「自分自身を信じてみるだけでいい。きっと生きる道が見えてくる」
ゲーテの名言だそうです。
が、これを聞いたとき、ちょっと心に余裕がなくて「おいおい自分自身を信じるって具体的にどういうことだよ」とイラついてしまいました。
それで出典を探してみたら、この言葉、ゲーテの戯曲『ファウスト』の中で登場人物が言ったセリフだそうじゃないですか、「おいおいおい、それゲーテの言葉じゃないじゃん、名言として紹介されるのも違くない?」と思ったので、そのあたりのことをちょっと考えてみることにしました。
まず、「自分自身を信じる」とは具体的にどういうことなのか。
例えばオリンピックを目指すアスリートだったら、これまでたくさん練習してきたことを思い出して「自分ならできる!」「大丈夫!」と信じる、みたいな感じですよね。
「迷わず行けよ行けばわかるさ」とか「自分の(心の)声を信じ歩けばいいの」とかいったメッセージもあります。「誰それの声に惑わされるな」「自分が思ったとおりにやればいい」、そんな励ましもあるかもしれません。
でも、「自分自身を信じろ」と言われちゃうと途端にわからない。何もつかめなくなります。信じて何をするのか、という言葉がないからでしょうか、まず「自分自身って何?」って思っちゃうんですよね。
そもそも自分って何? 信じるってどうやって? 自分自身を信じろって存在を信じろってこと? それは何?
いや、言いたいことはわかるんです。でもコレ名言として紹介されているわけじゃないですか。名言とは、物事の本質や人生の真実をうまく言い当てたことば(明鏡国語辞典)だそうです。え、大してうまく言い当ててる感じしないんですけど? 別に普通の言葉じゃないですか? って言いたくなっちゃう。
そんな私の気持ちをなだめてくれる回答が、東京ゲーテ記念館のサイトにありました。
Q:「自分自身を信じてみるだけでいい。きっと、生きる道が見えてくる。」という「ゲーテの名言」は…? – 東京ゲーテ記念館
まず、「自分自身を信じて~」という言葉は、おそらく『ファウスト』のセリフを「超訳」したものだろう、とのこと。冒頭でも書いたとおり、物語のセリフだからゲーテがそう考えていたかどうかはわからないし、それが「名言」かどうかは主観によるので、何とも言えないよね、と。
そして、もともとは単純だった言葉が「名言」としてインターネットでくり返し引用・転用されるうちに、意味深な言葉に変容してしまうことも少なくないとの指摘もあります。
さらにその下には、18種類の日本語訳が紹介されています。訳し方によって、こんなにニュアンスが違うのかとびっくりです。
その中で一番しっくりきたのはこれ。
「自信がつけば態度も変わってくる」(池内紀、集英社、1999)
「そりゃそうだ」と納得できます。名言かどうかはさておき、「んんん?」ってならないのが良いです。
実際にこのセリフを投げかけられて「じゃあ具体的にどうやって自信をつければいいの?」と疑問が浮かんでも、「○○をやってみよう」「こうすれば変わるかもしれない」と答えを探しやすい気がします。アクションを起こしやすくなるというか。
まぁ『ファウスト』を読んでみないと何とも言えないんですけどね。話の流れ次第では、「自分自身を信じてみるだけでいい。きっと生きる道が見えてくる」が合っているのかもしれないし、それが素晴らしいセリフだと感じるかもしれません。
いや、でも、先のページで紹介されていた訳に「自分自身を信じてみるだけで~」という表現はないんですよね。「自分を信じさえすれば」「あなたがご自分を信じれば」ならありますけど。一体いつ誰が訳したものなのでしょう?
まぁ、何はともあれ、スッキリしたのでOKです。
ネットには一人歩きした「名言」がたくさんあるようなので、出典を確認しないといけないなぁと改めて思いました。これは名言に限ったことではないので、しっかり習慣づけたいところです。
そうして自分自身を信じることができれば、きっと生きる道が見えてくることでしょう(適当)。
更新ありがとうございます。
自己肯定できるまでが長いんだと思います。