか。

そう、本当に、すこしだけ。

でも、それだけでもけっこう違うんですよね。

このくらいの温度感が、現実に即していて心地いい。

人生、「すこしだけ」の積み重ねなんでしょう、きっとね。

過去と現在。心と体。

ストレッチをすれば、少しほぐれる。

そして、すこしだけ生き返る。

そうやって今日をやり過ごし、だましだましやっていきましょう。

 

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