孤独と虚しさと居場所のなさに共鳴『ロスト・イン・トランスレーション』

ハリウッド俳優が日本のバラエティ番組に出演する。そんな設定の映画を観ました。

驚いたのは、映し出されたのが実在の番組そのままだったこと。昔見ていましたよ。ああ、懐かしい。

お笑い芸人とスター俳優。思わぬ取り合わせに興奮します。

そういえば、一時期、超有名ハリウッド俳優が日本のCMによく登場していましたよね。10年以上前の話になるのでしょうか。「なんでこの仕事受けたの?」とびっくりしちゃうような内容で。例えば、ドラえもんに扮したジャン・レノ。『男はつらいよ』の寅さんに扮したリチャード・ギアCMもありましたね。最初見たとき「あらあらあら……」と思いましたけれど。あと、もっと遡ると、レオナルド・ディカプリオに「刑事プリオ」のテロップばーん!とか。これ見たのは小学生くらいだった気がする。このCMのおかげで「ディカプリオ」か「デカプリオ」かわからなくなっていたから。クレジットカードのCMだったの? 覚えてない~

この頃のトレンドだったのでしょうか、有名ハリウッド俳優が日本のCMでちょっと変な感じにされちゃうブーム。カッコいいCMもあった気はするけど、「なんじゃこりゃ」な演出のほうが印象に残っているのは間違いない。「大スターがなんか面白いことやってる!」という意外性に喜んじゃうジャパニーズピーポー。私もその一員です。

というわけで、冒頭でふれた映画もこのノリを踏まえて制作されたのかな~と思って観ておりました。

ジャパニーズカルチャーのポップさやら妙なハイテンションっぷりやら、そうかと思えば、趣ある美しい風景に、侘び寂び。このアンバランスさが何とも言えない空気感をつくっています。

 
『ロスト・イン・トランスレーション』
原題:Lost in Translation / ソフィア・コッポラ監督・脚本 / 2003年 / アメリカ・日本

主人公は、ウイスキーのCM撮影のため来日した初老のスター俳優ボブ・ハリス(ビル・マーレイ)。あーこんなCMありそうなだなぁと思えるような雰囲気。とてもよいです。ビル・マーレイのくたびれっぷりも素晴らしい。中年の危機とか言われちゃってる虚脱倦怠おじさん役。なんかいろいろ笑っちゃう。本作ではふざけてないのに。

で、そんな彼が抱える孤独や虚しさが描かれるとともに云々いろいろあるわけなのですが、言語の壁やカルチャーギャップから生まれるしんどさがめちゃめちゃ伝わってくるんですよね。

日本語わからんし、ジャパニーズカルチャーもわからん。まったく、おかしな街だぜトーキョーは。妻は私を必要としていないし、仕事も何だかなぁ、はぁ……といった具合に疲れをにじませ、不眠と倦怠感を抱えて過ごすボブ・ハリス。

そこにきて日本のおバカ番組出演です。

このギャップがすごい。

虚構のハリボテを基盤にクリエイトしていくバラエティ番組。真実がないのに真実がある。本質よりも側からつくって何事かを成り立たせようとするフワフワ感ハラハラ感。ずっと落ち着かない状態。それを何事もないかのような顔をしてハイテンションでぶち上げていく。出演者も制作者も視聴者もみな共犯。

そして一人置いていかれる初老のハリウッド俳優。

そりゃそうだよね。テレビってそういうところあるよね。躁状態だよね。

ひどい抑うつに陥った頃の気持ちを思い出しました。

 

さて、映画の感想を書くなら言及しなくてはいけない主要人物がもう一人。夫の仕事に同行して来日した若妻シャーロット(スカーレット・ヨハンソン)です。彼女もまた日本という異空間で寂しさを感じており、人生に行き詰まりを感じています。

そんな彼女とボブが出会うのは必然と言えるでしょう。だって、もし私が一人外国で心細さを感じていたら、似たような日本人っぽい人見つけただけで「あっ、仲間がいる!」となりますもの。その引力の強さたるや。非日常であることもポイントでしょう。

そんなわけで、疎外感を抱く二人に生まれる心の結びつき。孤独と虚しさと居心地の悪さから生まれる共感、そして共鳴。

BGMも世界観にぴったりです。

『ロスト・イン・トランスレーション』、いい作品だなぁ、なんか好きだなぁとその余韻がしばらく続きました。
 

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