「うつ病は“心の風邪”ではありません」 啓蒙メッセージに込められた真意

heart

今日は、私が一人で納得した話をします。

「『うつ病は“心の風邪”』って誰が言い始めたのかしら?」という疑問から始まり、個人的な感想と戒めで終わります。

ウツウツ期から回復した今だから言えることだよなーという内容になっておりますので、今しんどい思いをしている方は、「大きな独り言を言ってる奴がおるわ」と遠目に眺める感じでお願いします。

 

「うつ病なんて心の風邪でしょ?」と励まされるのがつらい

うつ病は“心の風邪”。

ちょっと前までよく聞く言葉でした。最近は“心の肺炎”や“心の骨折”という表現で説明されます。

私自身、うつ病と診断されたときには「大変な病気になってしまった!」と絶望しましたが、「風邪みたいにちゃんと治るよ」というメッセージには救われました。

ただ、世間的にはそういったメッセージだけでなく、

「うつ病なんて風邪みたいな軽い病気なんでしょ」
「『病は気から』って言うじゃん、気持ちの持ちようだよ」

と捉えられることも多かったように感じます。超ウツウツ思考のせいで過敏になっていた、ということも大きいでしょう。

とは言え、「甘えているだけだ」「怠け者だからだ」と自分を責めていたときは、つらかった。こういう言葉に苦しめられたのは私だけじゃないんだろうなぁと想像します。

 

「うつ病は心の風邪」の本来の意味

元々“心の風邪”というのは、お医者さんたちの間で言われていたものだったようです。

認知療法の定番本『いやな気分よ、さようなら』には、こんなふうに書いてあります。

うつ病はあまりにありふれた病気なので、精神疾患の中でいわば風邪のようなものと考えられることもあるくらいです。

初版第一刷が1990年。20年以上前のことです。「近年うつ病が急増しています」なんてフレーズをよく聞きますが、20年前の段階ですでにうつ病は「ありふれた病気」だったと。

そして、「うつ病は心の風邪」という言葉が啓蒙のために使われ、広がっていった。私がうつ病と診断された頃に読んでいた本にも書いてあります。

誰がこの言葉を積極的に広めたのかはわかりませんが、何となく『いやな気分よ、さようなら』の影響は大きかったんだろうなぁと思います。ベストセラーとしてたくさんの人に読まれ、2004年には第二版が出ています。今なお多くの人がすすめる「うつ病のバイブル」です。

私もお世話になりました。

 

うつ病と風邪の決定的な違いは「死」!

わかりやすく伝えるためには、どうしても厳密な説明が省かれてしまいます。うつ病に限らず、どんなことでもそうですよね。メディアが私たちに説明するときには、専門的で難し~い部分を削って、シンプルに教えてくれます。

が、そのために誤解が生じることもあります。例えば、さきほどの引用文の次にはこんな説明が続きます。

しかし、うつ病と風邪ではひとつ決定的な違いがあります。それは風邪で死ぬことはまずありませんが、うつ病はあなたを殺すかもしれない、ということです。

「うつ病は心の風邪」。キャッチーでわかりやすい表現です。でも、それだけでは「死」というイメージが薄いですよね。

それでもこのフレーズが使われたのは、精神疾患に対する偏見があって、病院へ行かない人も多かったから。そういう人に「内科にかかるのと同じように診察してくださいね」と、受診のハードルを低くするために使われたと聞きます。

それはすごくいいことだった。効果もあった。

ただ、すべての人にちゃんと伝わるかというと難しい。周りにうつ病で苦しんでいる人がいなければ、実感は湧きません。

「へぇ~、“心の風邪”かぁ」
「うつ病ってそんなに深刻な病気じゃないらしいよ~」

私も自分がうつになっていなかったら、きっとそう言っていたんじゃないかと思います。

 

いちばん大切なところをすくい取りたい

精神科医がうつ病を「ありふれた病気」と考えるのと、医学知識のない私が「うつ病はありふれた病気」と考えるのでは、質がまったく違います。そりゃ見えている範囲が違うんだから当然です。

お医者さんは、体のしくみや病気のことを勉強しています。たくさんの症例を診ています。うつ病だけでなく、私が知らないような治療が難しい病気も。

そういう意味で、プロフェッショナルはやっぱすごいよね~と思います。私なんか、自分が経験した病気、うつ病や双極性障害周辺のことをチラチラっと調べているだけで気が遠くなるのに。

だから医療関係者の皆様を心から尊敬します。個人差はあるにしても、やっぱりすごいっす。医学部入れって言われても私絶対ムリですもん。自信持って言うことじゃないですけど。

いやね、別に医師や専門家の人たちを崇め奉るつもりはないんですよ。どんな世界にもいろいろなタイプの人がいますし、一括りにはできません。嫌な人や悪い人もいるでしょう。それでも、同じ土俵で語ることなんて到底できないよな~という思いは常にあって。

お医者さんだけじゃありません。看護師さんも薬剤師さんも臨床心理士さんも作業療法士さんもソーシャルワーカーさんも……みんなみんなすごい。

そういう人たちが語る言葉の中には必ず真実があります。

だからこそ、「それってどういうことかな?」「なんでそう言えるのかな?」と考える。わからないことだらけ、知らないことだらけだからこそ、はてなを持ち続けたい。

と言うのも、無知な自分を隠すために、知ったかぶったり、陳腐な正義をかざしてみたりするのが一番よくないなと思いまして。

それでもまだ足りないんでしょうけど、わけわかめのくせに「私はわかってます」って顔をしているよりは、「なんでだろ~?」と首をひねっている方が、苦しんでいる患者さんの気持ちに近づけるような気がします。

そうやって「なんで?」「なんで?」をくり返しているうちに新たな答えは見つかるし、自分でたどり着いた答えは納得できます。そういう自己満足も大切にしていきたいなと。

で、結局なにが言いたいかと申しますと、「うつ病は超つらいよね!」ってことです。

苦しんでいる人の心が少しでも軽くなりますように。

 

<参考書籍>
デビッド・D・バーンズ(1990)『いやな気分よ、さようなら ― 自分で学ぶ「抑うつ」克服法』 星和書店
デビッド・D・バーンズ(2004)『〈増補改訂 第2版〉いやな気分よ、さようなら ― 自分で学ぶ「抑うつ」克服法』 星和書店

▼お手頃価格のコンパクト版もあります。

2 COMMENTS

十夢

『うつ病は心の風邪』……僕も自分なりに解釈して悟った気持ちになってみたことがあります。
個人的には現状『心のガン』だと思っていますが、治った方から見れば風邪なのかなぁと想像します。
早期発見早期治療って意味でも、ガンと似てるのかなと思います。

>結局なにが言いたいかと申しますと、「うつ病は超つらいよね!」ってことです。

(笑)
これにつきます。

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ナミ

十夢さん、コメントありがとうございます。

なるほど、『心のガン』ですか。死に近いこと、あの苦しみ……そして、十夢さんがおっしゃるように早期発見早期治療という点でも共通項がありますね。まぁ、私ガンに関する知識がなくて、苦しみについては完全に勝手なイメージなんですけれども。

治った方から見れば風邪なのでしょうか……。でも、その方がそう感じられるまで回復されたのなら、それはとても喜ばしいことではありますね。でも、もしうつ病を経験された方に「うつ病は風邪みたいなもの」と断言されたら……やっぱりつらいです。まぁ、そう言う人はいないでしょうけどね。

人に伝えるための言葉選びは本当に難しい……日々勉強です。十夢さんのコメントから気づきをいただきました。ありがとうございます。

寒さが厳しくなって参りましたので、お身体を大切にお過ごしくださいませ。

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