「ネガティブ思考はよくないよ」
「考え方のクセを直しましょう」
そう言われて戸惑ってしまったことはありませんか?
頭でわかっていてもできないから悩んでいるのに、「それは認知の歪みです」なんて指摘されたら、ムッとしてしまいますよね。
そんないら立ちを解消し、心をラクにするにはどうしたらいいのでしょうか?
その答えが『マイナス思考と上手につきあう認知療法トレーニング・ブック』にありました。
注目は、現状理解する助けてくれる可愛らしいキャラクター。
嫌~な気分、もやもや感に支配されがちな人は、要チェックです。
自分と仲良しのユガミンを探そう!
うつや不安をうまくやり過ごすトレーニングとして紹介されているのは、次の5つのステップ。
ステップ2:ユガミン(認知の歪み)をみつける
ステップ3:考えの幅を広げてみる
ステップ4:行動で試してみる
ステップ5:信念に挑戦する
中でも注目したいのは、ステップ2に登場する「ユガミン」。取っつきにくい認知療法の用語をわかりやすくキャラクター化したものです。
ユガミンは、中学校保健体育の副読本『悩みは、がまんするしかないのかな?』の中でも紹介されています。
(こころの健康副読本編集委員会『悩みは、がまんするしかないのかな?』p.6)
「認知の歪み」なんて言われると、「歪んでて悪かったわね!」と言いたくなりますが、可愛らしいゆるキャラに置き換えれば、わりと素直に現状を客観視することができます。
言葉で考えると堅苦しいし、頭がうまく働かないときには、内容をスッと理解できないこともある。そんなときでも、ユガミンなら入りやすい。
難しく考えなくても、「自分が仲良しのユガミンはどの子かな?」と自問するだけでOK。
認知療法のハードルを下げてくれる優秀なキャラクターたちです。
【ジーブン】個人化、自己関連づけが得意なユガミン
【シロクロン】白黒思考、全か無思考が得意なユガミン
【ベッキー】すべき思考が得意なユガミン
【ラベラー】レッテル貼りが得意なユガミン
【ジャンパー】論理の飛躍、根拠のない決めつけが得意なユガミン
【フィルタン】心のフィルター、部分的焦点づけが得意なユガミン
【パンカー】極端な一般化が得意なユガミン
【マグミニ】拡大解釈と過小評価が得意なユガミン(magnification & minimization)
考え方の幅を広げる2つのワーク
『マイナス思考と上手につきあう認知療法トレーニング・ブック』の目的は、柔軟性のある心を育てること。
そのために必要なポイントが一冊にまとめられており、テキストを1ページずつ読み進めることで、認知療法のエッセンスを習得できる構成になっています。
メインとなるのは、2種類のワークシートです。
「みつめなおし日記」
考えの幅を広げ、バランスのとれた答えを導き出すためのツール
「行動実験ワークシート」
行動実験(自分を嫌な気分にさせた思考、新たに見つけた考えが現実的かどうかを確かめる実験)を簡単に行うためのツール
学校の授業のように、説明を聞きながら、先生お手製のプリントに書き込んでいくような形式で認知療法を学ぶことができます。
ワークでは、悩みを抱える3人が登場します。
女子大学生・鈴木さん(友人関係の悩み)
主婦・田中さん(家族関係の悩み)
それぞれの悩みを書き込んだワークシートを一つ一つ追いながら、本書は進んでいきます。
「どうやって書けばいいのかな?」と迷ったときでも、具体的なエピソードがあると、ぐっとわかりやすくなりますよね。
3人の考えや気分も共感できる内容なので、参考にしやすくなっています。
取り組みやすいワークを厳選
本書の魅力は、とにかくわかりやすいこと。
難しい用語を使わず、シンプルな構成でまとめられています。
取り組むのは「みつめなおし日記」と「行動実験ワークシート」のみ。2つだけでOKと思うと、かなり気がラクですよね。
もっと言うと、「みつめなおし日記」だけでも、つらい気持ちを和らげる効果は十分にあると思います。
「みつめなおし日記」は、多くの認知療法本が紹介する「コラム法」にあたります。
2.気分
3.自動思考
4.根拠
5.反証
6.適応的思考
7.心の変化
この7つの要素を順番に考えていくのが「7つのコラム法」です(まんまですね)。
根拠とか反証とか言われると「なんか難しそうだな……」と感じてしまいます。漢字が並んでいるのを見るだけで「めんどくさ」と思ってしまう人もいるのではないでしょうか?(私だけじゃないですよね!?)
でも、「みつめなおし日記」には、堅苦しい言葉は出てきません。代わりに書かれているのは、たとえば以下のような言葉。
「そのとき浮かんだ考えは?」
「その考えにくっついているユガミンはだれ?」
「その考えがそのとおりだと思える理由は?」
「その考えと矛盾する事実は?」
「親しい人が同じ考えで苦しんでいたら何と言ってあげる?」
などなど。これなら自然に答えを見つけられそうですよね。
認知療法にはさまざまな技法がありますが、本書は基本的なポイントに焦点を絞っています。あれもこれもと欲張らず厳選された内容なので、余計なエネルギーを費やすこともありません。
また、認知療法で重要な「紙に書き出す」ステップ、この実践部分を「やってみようかな」と思えるようにフォローしている本書は、まさに「トレーニングブック」の名にふさわしいテキストなんじゃないかなと思います。
周りの人とおしゃべりするような感覚で、肩肘張らず、自分の考えを書き出してみる。これをくり返すことで、きっと変化があらわれるはずです。
内容とはあまり関係のない感想
最後に、正直な感想を少しだけ付け加えておきたいと思います。
『認知療法トレーニング・ブック』を最初に手にして思ったのは、「すごい手作り感あるな~」ということ。白黒印刷で、使われている紙も学校で使うプリント教材のような感じです。しっかりした装丁を予想していたので、拍子抜けしてしまいました。
大事なのは、本のつくりよりも内容であることは間違いないのですが、せっかく魅力的なキャラクターがいるのに、このペラペラ感はもったいないな~と感じてしまったのは事実。前半で紹介した中学校の副読本みたいなカラー印刷の本を想像しちゃってたので余計に。
でも、書きやすい紙(筆記向きの質感)で、厚みも程よいので、テキストに直接書き込む派の人にとっては、使いやすいと思います。つるつるの紙や分厚い本ってワークブックとしては使いにくいですものね。
そう考えると、本書はワークブックとしての使い勝手を追求した品と言えるのかもしれません。
あと、これまた内容とは関係ありませんが、本書の奥付を見ると、著者名や共同執筆者名のうしろに、カッコ書きで「仲良しのユガミン」が書かれています。これを見ると、めちゃほっこりします。
発行人(出版社の社長さん)のお名前のところにも「仲良しのユガミン」が書かれていたので、勝手にアットホームな雰囲気を想像して、「いいね~」などと思いました。「本書ができあがるまでの制作秘話に迫る!」的な妄想ですね。
こういったことを考えた後に、本書を開きますと、素朴なつくりがより魅力的に見えてきます。
「この本は、先生がみんなのために使いやすくカスタマイズした特製トレーニング・ブックです!」
そんなふうに考えたら「ちょっとやってみようかな」と思えますね。
「難しい説明は苦手」
「やり方のバリエーションが多いと迷ってしまう」
「できるだけ安い本がいい」
そんな人には最適のワークブックだと思います。
<本日の一冊>
竹田伸也 (2012)『マイナス思考と上手につきあう 認知療法トレーニング・ブック ── 心の柔軟体操でつらい気持ちと折り合う力をつける』遠見書房
ブログ更新ありがとうございます。
マイナス思考とうまくつきあう。
そうですね。五木寛之氏も大河の一滴の中でマイナス思考とかもすごく大事なことではなかろかと言っています。
光があれば影があり、プラスがあればマイナスもあります。
治すでは、なくて治める。
そのようことも本の中で言っておられました。
続きです。
問題はそのつきあい方なんですけどね。
自己肯定的な考え方の癖をつけることでしょうか。