私は双極Ⅱ型障害と診断されています。双極Ⅱ型障害とは、軽い躁とうつをくり返す病気。
はじめて精神科にかかったときにはうつ病と診断されました。自分がこれまで悩まされてきたのも抑うつ症状がほとんどです。
だから、軽躁と言われても実はピンときません。
もちろん思い返せば、やたら元気な時期があったなぁとか、爽快感が伴っていたなぁとか、今の自分からすると考えられない言動だったなぁと感じることはあるのですが、病的かと言われるとクエスチョンマークがつくのですよね。
むしろこの状態が好ましい、いろいろ頑張れていいじゃない、私はこの頃の自分に戻りたいよ、といった具合に。
こういった感覚は、どうやら双極Ⅱ型障害の人が抱きがちなもののようです。
『ノーチラスな人びと』に今言ったような感覚を含め、納得できる部分が多々ありました。
『ノーチラスな人びと』内容紹介
この本は、3つのパート(医療編、支援編、闘病・生活編)に分かれており、双極性障害に関する一通りの知識を広く知ることができます。
執筆者には、双極性障害研究の第一人者、加藤忠史先生をはじめ、名だたる先生方が名を連ねており、信頼できる感があります(執筆者は日本評論社サイトの目次で確認できます)。
といっても、実際のところはよくわかりません。これまで読んできた本やインタビューなどから信頼できそうだと素人が判断しているだけです(立派な肩書に惑わされないぞと決意しつつも自信はない)。
参考:「うつ関連書籍」カテゴリ
編著者は、精神科医の鈴木映二先生。双極性障害患者でつくる自助会「ノーチラスの会」理事長で、本書では当事者同士の支えあいがどのような効果を生み出すか解説されています。
闘病・生活編では、私小説風の体験談やコミックエッセイの形で、リアルな患者の生活が綴られています。
「広く浅く」という感じではありますが、これだけの内容を一冊でフォローしている本はなかなかありません。双極性障害の当事者はもちろん、家族や周囲の人たちにもおすすめできる本です。
すでにある程度の知識がある人でも、一つや二つはなるほどと思えるところがあると思います。
「双極性障害」をどう表現するか
「ノーチラスって何?」
この本を手に取ったとき最初に浮かぶ疑問です。
ノーチラスとは、オウムガイ(オウム貝)のこと。アンモナイトの親戚で、何億年ものあいだ進化せずに生息しつづけてきた生き物。生きている化石とも言われているらしい。
空洞になった貝殻の中に、海水を出入りさせて、海底と海面を行ったり来たりする。その様が、双極性障害の感情の波を連想させることから、双極性障害の当事者会の名前につけたのだそうです。
こんなふうに説明されると、やっかいだと思っている障害が、誇って良いもののようにも感じられるから不思議です。
いやしかし、生きているオウムガイの写真を見ると、エイリアンっぽくてインパクトがすごいですね。丸まったエビみたい。ヒゲのようなもじょもじょといい、色柄といい、何というか……夢に出てきそう。
さて、本書のサブタイトルは「双極性障がいの正しい理解を求めて」。
「障がい」の表記は統一されておらず、「障害」を使っている執筆者もいます。
私は今のところ「障害」を使っています。「害」をひらがなに開く意図はよくわかるのですが、ひらがなで表記された方が「害」をより強く意識してしまうのですよね。
それに、「害」にネガティブな意味があるから開くと言われると、じゃあ「障」はいいのかなと気になります。「障」には「たちふさがってじゃまになる」などの意味があるよなぁ……と。
このあたりは、時代の価値観によって変化すると思うので、その文脈に合わせたいと思います。というわけで、あまり気にせず次にいきます。
病気とうまく付き合うコツを確認する
うつ病や双極性障害の本を読むと必ず、当事者が心がけたい基本的なポイントが示されています。
『ノーチラスな人びと』でも、社会生活を送るポイントや健康管理のコツ、職場適応のコツが紹介されていました。
健康管理のコツ
- 活動記録表をつける(体調の波の流れを把握する)
- 生活リズムを整える(就寝前1~2時間前はスマホ・ゲームを控える)
- 決まった時間に軽い運動をする
- 飲酒やカフェイン摂取の影響を考慮する(就寝時間が乱れがちなときは控える)
- 同居者の協力(テンションが高くなっていたら教えてもらう)
- 体調変化などの兆候がいくつかあらわれたら主治医に相談する
- 軽うつは、あわてずじっくり改善を目指す
これらのチェックポイントを確認するたび「ですよね」と思うのですが、当たり前のことほど難しかったりして、いまだにできていない部分があります。
軽い運動と就寝前のリラックスタイム確保、これが私の課題です。はぁ。
『ノーチラスな人びと』の感想
複数の執筆者が寄稿している本は、各人の個性を楽しめるのも良いところです。
『ノーチラスな人びと』を読んで印象的だったのは、実践的な話の次にいきなり抽象的な話が飛び出してきたりするところ。
例えば、「良い精神科医の見つけ方」について説明されている項があります。具体的でなるほどと思える内容です(医療機関と調剤薬局との関係とか)。
そして、執筆者が代わり、次の見出しサブタイトルは、
「われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか」
いきなりの哲学的な問いに思わず笑ってしまいました。ゴーギャンの絵のタイトルです。
唐突すぎると人は笑ってしまうものなのですね。この項では、美術、文学、能楽、アメコミなど幅広い作品を例に挙げ、心とホルモンについて解説されています。
内容だけではありません。語り口も人によって違います。似たような解説が並んでいても、事務的に感じられるものもあれば、穏やかに受けとめてくれる温かさが溢れ出している文章もある。
そういった違いが興味深かったです。「この先生の診察はこんな感じかなー?」と勝手に想像したりして。
さまざまな立場からアプローチした本書は、受け取る側の立場によっても、さまざまな答えと気づきを与えてくれると思います。
「おっ」と思うキーワードから、さらに詳しい本を読んでいくこともできるので、入門書としても最適です。
2015年の本なので、病気の解説は新しい書籍を参考にするのが良いと思いますが、全体をいろいろな角度から理解するのに本書は役立つと思います。
NPO法人ノーチラス会 – 特定非営利活動法人日本双極性障害団体連合会(JABD)
日本で唯一の双極性障がいに特化した患者団体。
あわせて双極性障害の関連サイトもまとめておきます。
<双極性障害・参考サイト>
双極性障害(躁うつ病) | 厚生労働省
基本的な知識がまとめられています。
双極性障害委員会 | 日本うつ病学会
患者さんとご家族に向けた、双極性障害を正しく理解するための解説書「双極性障害(躁うつ病)とつきあうために」(PDFファイル)をダウンロードできます。
躁うつ病のホームページ
脳科学研究者・精神科医である加藤忠史先生(@KatoTadafumi)によるサイト。双極性障害の解説、治療法、患者さんやご家族の手記も紹介されています。
双極性障害 | こころの健康情報局 すまいるナビゲーター
双極性障害の早わかりガイド、症状を紹介するアニメーションから学べます。脳科学的な視点からの解説もあります(加藤忠史先生監修)。大塚製薬株式会社によるサイト。
ナミ様
お邪魔します。
つぶやきます。
「ノ、ノーチラスって、『オウムガイ』っていう意味だったのね…っ」
私の中では潜水艦…
ショーゲキ。
お邪魔しました。